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海の悪魔

ブックマーク、評価、誤字報告ありがとうございます。

 一面に広がる広大な青い海。聞こえるのはその海を進む船が揺らす波の音と、風を受けてはためく帆の音。

 動力は風のみというのにこんなにもスピードが出るものなのかと驚いている。

 この連絡線の船長ダグラスさんは船長よろしく、操舵者の隣で望遠鏡を使い行先を確認している。

 

「う〜ん。やっぱり海賊……」

 話してみれば気前の良い海の男なのだが、やはり何度見ても海賊にしか見えない。

「リリー、海賊って何?」

「あ、ウィスティ。海賊って言うのはね、海で略奪とか暴力行為を働く悪〜いやつなの。ウィスティも怪しい船を見つけたら報告するのよ」

「ふぅん」


 ウィスティは興味なさげに曖昧な返事を返した。ここ数日、ウィスティと過ごしてみて感じた事は様々だ。

 まずは常に眠そうな顔をしていること。と言っても本人曰く、別に眠い訳ではなくこれが普通なのだそうだ。中性的な顔立ちと、どこかポワポワした印象を抱かせるその姿に、「不思議っ子」と呟いてしまった。


 そして、その眠そうな表情と関係しているのか、ウィスティは眠りの魔法を得意とした。

 それは船の上で上機嫌に鼻歌を歌った時だった。


 ……パタン……パタン、パタン、ズルズルズル……と、乗組員が突然眠り始めたのだ。一人二人なら穏やかな天気に誘われて眠気が出たのかと思うが、何人もの乗組員が甲板で眠ってしまったのだ。

 

 すぐ様異常に気付いたスノーがウィスティを止めてくれたので大事に至らなかったが、これが全員深い眠りに陥ったとなれば、船は何処までもさ迷うことになっただろう。

 特務部隊以外の事情を知らない人達には、「うちの二番目の弟が魔力漏れをおこして……」と苦しい言い訳をし、魔力コントロールが完璧になるまでは【鼻歌禁止令】が出された。


「いや〜、それにしても驚いたな。リリーに三人も男兄弟がいるとは思わなかった」

「あは、あはははは……よく言われます……」

「ん? まさかまだ兄弟がいるのか?」

「ま、まさか〜」

「そうかそうか。リリーを心配して兄弟が駆け付けるとは……リリーは本当に家族に愛されているのだな。兄弟の中の紅一点だ、

心配する気持ちはよく分かる」


 ウドルフさんはそう言って眩しそうに私たちを眺めた。ウドルフさんはロジー、スノー、ウィスティが人外なのは知っているのでわざと揶揄ったのだろう。


 それから数日のうちに複数の島へ立ち寄り、物資の積み下ろしや人の乗り降りを繰り返し、連絡船はもうすぐフランジパニに到着しようとしていた。

 船旅の途中、船酔いに苦しむウドルフ遠征隊の数人に、乗り物酔いに効く香袋を渡したらとても感謝された。乗り物酔いにはレモングラスやユーカリ等のスッキリとしたハーブが効果的で、ムカムカした気分を和らげれくれる。


「よーし、今回も大した魔獣が出ずに終われそうだ!」

 船長のダグラスさんがそう言うように、ちょっとした小物の水生魔獣には出くわしたが、大きな被害を受けることも無く安全にここまでやってこれた。

 しかし……ダグラスさんよ、今このタイミングでそれを言ってしまうか……。


 一抹の不安を抱えながらも、船旅ももうすぐ終わりね……と、船縁に手を掛けて海を眺める。濃紺色の海はどれだけ深いのかが窺える。この世界では深海の世界など未開の地であろう。

 もうすぐ着くと聞かされ遠くを眺めてみたが、まだ島の影ひとつ見えない。

 まぁ、そんなに直ぐには着くわけが無いか……そう思い、また船縁から海を覗き込んだ。すると、先程まで濃紺色だった海の色が黒に近い色合いに変化していた。


「あれ?」

「リリー、どうかしたか?」

 スノーが横から声をかける。

「んー、なんか海の色が……」

 

 そう言葉にした瞬間、船に「ゴン……ゴン……」と何かが当たる音がした。船の食料庫でワインの樽でも転がったのかな? と思えるような、些細な物音。スノーと顔を見合わせて首を傾げた。

 近くにいたクラウスさんも同じ音を聞いたようで、船内に確認に向かうところだ。


 何だろうな、と思いながらまた海を見てみれば、そこには見た事も無い巨大な影が潜んでいて、大きな目玉がギョロリとこちらを見た。

 ヒュッ、と息を飲むとロジー、スノー、ウィスティが異変を察して私を囲み、戦闘態勢に入った。


「ク、クラウスさ……」

「しっ! リリー落ち着いて!」

 身の危険を感じ、咄嗟に彼の名を叫ぼうとしたが、ロジーによって口を塞がれた。

「静かに……下がるよ」

 ウィスティは私の手を引き静かに後ろへ下がるように促すが、足がガクガクと震え動くことが出来ない。


 そんな私たちの様子を見て戦場に緊張が走り、穏やかだった海面は大きな飛沫を上げ、船体も大きく揺れる。

 そして現れたのはヌメリのある大きな触手のようなもの。その触手には見た事のある吸盤が何個も付いていた。


「クラーケンだー!!」

 誰が発した言葉かは分からないが、その一言で船上は船員と騎士隊、そして連絡船に乗り込んだ一般市民とが混沌と化した。

 海上に姿を表したのは巨大な蛸、クラーケンだった。クラーケンは私たちの乗るキャラック船と同等の大きさをしていて、その長い足で絡め取られたらひとたまりもないだろう。


 ほら、だから言ったじゃない。ダグラスさんが変なフラグを立てるから……。

 

 落ち着いて、落ち着いて! 未だに動けずにいる自分に言い聞かせる。船を守らないと! いつでも魔法を放てるように両手をクラーケンに向けるが、もしも海へ落ちてしまったら……そう考えると両手がカタカタ震える。しかも、私の得意な属性は水……分が悪い。

 

「全く。リリー? 何でも一人で解決しようとしないの。勇ましいのは良いけど、こういう時は大人しく俺たちに守られていなさい」


 カタカタと震える両手を優しく下ろしたのはクラウスさんだ。恐ろしい化け物を目の前にし恐怖で凍りついた心をクラウスさんが溶かしてくれる。

 

「クラウス! 俺たちは船員と一般人を守る! クラーケンはお前たちに任せたぞ!」


「了解」

 クラウスさんはそう言うと、先陣を切ってクラーケンの足に斬りかかった。雷の魔力を帯びた剣はバチバチと青白い光を放ち、切りかかる度にクラーケンの足はビクビクと感電しているように見える。


「リリアナ!」

「はい!」

 アニーさんは二本目のクラーケンの足に、自身の武器であるトランスウィップを絡ませ拘束。リリアナもアニーさんの声に合わせ、魔弓から矢を放つ。魔力で出来た矢からは同じく魔力で出来たロープが繋がっていて、魔弓と繋がっている。リリアナは弓を横に持ちアニーさんと共に一本の足を拘束した。

 戦う美女と乙女……素敵。


「ガウル!!」

 アニーさんの声に、今度はガウルさんが答える。

「そのまま引っ張っておけ!!」

 ガウルさんはマストの上からアニーさんとリリアナが拘束した足に戦斧を掲げて飛び降りた。

「グォーーーーーー!!」

 ガウルさんの咆哮と共に足はブツン!! と切断された。

「ガルルルルルルル……」

 吼える獅子……鳥肌立っちゃう。


「アタシも張り切っちゃうわよ〜! 船長さ〜ん! 甲板壊れるかも〜!」

 この状況でいても元気いっぱいエアさんは、ダグラスさんに向け叫んでいる。

「命が一番!! 船は後で直す!! 思いっきりどうぞ!!」

 ダグラスさんと船員さんは揃ってエアさんにサムズアップ。


 許可を得たエアさんは背中から巨大なミスリルフォークとナイフを抜いた。ホルターから武器を抜くシャララ……という音が美しい。

 エアさんはタタン、と足を鳴らすと軽々と大ジャンプ。三本目の足に向かってナイフをぶん投げ甲板に拘束、そこからナイフでスパン! と切断。

 戦う料理長……格好いい。


「グルルルル……」

 唸り声を響かせたのはジャンクだ。ジャンクも獣化して牙を剥いている。両手にはククリ刀を持ち姿勢を低く取り一気に四本目の足へと攻撃を加える。高速の攻撃は次々と足を切り刻んでいく。

「ジャンク!」

 フレッドさんの声にジャンクが横へ飛び退くと、すぐ様何本もの矢が足に突き刺さる。その矢を足掛かりにジャンクは振り上げられた足に登っていき、ククリ刀を二本突き立てると一気に足を縦に裂いた。

 二人はハイタッチすると次の足に向かって飛んで行った。

 絵になる二人……眼福です。


「よし! 弱ってきたぞ! エアネスト! 頭が出たら武器をを突き立てろ!」

「いや〜ん! 初めての共同作業ね!」

 エアさんはキラッキラの顔で出てきた頭にナイフとフォークを突き立てると「やっちゃって〜!」とクラウスさんに手を振った。


「リリーを怯えさせた事、後悔するがいい!」

 クラウスさんがそう言ってズラトロクの指輪を嵌めた手を振り上げると、クラーケンに向かって夥しい数の稲妻が襲いかかる。そして、その稲妻はエアさんが突き立てたナイフとフォークにピンポイントで落ちてゆく。どうやらミスリルと雷は相性が良いらしく、クラーケンだけに確実に攻撃を加えた。


 足を切り落とされ、裂かれ、雷で焼き焦がされたクラーケンはピクリとも動かなくなった。


 クラウスさん……カッコ良すぎでしょ……!!


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