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噂の子爵

「困ったことになった。まさかリリー殿が目をつけられるとは……」

 そう話すのはギャレットさん。ここはフロスト商会の商会長の部屋。


 慌ただしく店仕舞いをし、まだ祭りの最中だと言うのに、ジェフに連れられフロスト商会までやって来たのだ。

「ジェフ、説明してよ。訳が分からないわ!」

 そう言ってジェフを引き止めたのだが「もう少し待って。ここでは話せない」そう短く話し、ここまで連れてこられたのだ。


「ねぇ、まずは何がどうなってこの封筒を受け取ったのか聞かせてくれる?」

「いいけど、ちゃんと説明してよ? ……ミラとジェフが休憩に出たあと、お客様の流れが落ち着いてきて、ほっとしていたら随分と横柄な態度の男性がやってきて、街で人気の商品を扱っている魔女、つまり私を見に来たって言うの。その人は私の何が良かったのか、気に入ったから屋敷に招待してやるって言われて、お付きの人がこの封筒を渡してきたの。訳わかんないからもちろん行かないけどね!」


「リリー、この封筒に赤い蝋で紋章付きの封がされているだろう? その紋章はレール家の紋章だよ。そしてその男性はおそらくルドルフ・レール子爵。ある意味とっっっっっても有名な貴族だ」

 何よ、勿体ぶっちゃって。

「何よその、ある意味って」

「その……なんと言うか、女性に関して……ね」

 ゴニョゴニョと言葉を濁すジェフに次第にもどかしさを感じてきた。

「はっきり言ってよ、分かんないわよ! どんな人なのよ!」


「……好色魔なんだよ。気に入った女性を館に呼んでは、満足するまで弄んで、興味がなくなったらスラム街に放置」

………………

「うわぁ……」

「だからリリーが目を付けられて困ってるわけ。分かった?」


「なるほどね……でもさ、そんなやつの言うことなんて聞かなきゃいいんじゃないの? それに、そんな酷いことしてるなら被害女性から訴えられないのかしら?」

 そもそもそんな分かりきってる事なら行かなきゃいいのよ。すると、今度はギャレットさんが説明し始める。

「リリー殿、相手は貴族。貴族の言うことは絶対。黒いものも白くなるんだ。それに、スラムに捨てられた女性は初めのほんの数人。しかもどの女性も口を閉ざして他の地へ逃げるように去っていった。ここ数年はスラムに捨てられる女性はいなくなったが……館に呼ばれた女性は誰一人として帰ってこないんだよ。伯爵様も見るに見兼ねて動いてくれているが、証拠がないからどうしようもない。そんな時に……」

「そんな時に私が呼ばれた訳ですね」


 事態は思っていたより深刻そうね。その後も話を聞くと、初めのうちは子爵家の令嬢などを招待した、ごく普通の夜会だったそうだ。しかし、徐々にレール子爵の態度がエスカレートしていき、どの令嬢も夜会に参加しなくなっていった。すると、今度は平民に目を付け、見目美しい女性を館に招待。招待というより召喚ね。さっき私が渡された封筒も招待状と言うよりは召喚状と言っていいようだ。

 レール子爵は月に一度ほど街に現れ、ほんの数人に召喚状を渡していくそうだ。断れば……家族諸共首が飛ぶ。比喩ではなく物理的に……


「はぁ……さて、どうしようかしら」

 そんなことを言いながらも、取り敢えず封筒を開封してみる。

「日付は……明後日」

 感謝祭の最終日ね。

「私は……私は家族と呼べる人がいないわ。最悪召喚に応じないって手もあるけど、でも、そうするときっとミラやバースの村の人達に迷惑がかかる。だから……私行って来るわ」

「ダメ‼︎」

 そう言ってミラが私をきつく抱きしめた。

「ねぇミラ、ジェフ。私の力、知ってるわよね? 大丈夫よ」


 さっきからスノーの様子がおかしい。きっと何かある。あの子爵が店に現れた時、妙な感覚が私を襲った。それはきっと、スノーの様子がおかしくなった事と関係があるような気がする。


「リリー殿。貴方の力がどのような物か私には分からないが、何かいい方法があるのかい?」

 心配そうに見つめるミラ、ジェフ、ギャレットさん。


「……ごめんなさい。詳しくは説明できません。でも、連れ去られた女性たちを調べてみたいんです。それに、可能ならば救出したい。私には多分それが出来る」

「リリー、リリーの力は知っているよ。見たことも無い強力な魔法を使えることも、僕達の常識以外の特別な知識があることも。でもね、僕もミラちゃんも心配なんだよ」

 ミラはまだ私を離してはくれない。その背中を落ち着かせるようにトントンと叩いた。

「大丈夫よ! いざとなったら屋敷ごと消して空飛んで帰ってくるから! なんたって魔女ですもの!」

「リリー……シリアスな話してるのに……でも、リリーならやりかねないね。どうせ止めても行くんでしょ?」

「まあね。だから……止めるよりも私を信じて待ってて欲しいわ」

「リリィ〜。わた、わたし、リリーに、何か、あ、あったら……」

 そう言うと話もできないほどに泣きじゃくる。「大丈夫、大丈夫」と背中を撫でていると、扉をノックし、受付嬢が顔を出す。


「来客中に失礼します! しょ、商会長! 伯爵様の使者の方がいらしてます! お取次ぎしてもよろしいですか?」

 そう言うと、ギャレットさんは訳アリ顔で頷く。

「ああ、通してくれ」

 受付嬢は扉を閉めると急ぎ足でロビーへと向かっていった。


「ギャレットさん、伯爵様の使いの方ですか?」

 なぜここに伯爵様の使いの方が? そう思っていると、

「実はね、貴女方が来る前に既に子爵がこの街に来たことは検問所の警備隊から知らせを受けていたんだ。まさかリリー殿が目を付けられるとは思わなかったがね。それで貴女方が来て直ぐに使いの者を伯爵様の元へ向かわせたんだ。「魔女様が子爵に目を付けられた。」とね。さっきも言ったが、伯爵様は子爵の問題をどうにかして解決したいと望まれててね、冒険ギルド長、商会ギルド長を始め多くの人間が伯爵様の元へ情報提供するようにしているんだ」


 そうギャレットさんが話していると、再び扉がノックされた。


「商会長、ブローディア伯爵様の使者の方をお連れ致しました」

 そう言って受付嬢と使者が部屋に入ってきた。

「ああ、ありがとう。君は下がっていてくれ」

 ギャレットさんはそう言って受付嬢を下がらせた。


 伯爵様はなぜここへ使者を寄越したのだろう、どんな意図があるのかは分からないが、とにかく話を聞く必要がありそうだ。






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