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地下室を探せ

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 (地下室、地下室……)

 小さな体で壁を添うように探し続けて三十分。探せど探せど階段らしい物は見当たらない。慣れない四足歩行で、そろそろ足だか手だかが疲れてきたところだった。


 ーーシャッ、シャッ、シャツ……


 (ねぇ、この音何かしら?)

『何かが擦れる音かな?』

 どこからかは分からないが、謎の音が聞こえる。誰もいない建物内に謎の音は反響し、その音が近くで鳴っているのか遠くで鳴っているのかが判断できない。


 (もしかしたら手掛かりかもしれないわね。探してみよっか)

『何が起こるか分からない。くれぐれも慎重にな』

 スノーの心配をよそに、リーゼッテ手掛かりを闇雲に歩き回り探すが、中々音の発生源まで辿り着けない。

 そうしているうちに、とうとうその音は鳴りやんでしまった。


 (はぁ、また静かになっちゃったね)

『仕方ないよ。また壁沿いに探してみよう』

 そうして音の正体を突き止めるのを諦めた時だった。


「キェーーーーー!!」

『リリー! 危ない!!』

 スノーの咄嗟の機転で私は横に体を転がされた。そして、さっきまで私がいた場所には大きな大きな竹箒が振り下ろされ、竹箒を持つ手の先には……


 (や、山姥ーーーー!!)

『リリー逃げろ! ただのバァさんだ!』

 慌てて逃げ惑うせいで、手と足がこんがらがりそうになる。

「待てー! どこから入ってきた!」

 山姥もとい、竹箒を持ったバァさんは竹箒をブンブンと振り回しながら、私に向かって容赦なく振り下ろす。


 バチン! バチン! と、床を叩きつけ、その度にホコリが舞い、体がピョンピョン浮き上がる。先程の謎の音はこのバァさんが掃除をしていた音だった。

 (ゲホゲホ! いや〜! 追いかけてこないで〜!)

『リリーこっちだ!』

 必死に逃げ回っていると、スノーが壁の間の隙間を見つけ、私を誘導した。


 (も、もうちょっと!)

 バチン!

 振り下ろされた竹箒はギリギリのところで壁に阻まれ、私の元に振り下ろされることはなかった。


『凶暴なバァさんだな!』

『危なかったな……』

 ロジーは怒り顕に激怒し、スノーは未だ壁の向こうから竹箒を壁の隙間に突っ込んでネズミを掻き出そうとしているバァさんに面食らっていた。

 (ぜぇ、ぜぇ……し、死ぬかと思った。)

『だから気をつけろと行ったのに……』

 

 荒れた息を整えて、心臓のバクバクが収まる頃には婆さんも諦めたのか、壁の隙間から差し込まれていた竹箒は無くなっていた。

 そういえば必死に逃げ回っていてここがどこなのか分からない。辺りを見ても壁の中なので、暗闇の中にホコリが見えるだけ。

 すると、辺りを飛び回っていたロジーが何かを見つけたようで、私を呼んだ。


『リリー、ここから下に行けそうだよ』

 (また隙間か……)

 そこはまたもや壁と壁の隙間。古い建物だからこその抜け道だった。

 ただし、抜け道といえどもただの隙間なので、隙間から落下すると言った方が正しいかもしれない。

 そうなると、一旦降りてしまえばここまで戻ってくるのは不可能だ。


 (降りるのはいいけど……帰りどうする?)

『そこは本来の階段を見つければいいだけの事。地上からは隠された階段だろうが、地下ではその必要もないだろうからな。きっとすぐに見つかるさ』

 (あ、なるほど)


 私はロジーとスノーに支えられ、地下室へと降りた。いつもの二人なら単身ならば自由に宙を舞うことが出来るが、このサイズの二人は私の落下スピードを落とすので精一杯だ。

 そうして降り立った地下室は静まり返っていて、やはりカビ臭くジメジメとした酷い環境だった。まだ壁の中だというのに壁の外を簡単に想像出来てしまう。


『酷い匂いだな……』

 (本当にこんな所に閉じ込められているのかしら……)

 とてもじゃないが人間の住める環境ではないが、本当にこんな所に閉じ込められているのだとしたら早く救出してあげないといけない。

 私たちは新たな壁の隙間を見つけると、恐る恐る部屋の中を窺った。


 そこにはやはりと言ったら良いか、硬い地面に薄い布を巻き付けて眠る数人の少女達がいた……。

 中にはまだ十歳程の幼い子もいて、別の少女に護られるように抱かれて眠る姿も見受けられた。そして、その少女の頭には薄い桃色の長い耳が。


 見つけた……。

 

 きっと彼女がリーゼッテだ。体には大小の傷が沢山付けられていて、それが【シツケ】で出来たものだとすぐに察することが出来る。

 女の子の体になんて事を……。


 今直ぐに助けてあげたいが、今は冷静に。

 (ロジー、スノー、人数把握するわよ)

『オッケー。ってか、ちゃんと冷静だね、リリー』

『意外だな。俺もてっきり、「今直ぐに助けなきゃ!」とか言うかと思った』

 心外ね……。

 (私だって今直ぐに助けてあげたいけど、全員助けるには冷静にならなきゃいけないって事くらい分かるわよ)


 私たちは三手に別れて地下室の隅から隅まで少女達の人数を把握した。

 (ロジーが五人、スノーが八人、そして私が数えた六人を合わせると……十九人……かなりの人数ね)

『さぁ、早くクラウス達に知らせよう』

『そうだな、既に突入の準備は整っているはずだろう。それに、そこの奥、階段があったぞ』


 スノーが示す先には地上では隠されていた階段に、粗末な形ばかりの鉄格子が嵌められていた。

 少し力を入れれば壊れてしまいそうなそれは、実際ほとんど意味をなさない飾りで、少女たち一人一人の足には足枷が嵌められているからだ。

『まさに奴隷のような扱いだな……』

 スノーはその現状に忌々しげな言葉を口にした。

『リリー、早く行こう』


 私たち三人はその鉄格子の隙間をするりと潜り抜け、階段を上る。ロジーとスノーは私の首元を掴み持ち上げてくれるので、まるで月面にいるかのように少しジャンプするだけで、すんなりと階段を上ることが出来た。

 

 (すぐに戻ってくるからね。もう少しの辛抱よ)

 隠し扉を抜ける前、階段の上部からもう一度地下室を振り返り、静かに眠る少女たちへ想いを飛ばした。


 扉を潜り抜ける前に念入りに周囲を見回し、あの山姥もとい、婆さんが居ないかをロジーとスノーが先に偵察してくれている。

 またあの婆さんに追いかけ回されてこの扉の位置が分からなくなるのは避けなければ。


 ロジーとスノーが戻ってくると、大体の位置を把握することが出来た。なんと、この地下室への扉はあの小綺麗な階段のすぐ隣に併設されていた物置の中にあったのだ。道理で探しても無いはずだ。


 後は猛ダッシュでこの娼館から脱出するだけだ。

 (ロジー、スノー、ダッシュで戻るわよ!)

『了解!』

『急ごう!』


 こうして私たちは娼館を飛び出し、クラウスさんたちの待つ廃宿へと戻ったのだった。




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