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いざ、出港

ブックマーク、評価、誤字報告、感想、ありがとうございます!



「さて、二人共忘れ物はない?」


 そう言い、周りを見渡せばリリアナとアニーさんが数日間お世話になったコテージを見回っていた。

「大丈夫そうです」

「うん、こっちも大丈夫ね」

 ある程度部屋を整えると、私はアイテムボックスに三人分の荷物を放り込んだ。

 今日でこのコテージとはお別れだ。三日前にクレメオ港に連絡船が到着したとの知らせを受けたのだ。

 そう、いよいよフランジパニに向けて出港する時が来た。


 私たち三人は名残惜しい気持ちを胸に、コテージを後にしたのだった。


 ✻ ✻ ✻ ✻ ✻


「うわ〜! 船ってこんなに大きいのね!」


 目の前には巨大な船が停泊している。四本のマストには帆が畳まれており、マストを操るロープが無数に張り巡らされている。

 正直、もう少し小さな船を想像していた私は、目の前の船に目が釘付けだった。


「はっはっはっ! お嬢さん、キャラック船は初めてかい?」

 そう声をかけてきたのは、頭にバンダナ、腰に短剣を差した上半身裸の男だ。その人相の悪さに、思わず海賊か!? と思ったのは仕方が無い。

 なんと返事をしようかと悩んでいれば、これまた豪快な声が後ろから響いた。

 

「ダグ!」

「おお、なんだメアじゃねぇか」

 声を飛ばしたのはメアリックさんだ。

「おお、なんだ。じゃねぇ! 俺たちの魔女様が困ってんじゃねぇか! な〜にがお嬢さんだ、海賊みたいな顔しやがって!」

「はぁぁぁ!? 誰が海賊だ馬鹿野郎!」

「悪人面してる方が悪ぃだろ!」

「おめぇにだけは言われたくねぇよ!」


 目の前で始まった喧嘩に私たちは固まってしまった。リリアナとアニーさんは止めに入ろうかとオロオロしている。

 しかし、港にいる男共はちっとも気にかけていない様だ。


「あ、あの……!」

 私がそう声をかけると、今度は後ろから声が聞こえた。

「またやってるよ……」

 声の主はレオナード君だった。

「リリー様、お気になさらず。アレ、毎度のことなので。ほら、他の皆も気にしていないでしょう? あの二人、顔を合わせる度にああなんです。それに、ああやって罵りあってますが実は仲が良いので」


 確かに、周りにいる海の男達は二人が言い合っているというのに興味すら示さない。普通喧嘩だったら止めに入るはずよね?

 そう思っていると、例の二人は「ハハッ!」と笑い合い、今度は拳を合わせている。

 男って分からないわぁ……。


「リリー、早かったわね」

「うぉー、俺船って初めてだ!」

「お、俺もこんなでかい船は初めてだ! すげぇ……」

「お前達子供か……」

 次々に旅の仲間が集まってくる。エアさん、フレッドさん、ジャンク、ガウルさんだ。


『ふぅ〜ん、人間って色々考えるよね』

『ここ数十年で船の形も変わったな。昔は帆などなかったが……』

『ねぇ。これ、途中で沈んだりしないかな……』

『バカ、縁起でもないこと言うなよ。ただでさえ俺たちは塩水に弱いんだ、ウィスティも気をつけろよな』

『フフフ、ロジーが兄を気取っているな』

『何だよ、スノーまで馬鹿にして』


 チラリと三人の様子を見れば、案外仲良くやっているようだ。

 ウィスティが精霊化する直前、ロジーとスノーは既にその事を悟っていた。ロジーあたりが大騒ぎするであろうと思っていた私だったが杞憂に終わった。

 ロジーはウィスティに対して兄を気取っているが、どこからどう見てもウィスティの方が歳上に見える。

 その事は私以外の人達も空気を読んで黙ってくれている。またいじけられたら大変だもんね。


「リリー」

「クラウスさん。みんなと一緒じゃなかったのね。用事でもあったの?」

「ふふふっ、まぁね」

「なぁに? 教えてくれないの?」

「そうだな……今回の旅が終わって王都へ戻った時、教えてあげるよ。それまでは……ね?」


 クラウスさんは勿体ぶるように焦らして答える。何かを企むような、それでいて嬉しそうな顔だ。

 ずるいなぁ……そんな顔で言われたら頷くしかないじゃない。


「よっ、相変わらずお熱い事で」

 少し遅れてウドルフさんも大きな荷物を担いでやってきた。

「からかわないでくださいよ。それより腰の方はどうなんですか?」

 大きな荷物を軽々と担いでいる姿は、つい先日悪魔の打撃を受けたその人とは思えないほどピンピンしている。


「お陰様でこの通りさ。リリーのお陰だよ」

「良かった! アルニカブレンドオイルの使い心地も良かったですか?」

「それだよ、それ。あのオイル凄いな。腰に塗った途端じわ〜っと温かくなって腰が楽になるんだ。腰痛持ちの文官なんかにも教えてやりたいよ」


 アルニカブレンドオイルとは、冷却湿布で二、三日冷やした後に使った、温め効果のあるオイルだ。

 アルニカオイルをベースに、ローズマリー、マジョラム、ユーカリ、オレンジオイルをブレンドしてみた。

 このアルニカオイル、何がすごいって別名【筋肉と打撲の守り神】なんて別名があるほどの特性があるって事だ。


【アルニカブレンドオイル】☆☆☆☆☆

 消毒作用、血行促進効果、鎮痛効果、治癒力の促進などの効果がある。肩こり腰痛、筋肉疲労のことなら何でも来たれの万能オイル。


「なるほど……文官さんたち常に机と睨めっこで「腰痛が……とか言ってましたもんね。王都に帰ったら実験も兼ねて文官さんに協力してもらおうかな」

「それがいい。きっと喜ばれるはずだ。俺も出来るのであれば常時販売してもらいたいからな」


 これは王都に帰ってもまたまた忙しくなりそうだと、今のうちから嬉しい悲鳴が聞こえてきそうだった。


「さぁて、行きますか!」

 旅の仲間が全員揃い、私たちは船へと乗船した。船には既に次の島までへの物資が所狭しと乗せられていて、窮屈な印象を受けたが、私たち遠征隊が乗る分には不自由をしなさそうだ。

 船はフランジパニだけではなく、何ヶ所もの島を巡って渡る為、こんなにも大荷物なのだろう。


 私は船員さんの邪魔にならないように端の方へ避ける。船の端からはクレメオの港が見える。

 ふと……目線がある一点に惹かれた。


「あれは……?」

 何人もの女性が大きな布を広げて、その端に支柱のような棒を括りつけ持ち上げている。中央にも一本の支柱が女性によって持ち上げられていて、その中央には……


「マダム・フィオナ!」

 マダムは私が気付いたことに気付くとニッコリと笑ってひらりと手を振って見せた。

 ここ数年はほとんど外を歩いていないと言うマダム。それもそのはずで、マダムの真っ白い肌はアルビノ特有の焼けやすい体質のため、日に当たれなくて外出が出来なかったのだ。何日か月蜜の館へ通っているうちに、マダムのその異常すぎる肌の弱さに驚いたものだった。

 それなのに……マダムはお店の女の子たちが広げる日除けの下で微笑んでいる。本当は怖いだろうに……。


 マダムの存在に気付いたメアリックさんも心底驚いた顔をしている。

 そのまま私たちの乗る船へと近づくと声も聞こえてきた。


「魔女様!」

「マダム! ど、どうして!?」

「うちの娘たちがね、魔女様のお見送りに行くって言うから私も着いてきちゃった。娘たちにはちょっと力仕事になっちゃって可哀想なことしたけど、私もどうしても魔女様のお見送りに来たかったのよ。メアとの事も魔女様のおかげで色々と吹っ切れたし。ありがとう――」


 そう話すマダムは太陽など全く怖くないかのようだ。いや、実際陽の光を浴びればただ事ではなのだが……。

 支柱を持つ女性たちは笑顔だが、さすがに力が足りないのかプルプルと震えている子もいる。


 しかし、その事に気付いた沿岸騎士隊員が「代わります」と言って女性から支柱を預かっている。

 あら〜、随分と紳士的ね……ん? あ、違うわ。「騎士として当然です」などと言っているが、鼻の下……伸びてるわ。


「マダム、ありがとう! またこの港に戻ってくるから! その時まで健康でいてくださいね!」

 マダムの見送りに私は大きく手を振った。


 そして私の隣では、船のへりにリーゼッテが立っている。メアリックさん達沿岸騎士隊と共に見送りに来ていたのだが、波止場から船へと大ジャンプ。さすが兎の亜人だけあって軽々と飛び乗った。

 涙の一時の別れ……となるのかと思ったが、意外にも二人とも笑顔だ。


 実は私の方からリリアナに、フランジパニに行っている間リリアナにはクレメオでリーゼッテと共に保護された子供たちの面倒を……と提案したのだが、リリアナには気丈に断られた。彼女はもう既に心を決めており、これ以上の私からの提案は野暮であった。

 提案しておいてアレだが、実際リリアナの戦力はセラダインでのエキドナ討伐には欠かせないものだったので、心の奥ではホッとしている。


 リリアナの胸元では、リーゼッテの持ち物であるはずの青い魔石のペンダントが揺れている。きっとリーゼッテからリリアナへの贈り物だろう。リリアナを守ってくれますようにとの願いが込められているはずだ。

 

「さあ、野郎ども! 出発だ! 錨を上げろ!」

 海賊船長改めダグラスさんの合図で、連絡船の乗組員たちはいっせいに甲板を走る。帆を畳んであったロープを解くと風を受け帆がパン! と張る。船は木が軋むような音を立ててゆっくりと動き出した。これから数日間の船旅が始まる。


「みんな! 行ってきます!」

 私たちは多くの人たちに見送られ、クレメオの港から旅立った。


 

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