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伝説の神獣

「……………………」

『あの、リリー? ……ごめんなさい……』

 仕方が無い、仕方が無い、あんなに強力な効果とは思わなかった。だから仕方が無い! ロジーは無自覚! 仕方が無い‼︎

 二人は水を被りずぶ濡れのまま、ロジーは何故か正座し、私は膝を抱え真っ赤な顔を隠していた。ロジーの顔を直視できない。

『リリー……』

 チラリとロジーの顔を見ると泣きそうな顔になっていた。

「ロジー、ちょっと待ってね。怒ってないから泣かないでね。恥ずかしくて顔上げられないだけだから。あと、小さくなってもらっていいかな」

 膝を抱えたままそう伝える。

『う、うん』

 そう言ってロジーは小さな精霊の姿になった。


「ごめんねロジー。鑑定結果でちゃんと誘惑の文字があったのに甘く見てた私が悪かったわ。精霊にも誘惑が効くのはびっくりだけど……」

『僕も驚いた。あの香りを嗅いだ途端、頭がぼーっとなってフラフラして気付いたら僕、とんでもないことを……僕、リリーのこと大好きだけど、あんなことするつもりはなかったんだ』

「分かってる。ロジーは悪くないよ。鑑定結果を甘く見た私が悪いの。とにかく、このままじゃ風邪引いちゃうから乾かしましょ」

 私はロジーに向け、両手で乾燥の魔法を使う。気持ちよさそうに目を閉じフルフルと髪を揺さぶる。次に自分の体も乾かす。もう何度も使った魔法なので要点をバッチリ押さえ、あっという間に乾かすことができる。

「乾いたけど、体冷えちゃったね。ロジー寒くない?」

『僕は平気だよ。それよりリリーが心配』

「焚き火でもして少し休憩しましょ。体が暖まるわ」

 そう言って二人で焚き火に使えそうな小枝や折れて乾いた枝を見つけ焚き火を組む。火を着けるとパチパチと心地良い音が響く。

 焚き火に当たりながら魔法でお湯を沸かし、カモミールティーを入れる。

「ロジーも飲まない? 暖まるよ」

 そう言ってみたが、ロジーはフルフルと首を横に振った。

『僕はいいよ。その……大きくならないと……』

 そうだった。カップは普通のサイズのカップ二人分だけ。飲むならロジーは大きくならないといけない。私に気を使って大きくならないつもりだろう。

「う、ごめんね。時間が経てば大丈夫だから」

 暫くはギクシャクしてしまうが、時間が解決してくれるだろう。


 採取したスウィートカナリーの枝は封印決定ね。果実は希釈すれば問題なさそうだが、暫くは遠慮したい。


 十分に体を温めた後は二人で採取を再開した。

 その後、数種類の木の実や果実、野草などを見つけアイテムボックスは沢山の素材で潤った。

「結構奥まで来ちゃったね。そろそろ帰ろうか」

 そう言って帰ろうとした時だ。


 ザワりと辺りの魔素が揺らいだ。

「何、これ。やだ、なんか嫌な予感」

 突然森の中のざわめきが消え、動物達が全部逃げ出したんじゃないかってくらいの静けさが訪れる。


 すると、森の奥から茂みをかき分けこちらに近づく大きなもの。それの黒く大きな瞳と目が合ってしまった。緊迫した空気に息をするのも忘れ、体は硬直し逃げることも出来ず、全身から血の気が引いていく。


 それは、とても大きな白い馬だった。

 白い大きな馬は一見しただけで、ただの馬ではない事が感じ取れた。手が、足が震える。だが、膠着状態は長くは続かなかった。


 目が合いしばらくした後、白馬はグラりと傾きドスンと言う音と共に倒れた。

「はぁ、はぁ、はぁ、な、何なの? ロジー、大丈夫?」

 息が出来なかったせいか呼吸が荒い。ロジーを見ると真っ青な顔をして動かない。いや、動けないのだろう。

 倒れた白馬をよく見ると、体中傷だらけで血が吹き出していた。そして、正面からは分からなかったが、何と脚が八本あった。

「魔獣なのかな。でも、魔獣とは何か違うような。何だろう体中に嫌な気配が漂ってるね」


『ス、スレイプニル……』

「え?」

 ロジーはやっとの事で小さく言葉を発した。

『スレイプニルだよ。リリー。この世界にたった一体しかいない八本脚の神獣。どうしてこんな所に……』

 神獣。確か本に書いてあったはず。それはこの世界に何体か存在する神聖な存在。それなのに、

「なんて穢れなの。体中の嫌な気配は穢ね。呪い?」

 魔素とは違うどす黒いオーラがスレイプニルにまとわりついていた。

「ロジー、助けないと」

『でも、どうやって?』

穢れ……呪い……そうだ! 解呪のホワイトセージ!!

「ロジー、ホワイトセージよ! 手伝って!」


 アイテムボックスからホワイトセージの束を二束取り出し、一つをロジーに渡す。本来ならば束をバラしてリーフだけを摘み取り使用するが、今回はそれでは弱いと感じる。

「いい? ロジー。この束に火をつけるからスレイプニルの上空から円を描くように降下してきて。私は地上の浄化をするわ」

 そう言って二束のホワイトセージに火を着ける。しばらく燃えていたが、すぐに炎を消す。

『消していいの?』

「いいのよ。浄化方法は煙で燻すことよ。さぁ、行って!」


 私が送り出すとロジーは空高く飛び上がった。上空では円を描くようにゆっくりと旋回する。

「あとは、私ね」

 ホワイトセージの束を持ち、魔力を流す。そして、スレイプニルの周りをゆっくりと煙で満たしていく。焦らず、ゆっくりと時間をかけて浄化をする。


 どうか、穢れが消えますように。呪いが消えますように。私はあなたを助けたい。心の中で何度も呟きながら唱える。

 ロジーも上空からゆっくりと旋回しながら降りてきて、私の元へたどり着く。

 既に炭と化したホワイトセージの束を手で握りつぶし粉々にし、魔力を乗せた息を吹きかけスレイプニルへと飛ばす。すると……


 炭はキラキラと輝き、煙で満たされたこの空間が、地上から天へと一気に清浄な空気が突き上がる。まるでこの空間だけが光り輝いているようにも見えた。スレイプニルを見るとどす黒いオーラは完全に消えていた。

「成功ね! よかった……」

 緊迫した状態から解放され、力が抜ける。思わず膝を突いてしまいそうになったが、そうはならなかった。

『おっと』

 ロジーが体を支えてくれた。

「ごめんね。さすがに魔力使いすぎたわ。いくら魔力が無限にあると言っても疲れるものね」

 大きくなって支えてくれたロジーだが、今は恥ずかしさはない。それどころではないもの。

「ロジー、ありがとうね」

 そう言ってからスレイプニルに近づき、たてがみ、額、頬と優しく撫でる。

「誰がこんな酷いことを……」

 神聖な神獣に呪いをかけるだなんて、人の成せる事ではないわね。


 しばらく撫でていると、ピクリとスレイプニルが動いた。

「ん、もう大丈夫よ。穢れは祓ったわ、安心して」

 そう言うとスレイプニルはゆっくりと目を開き立ち上がる。

 大きな黒い瞳でしばらく見つめられていたが……


『私を救ったのはお主か?』

そう聞こえてきた。不思議な感じ、脳内に直接話しかけているみたい。

「ええ。もう解呪は終わったわ。あなたは神獣、スレイプニルよね? 何があったのか聞いてもいいかしら?」

『まずは私を救ってくれた事、礼を言う。お主に救ってもらわなければ呪いがこの身を焼き付くし、世界を滅ぼす災厄の存在に成り果てていただろう。私に呪いをかけたのはここよりさらに西の地の……人間だ』

 スレイプニルの言葉に衝撃が走る。

「人間ですって⁉︎  神獣に呪いをかけるだなんて! なんて事を!」


 怒りで目頭が熱くなる。

『悲しいことだ。神獣として崇められてきたが、人間から呪いをかけられるとはな。それにしても、お主は不思議な魔力を持っているな。少し、話をしないか。お主に興味が湧いた』

 スレイプニルはそんなことを言い、私の話を聞いた。

元はこの世界の人間ではない事、命が消える瞬間神様に拾ってもらった事、この世界での私の役割。

 

『お主は神の使徒だったか。道理で……この世界の人間とは違った魔力を持っていると思ったのは間違いではなかったのだな』

「神の使徒だなんて大袈裟よ。命を拾ってもらったお礼に神様のお願いを聞いてるだけだもの」

 そう言ってくすりと笑う。神の使徒だなんて、そんな立派な事じゃないわよ。

『そうか、命を拾ってもらった代わりに、か』


 そう言うとスレイプニルは前脚を折り跪いた。

『お主に拾ってもらったこの命。お主の従神となり尽くすと誓おう』


『リリー、神獣まで従えちゃうわけ? 神様レベルだよ?』

 呆れ顔のロジーが呟いた。

「いやいやいやいや! ねぇ、さすがに神獣を従えるだなんて出来ないわよ!」

『お主はリリーと言うのだな。リリー殿、私に名を付けてはくれないか?』

「ねぇ、話聞いてる? 従神だなんて……せめて……と、友達とか!」

『ブッ‼︎ 神獣を友達扱い‼︎ あはははは‼︎ そっちの方がおかしいよ‼︎ あはははは‼︎』

 ロジーは涙目で大笑い。

「そんなに笑わなくていいじゃない! もう!」


『お主は細かいことを気にするな。その小さき精霊と同じような扱いで構わない。従神だろうと友達だろうと、お主のそばにいる事には間違いないのだからな。どうだ、名を付けてはくれないだろうか?』

「う〜、分かったわよ」

名前ね……う〜ん……白い馬、綺麗な白、大きな瞳。スレイプニルを見てパッと湧くイメージ。

「スノードロップ。純白の花で、花びらの形が貴方の瞳の形と似ているわ。『スノー』なんてどうかしら?」


『スノー』

 スレイプニルは呟くと、私に近づき額を合わせるようにくっつけた。すると淡い光があたし達を包み込んだ。

『ありがとう、リリー殿。私の名はスノー。無事契約完了だ』

「契約? どういう事?」

『何を言ってる、その精霊とも契約しているだろうが。だから私も契約させてもらったよ』

 スノーの言ってることが分からない。ロジーを見ると……

『あ〜ぁ。今更だから言うけど、この世界での名付けってね、契約の一部なんだ。僕はまだ花だった頃にロジーの名前を貰ったでしょ? その時にリリーと僕は契約した事になってるんだ。だから、スノーとリリーも契約した事になるよね。まあ、簡単に言うと、名前を貰った側が名付けてくれた相手に従うよ〜。的な?』

「それって結局従神にしたって事じゃない! スノー!」

『ははははは。良いではないか、どの道私はリリー殿の傍にいるんだ。よろしく頼むよ主殿』


「もう! ロジーも知ってたなら止めてよ!」


 私の叫びは森のざわめきと共に消え去った。













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