モンスター避け
「村長さん。相談があるんですけどいいですか?」
ソニアさんのお昼ご飯を頂いた後、村長さんに相談があったので解散する前に村長さんにだけ残ってもらった。
「実はですね、この間ペパーミントでモンスター避けを作ってみたんです。このペパーミント、魔獣系のモンスターが嫌う匂いみたいなんです。実際一週間前も今日もこのモンスター避けを身に着けてここまで来ましたが、行きも帰りも魔獣には遭遇しませんでした」
そう言いペパーミントの苗を取り出す。すると村長さんは苗の香りを嗅ぐ。
「この間ソニアに見せてもらったものだね。うがい薬より強い香りのようだ」
「ええ。それで相談なんですが、このペパーミントを村の周りに植えてみませんか? まだ確実に効果が出ているわけではないので何とも言えませんが、試しに植えてみて効果があれば村も少しは安全になるので」
お世話になっている村の人が安心して暮らせれば私も安心だ。
「ほぉ! それはいいかもしれないな。このところ魔獣の動きが活発で、正気を失った魔獣もよく見かけるようになったんだ。正気を失った魔獣は目が赤く変化することも確認されている。この間のワイルドボアのようにな。比較的おとなしい魔獣もこの赤い目になると狂暴になってしまい討伐が大変なんだよ」
なるほど、正気を失った魔獣ね。これは新情報だ。きっと濃すぎる魔素のせいで暴走しているのだろう。
「少しでも村が安全になればと思いますので村の外側に植えてみてもいいですか?」
「ありがたい提案だ。よろしく頼むよ。植えるときはうちの孫たちを連れていくといい。リリーさんに懐いているから喜んで手伝うはずだよ」
そう言ってもらえたので、午後からは孫ちゃんズを連れてペパーミントを植えることにした。
「ありがとうございます。仲良く植えてきますね。あ、そうだ、村に手袋ってありませんか? この間、家で庭造りをしていたら手がボロボロになってしまって……」
「ああ、それならジェフの店に置いてあるはずだよ。見ていくといい」
良かった。これで手がボロボロにならなくて済む。いくらアロエ軟膏が効くからといっても、痛いものは痛いもんね。
「分かりました。孫ちゃんズを誘いに行く時に寄っていきますね。買い物もしたいですし。それじゃ、行ってきます!」
木漏れ日亭を出て、まずはジェフのお店に行く。道中、村の人達から「魔女様ご機嫌よう」と声をかけられくすぐったかった。
何度か引き止められ軽く挨拶をしながらジェフのお店へたどり着く。
「ジェフ帰ってますか?」
声をかけるとすぐさま返事が返ってきた。
「あれ? どうしました?」
「お店に手袋って売ってますか? お庭で作業する時に手がボロボロになってしまうので。あとは、雑貨のお買い物です」
「ああ。手袋ならこっちだね」
そう言い案内してくれる。広いとは言えないが、ジェフのお店は品数が豊富だ。なんでも、ジェフのお父さんは隣町で商人をしているらしく、そこから比較的安価で商品を仕入れているのだとか。
隣町か。確か馬で二日はかかるってバルテロさんが言ってたな。機会があれば行ってみたいかも。
案内された所に二種類の手袋が置いてある。
「こっちはホーンラビットの革でできた手袋。柔らかいけど丈夫で使いやすいと思うよ。リリーにはこっちがオススメだね。試してごらん」
渡された手袋を試してみると、確かに柔らかく、手も動かしやすかった。
「これいいですね! 使いやすそうです。ちなみにホーンラビットって何ですか?」
そう聞くと、ジェフが目を点にした。
「ああ、そうか、今まで外に出た事があまりないって言ってたね。ホーンラビットって言うのはね、名前の通り角が生えたウサギだよ。モンスターの中では弱い部類だね」
しまった。つい、ソニアさんに聞くようにいつもの調子で聞いちゃった。
恥ずかしすぎる……。魔物図鑑、確か家にあったよね。帰ったら勉強しよう……。
「すいません。世間知らずで」
赤くなりながらポソポソと言うと、ジェフはプッと吹き出した。
「あはは。僕の知らない事をいっぱい知ってるのに、ホーンラビットを知らないだなんて。リリーは面白いね」
「う〜笑わないでよ。何かソニアさんにも同じような事言われたんだから」
「いいじゃないか、可愛らしくて。それに、僕に対しては丁寧に話さなくてもいいよ。今みたいに砕けた感じで話してもらう方が僕も話しやすいからね」
「か、可愛くなくていいです。もう、揶揄わないでよ」
可愛いなんて言われてますます顔が赤くなる。手でパタパタ顔を扇ぎながら抗議する。
「揶揄ってなんかないよ。リリーは可愛いよ。さて、次は何が欲しいんだい?」
その後も揶揄われながら必要そうな雑貨を選び、恥ずかしさのあまり逃げるようにジェフの店を出た。
「ふふっ。揶揄いすぎたかな? でも、ほんとにリリーは可愛いからな」
店でそう呟いたジェフだった。
「もう! ジェフったら揶揄いすぎ! 恥ずかしくて次に買い物に来る時困るじゃない!」
まだ顔の赤いリリーは必死に顔を扇ぎながら孫ちゃんズの元へ向かうのであった。