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フランジパニ

長らくお休みして申し訳ありませんでした。言い訳は活動報告の方にチョロっと載せておきましたので気になる方はどうぞ。

 フランジパニ目前でのクラーケンの襲撃も、アズレアが誇る騎士たちの前では呆気なく倒され、無事フランジパニに到着した。

 

 乗船していた人や荷物には被害は無かったのだが、船体には戦闘の傷跡が所々に目立つ。特にエアさんのぶん投げたミスリルのフォークは船体に深く突き刺さり、甲板に大きな穴を開けていた。


 ちなみに今回の襲撃者であるクラーケンは港に着いてすぐに解体され、希少素材となるクラーケンの嘴、水晶のように硬く輝く目玉、青銀色が美しい魔石、薬の材料となる墨袋などが取れた。


 そして残った不要な体は破棄されようとしていたので、私が後で処理するからとアイテムボックスにしまってある。だってタコだよ?船を襲いはするが、縄張り争いの為だけで、人は食わないって聞けば……ねぇ? 食べるよね? タコパ……出来るよね?

 こちらの世界ではクラーケンを食べる週間はないとの事だが、いつかみんなにたこ焼きをご馳走しようと考えている。


 私がたこ焼きで頭がいっぱいになっている傍では、仲良し二人が話に花を咲かせていた。


「エア……さすがにアレはないだろう。もう少し戦い方を考えろよ……」

「はい? アタシはちゃ〜んとダグちゃんの許可貰ったわよ? 船壊すかもって。そしたらダグちゃん、「命が一番、船は後で直す、思いっきりどうぞ!」って言ったから久しぶりに張り切っちゃった」

 ウドルフさんの苦言に、エアさんはテヘペロ!とでも言いそうだ。と言うか海賊……じゃなかった、船長のダグラスさんをダグちゃん呼ばわりか。何ともエアさんらしい。


「いや、だがな。そう言われて思い切り壊す馬鹿がどこにいる? 騎士たるもの市民の大切な物流手段である船を壊すなどなぁ……」

「アタシは騎士じゃありません〜。リリーの護衛です〜。リリーを一番に考えた結果の行動ですぅ〜」


 うん。やいやいと言い合う二人は置いておこう。仲がよろしいようで何よりだ。

 ダグラスさん曰く、船体は海の魔物の襲撃を見越している為、修理用の材料は停留する港々に常に保管してあるので、修理が終わり次第次の島へ向かって出発するそうだ。

「こんな傷跡、命に比べたら大した事ないさ!」

 そう笑って私達を送り出してくれた。


「あ! ちょっとリリー! 待ってよ〜!」

 慌てて走ってくるエアさんを苦笑いをしつつ迎え、今日の宿である海沿いの宿へ向かった。今日は一晩ここでゆっくりと疲れを癒し、明日の朝マサさんの第二の故郷である村へと出発する予定だ。

 ウドルフさん達は私たちとは別行動で、連絡船とは別の船で私たちより先にセラダイン島へ向かう予定だ。

 ただ、セラダイン島の住人たちは俗世との関わりを遮断しており、「歓迎はされないわよ……」とエアさんが苦々しい顔でウドルフさんに警告していた。恐らくエアさんもセラダインの住人たちから何かしらの()()を受けたのだろう。


 宿へ着いてからは簡単に部屋割りをしてそれぞれの部屋でゆっくりと過ごすことにした。私はいつも通り、アニーさんとリリアナとの三人部屋だ。ロジーとスノーもいつも通りペンダントとブレスレットに変化して、それを見たウイスティも「それ……いいね」と一言呟き、私の小指に藤の蔦を絡ませたデザインのピンキーリングになって付いてきた。


「相変わらずの溺愛っぷりだね」

「三人とも心配性ですからねぇ」

 アニーさんとリリアナは少々呆れ気味に三人の同室を認めてくれた。


「さて、二人とも。髪も肌も……ヤバいよね」

「そうだね。髪なんて毎日ちゃんと洗っていたけど……傷んでしまったね」

「私もです。肌もザリザリする……」

 アニーさんは髪を手櫛で梳くと絡まった髪を丁寧にほどき、リリアナは両手で顔をスリスリと摩ってはため息をついた。

 そう、数日間の船旅で私たちの体は潮風によって荒れ果ててしまっていたのだ。一日二日なら大した事は無かったのだが、十数日も潮風に晒されれば肌も荒れるのは当然の事だった。


「今日は徹底的に体を労るわよ!」

 私は気合を入れ、二人を連れて浴室へと向かった。何とこの宿、魔泉の上に建てられていて、いつでも魔泉に入ることが出来るのだ。慣れない船旅の疲れを癒せるので有難い。

 途中で女性騎士にも声を掛けると喜んで同行してくれた。


 潮風でベタベタした体を水魔法を使ったシャワーで綺麗に洗い流し、アルガンオイル配合のミントシャンプーで髪をスッキリ洗うと共に保湿をし、体もスッキリと洗い流す。


「スッキリしたー!」

 後は魔泉に浸かるだけだ。誰よりも先に体を洗い終え、つま先からゆっくりと入る。温めの魔泉が体と心を癒してくれる。思わず「あぁぁぁぁぁぁ」とオジサンのような声が出てしまうが、仕方ないだろう。


 魔泉からは海を一望できて、どこの高級旅館だと思わず笑ってしまう。

 全員が魔泉に浸かると、皆無言で目を瞑り至福のひとときを過ごした。


「はい。じゃあみんな一人一セットずつ持って行ってね。中に使い方の説明書が入っているから部屋に戻ったらすぐに試してみて。まだ試供品だから使い心地やこうだったらいいなって感想を聞かせてくれたら嬉しいわ」

 女性騎士たちはパァッと顔を輝かせ、ウキウキと自分たちの部屋へと帰って行った。


「さて、私達も行きましょ」

 アニーさんも渡した試供品を手にご機嫌だ。

「アニーさん、後でヘアオイル塗り合いっこしましょうね」

 リリアナも嬉しそうに試供品を胸に抱えている。


 部屋に着くと早速お手入れを始めた。

「今日は私の番だな」

 そう言うのはスノーだ。こうして毎晩三人で代わる代わる出てきては私の髪のお手入れをしてくれている。

 毎度毎度三人で出てきて誰がお手入れをするのかで揉めたので、一日ずつ交代で出るようにした訳だ。


「さぁ、座って」

 まるで執事の様な仕草で私を椅子に座らせると、まずは髪のお手入れから始める。

 新しい薔薇のオイルを手に取り、優しく馴染ませてくれる。

 あ、今度の薔薇のオイルは変な効果は付いていませんよ。ちゃんと鑑定してスノーの太鼓判を貰ったもんね。


 三人で部屋の中でオイルを使ったせいか、薔薇の香りが充満する。いい香りなのだが……

「ちょっと強い……かな?」

 香りについて二人に問いかけると、アニーさんは「そお?」と言っていたが、リリアナは違った。


「確かに少し強い気がします。何て言ったらいいかな……多分、貴族の方々には好まれると思うんですが、私には鈴蘭みたいな優しい香りの方が好きですね」

「あぁ、そうかもね。確かにこの豪華な香りは貴族向けだね。マダム達が好きそうだわ」

「そっか。うん、二人ともありがとう。次はもう少し香りを抑えた薔薇のオイルを作ってみるわ。薔薇の香料は幅広いからね。貴族向けと私達一般向けの両方作るのも良いわね。あと、鈴蘭のオイルもね」


 一通り体のケアを終わらせると、『はい、おしまい』と頭に一つ口ずけを落としてスノーはブレスレットに戻った。

 これがロジーならいつまでも私の髪を弄んで、ウィスティに関しては寝始める。スノーはやっぱり大人だ。


 三人で試供品について語り合っていると、扉を叩く音がした。

「リリー、いいかな?」

 声の主はクラウスさんだった。

「はい、今行きます」

 二人に「少し出てくるね」と言って扉に向かうと、「ごゆっくり〜」とニヤけられた。


 近頃はこうして夜のひとときをクラウスさんと一緒に過ごすことが日課になっている。

 団体生活の中で中々二人の時間を作れなく、素直に「寂しい」と言ってみたら、この時間が作られたのである。

 夜のたった一時間だが、私たちにとって貴重な時間だ。船の上では星を見ながら色んな話をした。今日はどこで話をしようかと考えながら部屋を出たのであった。

 

 

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