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マダム・フィオナ

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「改めまして、自己紹介をさせて頂きますね。わたくしはこの館のマダムで名をフィオナと申します。この度は、かの有名な祝福の魔女様にわたくし共の相談に乗っていただけると伺い、大変ありがたく存じております。どうか、わたくし共をお助けくださいませ……」


 私たちは月蜜の館にある、マダムのお部屋まで案内され、室内に入ると直ぐに、マダムが挨拶と共に頭を低く下ろした。

 軽いお辞儀であれば感謝の意や挨拶であろうが、マダムのそれは低く低く……文字通り、私に頭を差し出すように見て取れる。

 きっと、余程切羽詰まっているのだろう。


「初めましてマダム。私はリリーです。まずは頭を上げていただけませんか? 何とかの魔女とか呼ばれていますが私、魔術が得意などこにでもいるフツーの女なので……その、普段通りに接してもらえるとありがたいです」

 そう言うと、マダムはゆっくりと頭を上げる。そのゆっくりな動作一つ一つに目が奪われる。


 白い肌、白い髪、白い眉とまつ毛、そして瞳はまるでアクアマリンかのような美しい色をしていた。

 その姿に目を奪われない者など居ないだろう。私もその一人で

、思わず「ほぅっ……」とその姿に見とれてしまった。


「うふふ……珍しいでしょう? 亜人種ではよく見かける白も、人間では見ないものね」

「すいません……じっと見つめたりして。とても綺麗な白ですね。思わず見とれちゃいました」

「まぁ、ありがとう。それにしても、本当にメアの言う通りね。こんなに有名なのにちっとも傲慢な態度を取らないなんて……お言葉に甘えて普段通りにさせて頂くわね」

「だから言っただろう? リリーはな、すげぇ魔術師なのにちっとも鼻にかけないんだ。だからきっとフィーの力になってくれるさ」


 メアリックさんのさんはそう言ってマダムの手を取り、ソファへ手を引いたのだが、そこでふと違和感を覚えた。

「マダム? もしかして……あまり目がよろしくないのですか?」

 メアリックさんによって手を引かれながら歩く姿は、まるで目が見えていないように見えた。


「そうね……小さい頃は今よりも目は見えていたんだけれども、それでも良くは見えなかったわ。それからは歳を重ねる事に段々と靄がかかったように悪くなってね。今は人の姿がやっとわかる程度よ」

 白い肌に白い髪、そしてまつ毛まで白く、弱視……。私はある可能性に行き着いた。

「それともう一つ、マダムは日光の光が苦手ではありませんか? 日に当たると直ぐに焼けて火傷のようになってしまったり、眩しくて目が開けられなかったりしませんか?」


 私の質問にマダムはハッとする。

「ど、どうしてそこまで分かったの……? 確かにこの白い肌は日光に当たると直ぐに日に焼けてしまうけど、目の事まで言い当てるなんて……」

 やはり……マダムはきっとアルビノなのだ。


 アルビノとは先天的にメラニン色素が欠損して起こる遺伝子疾患である。

 特徴として生まれつき髪や体毛は白や褐色、金色などで、瞳は青や灰色、褐色や緑などの特徴があり、弱視と共に羞明(過度に眩しさを感じてしまう)などの症状がある。

 肌に至ってもかなり気を使わなければならないだろう。数年この世界で暮らしてきたが、効果的な日焼け止めなどは未だ見かけたことがない。皮膚癌にならないためにも紫外線対策は大事だ。


 マダムの話を聞けば、火傷を恐れてここ数年は館に閉じこもり外へ出ていないと言う。

 確かに予防としては日に当たらないことが一番いいのだろうが、それでは健康的な生活とは言えない。

 極度に日光を避けた生活を続けていれば、骨にも以上が出る。主に骨粗鬆症などのリスクが高くなるのだ。


「マダムのその症状はそのままにしておくとやがて骨にも異常をきたします。私の故郷にも同じ症状の方々がいらっしゃいましたが、どうやらマダムも同じ症状とお見受けしました。今日はここで働く女性たちの相談に来ましたが、まずは一番初めにマダムの健康改善から行っていきましょう」

 そう言うと、マダムは予想もしていなかった自分の症状に「まぁ!」と大きな目をぱちくりとさせた。


「ちょっと待った、骨だって? リリー、フィーは大丈夫なのか!?」

「大丈夫ですよ。ほんの少しの予防で随分と生活しやすくなるはずです」

 メアリックさんは余程マダムの事が心配なのだろう、顔色が随分と悪い。

 ……と言うか、さっきから「メア」「フィー」と呼び合う二人は、ただの知り合いと言う関係ではないように感じる。

 メアリックさんの心配ぶりからも二人は深い関係なのではないかと思う。

 まぁ、そんなことを聞くのは野暮だろうから黙っていよう。


 それからは女同士でしか話せないこともあるだろうと、メアリックさんには遠慮してもらい、二人で話をすることにした。


「マダム、もし良かったらハーブティー召し上がりませんか?」

「あら、もしかして巷で有名な良い香りのするお茶かしら? 最近やっとこの街にも流通し始めたのよ。魔女様が祝福した西の土地で作られたハーブティーは王都でも大人気だそうね」

 祝福……と言うか魔法で耕した土地ってだけなんですが……。


「一番人気のカモミールティーです。どうぞ」

「こちらから呼んだのに、お客様にお茶を入れてもらうなんて申し訳ないわね」

「お気になさらずどうぞ。私も振る舞うのが好きでやってますので」


 そう言うとマダムはまずカップに口をつける前に、ゆっくりと香りを吸い込んだ。

「あぁ、いい香り……優しい香り」

「カモミールは心をリラックスさせてくれる優しいお茶なんですよ」

「うん、美味しい……ホッとするお味ね」

 マダムは目を閉じ、カモミールの香りにうっとりしている。


「それじゃあ飲みながら聞いてくださいね」

 私はいつものティータイムのお喋りのように、気楽に話を始めた。


「まず、マダムにはほんの少しでもいいのでお外に出れるようにしていきたいと思います。マダムもずっと館の中に閉じこもってばかりでは気分が塞がりませんか?」

「それはそうなんだけど、でも火傷がね……」

 やはり心配するのはそこだろう。

「これはとても大切な事ですが、極度に日光を遮断してしまうと骨粗鬆症と言って、骨がスカスカになり簡単に折れてしまったりするんです」

「こつそしょう……? どうしても日に当たらないとダメなのかしら?」

「そうですね、マダムにはまず毎日三分間でいいので手のひらを日光に当ててもらいます」

「手のひら? 三分間? そんなものでいいの?」


 マダムはそんな事と言うが、そんな事をするかしないかでは大違いである。

「ええ。その小さな積み重ねでも骨にとっては大きな意味があるんです。窓から手を出して手のひらを当てるだけで大丈夫ですよ。マダムには次に私がカウンセリングをするまでの毎日の宿題としますね」

 

 とりあえずの応急措置だが、その間に私は効果の高い日焼け止めを開発しておこう。そうすれば、マダムも火傷を恐れず外出できるはずだ。

 羞明対策は……うん、つばの広い麦わら帽子が良いかもしれない。後はUV効果のある目薬など作れれば最高だろう。

 皮膚の保護には……マダム・ミンディのお店にお願いしよう。きっといい品を作ってくれるはずだ。帰ったら手紙を書こう。

 

 それからは、他の女の子たちの相談を受けるべく、マダムと共にカウンセリングの日程を組んだ。

 一人一人、どんな些細なことでも相談に乗れるように、一人につき一時間は取り、夜の営業が始まる四時間前からカウンセリングを始め、約七日間を予定してある。


 明日から早速日程を組んであるので、今日のところは早目に帰宅することとし、メアリックさんとウドルフさんの待つ酒場へと戻ったのだった。

 

 

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