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救出

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 私たちが廃宿へと戻ると、そこからの行動は速かった。


「第一班は俺と共に建物二階の娼館主の屋敷へ、第二班はリリー殿の先導で地下の少女たちの救出、第三班は娼館を囲んで騒動の隙に逃げる輩の確保だ。少女たちは一人も傷つけることなく救出、そして不埒な輩は誰一人として逃がすな!」


「おぉーーーー!!」

 

 闇営業の娼館から一度離れ沿岸騎士隊舎へ戻ると、時刻はお昼を過ぎたあたりで、メアリックさんの采配で隊員たちは大きく三つの班に分けられた。

 ここには漏れなく私たちと特務隊とウドルフ遠征隊も含まれており、それぞれが別々の班に付くこととなった。

 ウドルフ遠征隊のみんなも乗りかかった船だと、快く協力を申し出てくれた。


 少女たちをの救出には勿論私が先導することになるが、救出対象が少女とあって、私の他にもリリアナ、アニーさん、そしてウドルフ隊の女性隊員数名、クラウスさん、ガウルさん、フレッドさんが向かうこととなった。


「リリーさん……」

「うん。もうすぐよ。無事に助けようね」

 リリアナを見ると両の手がカタカタと震えている。ようやく再会できる喜びに震えているのか、それとも怒りで震えているのかはその表情からは読み取れない。昨日のような暴走だけはしないといいのだが。


「そんじゃあ、ここからはスピード勝負だ! 日が暮れる前に一気に片をつけるぞ! 全員、かかれ!」

 メアリックさんの掛け声でそれぞれの班は静かに、そしてスピーディーに移動を開始。

 

 娼館に辿り着けば夜の営業に向けひっそりと開店準備をしているところだった。

「こちらはクレメオ沿岸騎士隊だ! この店には不法な取引で売買された奴隷がいるとの情報を得た。王国騎士団の権限を持ってこれより店内の捜索を開始する!」

 メアリックさんは店先に出ていたやつれた男にそう言うと、有無を言わせずに店内に入る。

 男は突然の事に右往左往していたが、ようやくこれから何が始まるのか察知したのか、慌てて奥の部屋へ走っていった。


「私たちは今のうちに地下へ向かいます。メアリックさん、ウドルフさん、上はお任せします!」

「任せとけ! 誰一人として逃がさねぇよ!」

「一人残らず握り潰してくれるわ!」

 メアリックさんとウドルフさんの悪そうな笑い声を背に、私たち救出隊は地下への入口へと走った。

 それにしてもあの二人のあの笑い顔……どちらが悪党か分からないわね。


「アニーさん! そこを右で!」

 先頭を走るアニーさんを誘導しながら、あの物置を目指す。

 すると、角を曲がった辺りでアニーさんが腰に装備した鞭をするりと抜き、私たちを後ろ手に止めた。

「誰かいる……」

 アニーさんのその声でみんなが通路の先を見ると、腰の曲がった老婆がランタンを掲げて私たちを待ち受けていた。


「ここから先は通さないぇ」

 老婆はそう言うと、掲げたランタンをユラユラと揺らし始めた。

『魔道具だ!』

 ロジーのその言葉にアニーさんはすぐさま反応し、鞭を操り手早くランタンを絡めとった。

 ランタンは淡い光を放っていたが、老婆の手を離れるとその光は静かに消えていった。


 老婆にはすぐに眠り薬を嗅がせ眠ってもらう。よく見ればその老婆は私たちがネズミに扮している時に出会った、あの竹箒を振りかざしていた老婆だった。


「それにしてもこのランタン……」

 アニーさんは奪ったランタンをひっくり返したり中の魔石を取り出してみたり、不思議そうに眺めている。

 何が気になるのだろう?

「そうだな……」

 それに続きクラウスさんまでアニーさんに同意している。

「リリー、このランタン見覚えないか?」

 そう言われ、まじまじとランタンを見ていると、いつかの事を思い出した。


「あ……これって奴隷商人が持ってた隠匿のランタンに似てる……」

「そうなんだ。恐らくこのランタンの出処と奴隷商人の魔道具の出処は一緒だろう」

「きっと影で色んなところとの繋がりがあるんだろう。後でメアリック隊長とフェルンバッハ隊長に報告だな」

 この調べで芋づる式に闇の組織が解体されることを祈ろう。


 それからすぐに私たちは先へ進み、例の物置を目指す。

「そこの物置です」

 ネズミに扮していた時は大きく見えた物置だが、こうしてみると掃除道具を入れるためだけの小さな物置に見える。

 アニーさんは物置の扉に手をかけ、ゆっくりと扉を開く。すると直ぐにその先の隠し扉に気付いた。

 階段は更に隠し扉で塞がれており、二重に守られていた。


「こんな所に階段が……」

「これではパッと見分からないな」

「この先にリーゼが……」

 既に何があっても大丈夫なように、リリアナは戦闘準備よろしく獣化している。

 その目は力強く、普段の黒目が真っ赤に染まっていた。美しい見た目と相まって、周囲に強烈な印象を与えている。


「それでは行きます!」

 アニーさんは扉を静かに開き、階段を下りる。私達もそれに続き下り、クラウスさん達は殿を務める。

 一気に救出へと思われたが、地下室入口の鉄格子が見えた手前でアニーさんは立ち止まり、私たちに振り向くと人差し指を唇に当て、耳をトントンと叩いた。


「リリアナ人数分かる?」

 アニーさんが小声でリリアナに問いかけると、ギリギリと歯を食いしばりながらも「三人」と答えた。

 恐らく既に地下室にはこの館の人間がいるのだろう。

 そして、リリアナの態度から察するに……

「何がシツケだ……」

 リリアナの言葉で全員が現状を察した。


「リリアナ、一気に行くわよ。でも、殺してはいけないよ。後で事情聴取をして他に少女がいないか確かめなきゃいけないからね」

 アニーさんは冷静にリリアナを諭し、リリアナも悔しそうだったが頷いた。


「ガウル、鉄格子をお願い。行くぞ!」

 アニーさんの合図で私たちは階段を一気に駆け下り、ガウルさんが体当たりで鉄格子をぶち破る。

 鉄格子はガウルさんによって呆気なく壊され、地下室に大きな金属音が轟いた。


「何だ何だ!?」

 その爆音に奥の部屋から男共が様子を見に顔を出した。

「だ、誰だお前たち!!」

 男共は驚きながらも、近くにあった金属の棒、火かき棒のようなものを手に取ろうとしたが、リリアナがそれを許さなかった。


「動くと脳みそ吹き飛ばすわよ」

 一瞬の出来事だった。リリアナは男を床に叩きつけ、首を足で押さえつけ、眉間に魔力で練り上げた矢を魔弓で突きつけていた。男はその迫力からか、口から泡を吹いて気絶。

 残りの三人のうち一人はアニーさんが鞭で絡めとり、魔力操作によって変化した棘付きの鞭が男の体にくい込んでいた。

 

 あっさりと捕縛。そう思った時だ。

「そこまでだ!」

 最後の一人がそう叫ぶ。

 その手には熱く熱せられた火かき棒と、反対の手には薄桃色の耳が……。

 あろうことか男はリーゼッテの耳を乱暴に掴み、火かき棒を顔に推し当てようとしている。

 リーゼッテは意識が朦朧としているのか焦点の合わない目が虚空を見つめていた。


「リーゼッ!!」

 リリアナの悲痛な叫びが響く。

「無駄よ!」

 私はすぐさま水魔法を発動。男の持つ火かき棒向かってジェット水流を放った。火かき棒はジュッ!と音を立て煙を上げてその熱を飛ばした。

 その熱の消え方でどれ程熱かったのかが分かる。

「ま、魔法!?」

 驚く男に一拍の隙も与えず、今度は圧縮した空気の塊をぶつけると、男は白目を向いて吹き飛ばされた。


「クラウスさん、男たちをお願いします!」

 私は男三人をクラウスさんたちに預けると、リリアナと共にリーゼッテへと駆け寄った。


「リーゼ! リーゼ!」

 リリアナは涙をボロボロと零しながらリーゼッテを抱きしめる。

「あ、うぅぅぅ」

 リーゼッテは余程酷い目に合わされていたのだろう。目が虚ろでリリアナを視界に入れているのに反応がない。

「酷い! 酷いよ! リリーさん……どうしよう……リーゼが、リーゼがっ……リリーさん、助けて……」

 リリアナはリーゼッテにしがみつき泣きじゃくっている。


「大丈夫、私に任せて」

 私は静かに魔力を練り上げ、リーゼッテに向かって回復魔法を唱えた。

 

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