あれから
あれから早くも一ヶ月が経とうとしていた。
「クラウスさんとフレドリックさん、無事に合流出来たかな。合流出来てれば王都に着いてる頃だよね」
二人が王都へ出発し、しばらく経ってから、私はまたバースへ行った。その時ソニアさんに、「実は……」と二人に出会った経緯を話したところ、目を見開き驚愕の表情を見せた。
「あ、あんた、王都の騎士様って言ったらとんでもない人だよ! それに、名前! もう一回フルネームで言ってみな」
「えっと、クラウスさんがクラウス・フォン・ウィンザーベルクで、フレドリックさんが、フレドリック・フォン・ブラバンドールだったかな?」
「はぁ〜……」
何故かソニアさんは大きなため息を吐いた。
「いいかい、リリー。その方々は貴族だよ。その貴族に向かってファーストネームにさん付けとは」
「ソニアさん、意味が分かりません」
全くもって意味が分からず話についていけない。
「リリー向けに簡単に言うと、貴族にはファミリーネームがあって、名前を呼ぶ時はファミリーネームに様をつけて呼ぶんだ。ウィンザーベルク様とブラバンドール様ってね。貴族に向かって失礼な物言いは不敬にあたり罰せられることもある。相手が騎士様で、あんたが命を助けた事もあって目を瞑ってくれたんだろうね。こんな田舎じゃ会う機会もないからね。あんたが知らなくても仕方ない」
そう言えばクラウスさん、「クラウスさんなどと呼ばれたことがない」的なこと言ってなかったっけ? それに、フレドリックさんにも「問答無用」だの「口答えしない」だの言ってしまったような気がする。
「……………………」
「リリー、あんたの事だからまだ何か言ってないことあるんじゃないかい?」
ソニアさん鋭い!
「ソニアさん、騎士の誓いって知ってます?」
「そりゃ、知ってるさ。忠誠を尽くす相手に片膝を立て、剣を差し出し誓うんだろ」
途中から話を聞いていたジェフが、言葉を付け足す。
「相手に逆らわない意志を伝えるために、剣の柄を相手側に差し出し、受け入れてもらえれば剣で肩を叩かれる。相手に柄を向けるって事は、剣を鞘から引き抜き刺されても構わない。と言う意思表示だよね」
「ジェフ、詳しいのね」
「それほどでも。それで? どうして騎士の誓い?」
うっ……これは何て言ったらいいのか。
「リリー、吐きな」
ソニアさん、怖いです。
「えっと、その、クラウスさん、クラウス様? ウィンザーベルク様? に、騎士の誓いとやらを、あの。えっと」
しどろもどろになりながら説明する。
「それで、いつか再会する日までこれを傍に置いてくれって」
アイテムボックスから短剣を取り出し両手で持ち、二人に見せる。
「…………」
「はぁ?」
というやり取りが木漏れ日亭で交わされたのだった。
暖かな日差しの元、私は今ローズガーデンの中央に設置した屋根付きのベンチに座り、綺麗に咲き誇ったバラを眺め、ティータイムをしている。ベンチにはローズアーチとは別の、つる性のバラが這っていて、淡い黄色の花が屋根まで覆っている。
この一ヶ月、ここと村を行き来し村の人とも仲良くなった。
一人は、家の屋根の修理をしていた際、屋根から落ちて腕と腰の骨を折ったハリスさん。小さな二人の男の子のお父さんだ。まだまだ働き盛りで子供も養わなければならないが、満足に動くことも出来ない。そんな時ハリスさんの奥さんに、何かいい薬はないかと相談された。
さすがに骨折を治す薬はなく、鎮痛剤くらいしか思い浮かばなかったが、「二人の息子さんの為に」と、治癒魔法を使い治療した。
私はハリスさんに「治してもらったお礼に何かさせてくれ!」と頼み込まれ、ベンチを作ってもらったのだ。
それが、この屋根付きベンチ。しかもなんとこれ、ベンチがスイングします。ブランコみたいです。
その後も何か作ってもらいたい時はハリスさんに相談して作ってもらっている。報酬は私が作る、ジャムやスイーツ。
もう一人は……
「リリー! お待たせ!! ごめん遅くなっちゃって。はいこれお土産」
元気にローズガーデンへ入ってきたのは若草色の髪の女の子。
名前はミランダ、十八歳。私、お友達が出来ました。
「ミラ、こんなにいっぱいのお野菜どうしたの?」
「お母さんが魔女様に持っていけって。この間のハーブティーのおかげで調子いいみたいよ。それに、なんだかお肌の調子が良くて若返ったみたい」
「それは良かった」
ミラのお母さんは昔から貧血らしく、目眩や立ちくらみが酷かったらしい。
ただ、この国には「貧血」と言う知識がなく、原因不明の病気とされていた。
そこで、ハイビスカス、ローズヒップ、ネトルのブレンドティーを試してもらった。
【ネトル】☆
血液促進効果。
ビタミン鉄分が豊富。
【ハイビスカス】☆
美容効果、疲労回復効果。
ビタミンC、クエン酸、リンゴ酸が豊富。
【ローズヒップ】☆
美肌効果。
ビタミンCが豊富。
私の鑑定スキル、成長しました。どんな効果が出るのか簡潔に、何が豊富に含まれるのかも簡潔に鑑定出来るようになりました。そして、時々とんでもない効果の表示が出るハーブも確認済み。恐らく☆の数はレア度。とんでもない効果のハーブには☆が六個付いてました。それは後ほどご紹介しますね。
「ハイビスカスとローズヒップは美容効果が高いからね。別に病気じゃなくても飲んでいいのよ? お肌ツルツルになるんだから。ただし、飲みすぎはダメ。何でもいいものだからって取りすぎると、痛い目みるからね」
「へぇ〜! じゃあ、あたしも飲んでみようかな!」
「ミラはまだ若いんだし、お肌ツルツルじゃない」
そう言うと、ミラは前髪を手で上げて額を見せた。
「これよこれ」
そこにはニキビが出来ていた。
「なるほどね、それなら別の物がいいわ。後で調合してあげる」
そんな会話をしながら二人でティータイムを楽しむのであった。