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輝くたてがみ

「さて、スノー。体はもう大丈夫そう?」

 そろそろ家へ帰らなければならない。辺りは日が落ち始め薄暗くなってきた。

『ああ、もう大丈夫だ。体が羽のように軽いよ』

 そう言って蹄で地面を掻く。

「じゃ、帰ろっか。ロジー、スノー、行こう」

 そう言って歩きだそうとすると、スノーが目の前に立ちはだかった。

『主殿、私に乗っていけ』

 そう言って、前脚を折り跪いた。

「え? いいの? 私、乗馬とかした事ないんだけど……」

 馬に乗ったことなど一度もない、むしろ見たことも無く、今日初めて見たのだ。乗馬は難しいとも聞く。

『大丈夫。絶対に落とさないし、揺れも感じさせないよ。さぁ、乗って』

「う、うん」

 言われるがままスノーに跨る。乗ったはいいがどこで体を支えればいいか分からない。

『たてがみをしっかりと持って』

「痛くないの?」

『大丈夫。さあ、立つぞ』

 そう言うと、ゆっくりと立ちが上がる。


「うわ! すごい眺めね。高いところからの視線って全然違うわ!」

 視線が高くなっただけで、世界が違って見えるようだ。ロジーはちゃっかり私の肩にちょこんと座っている。

『ふふふ、まだこんな事で驚くのは早いぞ。さぁ、しっかり掴まって』

 そう言うと……ふわりと空を駆ける。

「うわ! スノー! 空を飛ぶなんて聞いてない!」

 こ、怖い! あまりの高さにスノーにしがみ付く。

『大丈夫だ。絶対に落とさないから。さて、どっちに行くんだ?』

 そう聞かれたが、もういっぱいいっぱいで答えられない。するとロジーが『あっちだよ。森を出たすぐの所に家がある』そう答える。

『分かった。それではゆっくりと行こうか。主殿は臆病だな。ふふふっ』

 それからスノーは怖がる私を背に乗せ、ゆっくりと空を駆ける。揺れは感じない。既に日が落ちてしまった為辺りは暗いが、月明かりが照らす夜空はほんのりと明るい。その夜空を優雅に駆けるスノー。

「綺麗ね……」

『今日は満月も近いから、月の光が強い。夜の景色綺麗だろう?』

「ううん。景色じゃなくてスノーが綺麗って言ったの。綺麗なたてがみ……」

 そう言ってたてがみを撫でた。スノーのたてがみは月明かりを浴びてキラキラと輝いている。

『主殿。あまり私を甘やかしてくれるな。一時も離れたくなくなる』

 神獣として人間から崇められてきたスレイプニルは、触れられる事も、ましてや撫でられる事など今まで一度もなかった。神獣として常に気高くあるべきと信じていた理想は、解呪の際リリーに撫でられたことにより崩れ落ちた。


 神獣スレイプニルはリリーにあっさりと堕ちたのだった。


 あっという間に家に着き、スノーから降りる。

「ありがとうね。最初は怖かったけど、スノーが気を使ってくれたおかげで夜空を見る余裕まで出たわ」

 そう言って首筋を撫でる。

『どういたしまして。またいつでも連れていくよ』

「さて、もう遅いわ休みましょ。」

 と、そこで気付く。

「あれ? スノーはどうする? その姿じゃ家の中には入れないわよね」

『それなら心配はいらない』

 

 そう言うと柔らかな白い光に包まれるスノー。光が収まり現れたのは、がっしりとした体にたてがみを思わせるような白に近い銀髪。黒い瞳。百八十を優に超える長身。


『やっぱりスノーも人化出来たんだな』

『神獣だからな。こんな事は簡単さ』

「スノー?」

『力を持った神獣や精霊は人化が出来るんだ。ロジーも人化しているだろう? これで何も問題ないだろう。さあ、家に入ろう』

 いやいやいや、ロジーは弟みたいな感覚だからまだしも、スノーの様な大人の男性の姿はさすがに抵抗がある。

『どうかしたか? 主殿』

『リリー早く入ろうよ』

「あ、うん。今行く」

 平気平気。今ここにいるのはバラと馬よ。精霊と神獣に対して失礼な物言いだが、何とか割り切る。


 部屋の中に入り、明かりを灯す。

「さてと、今日採取してきたものは明日整理するとして、お腹すいちゃったからご飯にするね。ロジーはどうする?」

『僕、ローストサンシードがいい』

 余程気に入ったのだろう。サンシードをおねだりされる。ロジーは小さいから二粒もあれば十分らしい。

「スノーは? 神獣って何食べてるものなの?」

『私の事は気にしなくてもいい。物を食べるという概念がないからな。食べれないこともないが、人や獣と違い何も食べずとも生きていける。主殿はゆっくりと食事をするといい』

 ソファにゆったりと座りそう告げた。


「そうなのね。でも、別に食べ物を口にしてはダメとかじゃないのよね? だったら少し食事に付き合って。皆で食べれば美味しいでしょ? それと、その主殿って止めない? 私の事はリリーって呼んでね」


 そう言って私は夕食の準備を進めた。

『人と関わるのは初めてなものでな。リリーが望むのならそうしよう』


その日は三人で夕食を囲み、早めに就寝した。ロジーは核に戻り、スノーはソファでいいと言うので私は寝室でぐっすりと眠ったのだ。


 翌日起きた時、隣にスノーが寝ていて飛び起き、懇々クドクドとお説教をする羽目になったのは想定外の事。



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