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水の街、ブローディア

「ふぁ〜! よく寝た……」

 大きな欠伸をして大きく背伸びをする。まだ日は昇っていないが目が覚めてしまった。ミラはまだぐっすりと眠っているようだ。ミラを起こさないようにそっと外へ出ると、ジェフもまだ起きてはいない。

 テントから少し離れ、スノーへ近づく。


『おはよう、リリー。よく眠れたか?』

「ええ。もうぐっすり眠っちゃった。スノーは? ちゃんと休めた?」

『ああ。ちゃんと休んだよ』

 そう言って頭を私の胸に擦り寄せてきた。


 なんだろ? 甘えてるみたい?

 そのまま、たてがみ、額、首筋と撫でてやるとハムハムと腕を甘噛みしてくる。

「ふふっ。くすぐったいよスノー」

 そうしてスノーと戯れていると、膨れたロジーが飛んできた。


『ずるいよスノー。僕だってリリーとくっつきたいのに! ねぇ、リリー! 僕も撫でてよ』

 何だか小さい子のヤキモチみたい。

「しょうがないな、二人が起きるといけないから少しだけね」

 そう言って小さなロジーを撫でようとしたら、ボフンッ! と大きくなったロジーが胸に顔を埋めてギュッと抱きついてきた。

『リリーおはよ。リリーは暖かくて気持ちいいね』


……………………


 ピシッ。


『なんで⁉︎ なんでスノーは良くて僕はダメなのさ! ねぇリリーってば〜! ねぇ!』


 そんな、朝のちょっとした一時を過ごした後、起きてきた二人と朝の支度をし、街へ出発したのだった。


ガタガタと馬車を揺らし、二度の休憩を挟み、とうとう……


「さあ、見えてきたよ! リリー、ミラちゃん」

「うわぁ〜! 大っきい!」

「ほんと! 立派な街ね!」

 広くて深そうな水路に囲まれた立派な街が見えてきた。まるでお城のお堀のようだ。


 街へ入るには水路に架かる大きな橋の先にある門を潜らなければいけない。門では簡単な検問があり、身分証を提示して街へ入る者の姿が見受けられた。

「ねぇ、ジェフ。私身分証なんて持ってないんだけど大丈夫?」

「あ、ジェフリーさん。あたしもです」

 身分証って街の皆は全員持ってるのかな? 私、身分不明の怪しい経歴の持ち主なんですけど……

「大丈夫だよ。僕の身分証があれば二人とも入れるから。二人には簡単な書類を書いてもらわなくちゃいけないけど、住んでる村と名前と年齢とあと、滞在理由を書くだけでいいからね。リリーはバースの村の名前を書くといいよ。滞在理由は感謝祭での露店出店の為でいいかな」

「そうなのね。安心した」

「それでは行きますか、お二人さん」

 そう言って門の前の列に並び、検問を待つ。しばらくすると私たちの番になり、ジェフは身分証を提示する。

「この二人は僕の連れなので手続きをお願いします」

「ようこそブローディアへ。この街は初めてかい?」

「はい。手続きよろしくお願いします」

「じゃあ、二人はこっちで書類を書いてくれるか?」

 そう言って長いカウンターのような場所でペンを持つ人が数人、書類を書いていた。何だか市役所みたいね……

 私達も必要事項を記入して警備兵に渡す。

「うんうん。大丈夫だね。ん? 君達バースから露店を出しに来たの?」

「ええ。連れの男性のご好意で露店を出させて頂くことになったんです」

「失礼だけど、もしかして……バースで有名なハーブの魔女様?」

 な、何でそれを⁉︎

「魔女様はこっちの彼女ですよ」

 そうミラが私を指差す。

「そうでしたか! バースから出店するのは一店舗だけでしたので、もしかしてと思いまして。有名な魔女様にお会い出来て光栄です。ブローディアの街を楽しんでくださいね。それでは行ってらっしゃいませ」

 そう言って笑顔で送り出してくれた。


「ねぇ、どういう事?」

 バースの村でなら魔女様呼びは分かる。でも、遠く離れたこの街でなぜそう呼ばれるかが分からない。それに、この街に商品を売っているのはミラと孫ちゃんズが作った商品だ。

「いや実はさ……」そう言ってジェフは説明を始めた。

 話を聞いてみると、村に買い付けに来ていた商人が村で魔女様と呼ばれてる私の事を知ってしまい、悪い噂を広められると思ったソニアさんが「この村で作られているハーブの商品の生みの親で、ハーブの魔女様って呼ばれてるんだよ。ここの工房の六人はその魔女様の弟子達なのさ」って言ったとか言わないとか。


「って事でバースで作られてる商品は、【魔女様印のハーブグッズ】として、この街で大人気! になっちゃった・・・。事後報告でごめん」

ソニアさん……確かに悪い噂が広がれば私は国中から敵視されて国を追われる……なんて事も有り得るかもしれない。それをソニアさんが機転を利かせて護ってくれたのだ。ここはソニアさんに感謝すべきなのだろう。


「いいわ。逆にありがとうって言わないとね。私、皆に助けてもらってばかりね。こうなったらとことんハーブ商品売るわよ〜!」

「あたしも頑張るわよ〜!」

「あははっ、二人とも張り切りすぎて空回りしないようにね」


 街はとても活気があり、そして【水の街】と言われる由縁も納得が出来た。


「あ、そうだ、忘れるところだった。リリー。馬車は商会に返して、荷物も預かって貰うけど、リリーの馬はどうする?商会で預かってもらう?」

そう言った所で……ドン! と言う音と共にミラがよろけた。


「きゃっ!」

 ミラが観光の団体とぶつかってよろけ、ジェフが助けに行く。


 そ、そうか! このまま馬を連れて街中を歩くわけにいかないのか!

(私はリリーと離れるのは嫌だぞ)

 そう直接頭に話しかけられる。

 ロジーはペンダントにいるからいいとして、スノー。あぁ、どうしよう!

(二人とも何か良い手はない?)

(人化すれば良いだろう。この街は人が沢山いて、色んな種族がいるようだ。目立ちはしまい)

(でも、突然預けた馬が消えたら商会の人達がビックリしちゃうでしょ! ねぇ、ロジーは何かいい考えない?)


『……』

(あれ? ロジー?)

(……スノーはリリーと二日もベッタリだったんだから、少しくらい離れても平気でしょ。いい気味だよ)


ん? 何か……拗ねてる?


あ‼︎ 今日の朝のアレか‼︎ 道理でずっと静かだと思った……拗ねてたのか‼︎


(ロジー、お願い! 何かいい方法一緒に考えて。上手くいったらロジーのお願い一つだけなら何でも聞いてあげるから! ね? お願い!)

(……ホント? 約束だからね! 絶対だからね!)

 ロジーはそう言うと、ペンダントトップからフッと気配を消した。


「リリー、ごめん待たせちゃって」

 ジェフに助けて貰ったミラが戻ってきた。


 あぁ、ロジー! 助けて〜!


 すると、遠くから真っ赤な髪の青年が駆けてきた。

『リリーーー!』

 ロジーはそう言ってギュ〜っと抱きついてきた。


ーーーーーロジー‼︎なんて事を‼︎


「え?」

「だ、誰?」

 二人は突然の光景にロジーを訝しげに見る。

(ロジー! 何やってるの!)

(まぁまぁ、僕に任せて!)

 心の中にそう伝えてくるロジー。


『リリー久しぶりだね! 会いたかったよ! 遠くからリリーっぽい人いるなぁ、って思ったら本人なんだもん!』

これは……知り合いの振りをしてるのか?


「ねぇ、知り合い? 随分と……親しそうだけど。」

 ジェフはまだ不審がっている。そうだよね! いきなり抱きつくなんて怪しすぎよね!


『はじめまして! 僕はリリーの恋人です!』

 ブッ‼︎

「違う! い、いとこ‼︎ 二人共、いとこのロジーよ!」

 何とんでも発言してるのよ!

『え〜、いいじゃない』

「馬鹿な事言わないの。ほら、二人が変な顔してるじゃない」


「リリー、いとこなんていたんだ。初めて聞いたからビックリしちゃった。この街に住んでるの?」

 そう聞いたミラにロジーは……

『そうだよ。時々リリーの家にも泊まりに行ってるんだよ』

 なんて、それらしい事を言っている。

「ただのいとこにしては、随分と親しくない?」

 未だに抱きつきながら離さないロジーを見てジェフは余計に不審がる。

『え〜? 普通だよ? いつもこうしてギュ〜ってするんだもんね? リリー!』

 何てキラキラした顔で見つめてくるんだ‼︎ 二人に変な誤解を与えないでよ‼︎


「や、やだな〜! 冗談がすぎるぞっ。ほら、ロジー離れて。二人が誤解しちゃうでしょ?」

(後で、うんっっっっっと甘やかしてあげるからやめなさい‼︎)

(言ったね? 忘れちゃダメだよ! それと、何でもお願い聞いてくれるんだよね?)

 しまった‼︎ついそんな事を言ってしまい、激しく後悔する。

 な、何お願いされるんだろう……うう〜失敗した〜。


 その後は終始ご機嫌なロジーに振り回されるリリーだった。



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