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リーゼッテ捜索隊

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「さぁて、吐いてもらおうか……」

 取り調べはメアリックさんの第一声から始まった。

 男は昨夜、リリアナの攻撃を受けたことで明らかに怯えきっていた。


「まずは名前……それから雇われている店の名前……そして雇い主……全て話すんだ」

 続けざまにウドルフさんが凄みながら問いかけると、男はペラペラと全ての情報を明け渡した。

 念の為に調合しておいた自白剤は、活躍の場を見せずにアイテムボックスの奥底へと封印されたのだった。


「簡単にゲロったな」

「まぁ、お二人が揃って圧をかけちゃってましたからね。あんなのに逆らえるわけ無いですよ〜」

 先程の尋問の様子はまるで、狼と獅子に睨まれたネズミのようだった。

 常人なら耐えられる訳が無い。


「嫌、あれは多分昨夜の事が相当堪えていると見た」

「同感。リリアナおっかねぇもんな……」

 メアリックさんもウドルフさんも声を揃えてそんな事を言う。

 失礼ね、レディに向かっておっかないだなんて。リリアナだってリーゼッテの為に必死だったのよ。


 リーゼッテはやはり娼館に売り飛ばされていた。しかし、まだ娼婦として表には出されていない。従順に従うようにシツケの段階なのだそうだ。客を喜ばせるために、金を落とさせるために、奴らはリーゼッテを物言わぬ人形に変えようとしていた。


「許せない……」

「それで、場所はわかったが……どうする?」

 クラウスさんはそう言って二人を見た。

「そうだな……まずは情報収集からだ。レオナード、頼んだぞ」

 メアリックさんはレオナード君に情報収集頼み、それとは別に私たちとリーゼッテ救出の作戦会議を始めた。


「私も! 私も参加させてください! 何でもやります! 夜の奇襲は得意です! お願いです!」

 リリアナはそう言ってメアリックさんに詰め寄った。

「リリアナ、落ち着いて。そんなに興奮しないの」

「でもっ、私、落ち着いていられなくて」

「分かってる、分かってるわ。リリアナの気持ちは痛いほど分かるけど、焦っちゃダメ。絶対失敗できないんだから落ち着いて動かないと……」

「そうだぞ。嬢ちゃんには悪いが、救出対象は嬢ちゃんの姉だけとは限らん。恐らく……何人か奴隷として連れてこられた少女たちもいるだろう。その全てを救出するとなると一朝一夕では事は運ばん」

 

 メアリックさんのその言葉を聞いて、リリアナはハッと息を飲んだ。

 そう、被害者はリーゼッテだけとは限らない。その気になればリリアナは夜襲をかけリーゼッテを救うことは可能かもしれないが、他に被害者がいれば焦った奴らは他の少女たちを連れて姿を消すかもしれないのだ。


 その事を悟ったリリアナもグッと感情を堪えて拳を握りしめた。


「店の場所は今レオナードが調べているとして、問題は店の中だよな」

「囮でも使うか?」

「いや、危険すぎる。あの男の話によれば、新しい奴隷を手に入れたばかりでかなり警戒しているみたいだったから囮は難しいと思う」

「クソ……簡単に潜り込めるネズミがいれば話は違うんだがな……」

 

 ここで言うネズミとは動物のネズミではなく、スパイの事であろうが、私にはネズミの言葉でピン! といいアイデアを思いついた。絶対にバレないスパイの方法を。


「私、いい事思いついちゃった」

「リリー?」

「ラムズイヤー……って言えば分かるかしら」

 私のその言葉で、メアリックさん以外の人間が「あ!」と声を上げた。


「でも、リリー……」

 クラウスさんはそう言って言葉を濁す。

 分かってる、危険だって言いたいんでしょうがこれだけは私にしか出来ない事だ。


「クラウス、私やるわよ。止めても無駄」

 本気だと伝えれば、クラウスさんは渋々ながら折れてくれた。


「おーい、盛り上がってるとこ悪ぃんだが、俺にも分かるように説明してくれねぇか?」

 一人、置いてけぼりを喰らったメアリックさんは話の内容が理解出来ず、困惑していた。


 作戦は明日の午前中、闇娼館の営業が終わってからの潜入となった。日中は従業員も全て眠っているはずなので、危険性はかなり軽減されるだろう。


「リリアナ、必ず見つけてくるから。リリアナは私を信じて待っていてちょうだい。救出作戦にはリリアナを連れていってもらうと約束するから、ね?」

 やきもきしているだろうリリアナにそう伝えれば、素直に頷いてくれた。


 その日はレオナード君の情報を元に、闇娼館の大元や出入りしている得意客、業者などを徹底的に調べた。

 レオナード君のその容姿は、相手に警戒を抱かせずに情報を入手できるので、騎士隊としては大助かりだろう。

 本人は目指せメアリック隊長! と息巻いているが、是非このまま活躍して欲しいものだ。


 そして翌日。

 場所は闇娼館にほど近い、今は使われていない廃れた宿屋の一室に私たちはいた。人選は私とクラウスさん、そしてレオナード君だ。なるべく目立たないように少人数での行動だ。

「では、行きます」

 私は用意したラムズイヤーの葉を口に咥える。

「リリー、くれぐれも……」

 分かってるって。無理はしないわよ。

 私は無言のまま親指を立てて煙に包まれた。


「チュウ……」

 はい、大成功! 見事ネズミに扮した私はクラウスさんによってその手の平に掬いあげられる。

「す、凄い……本当にネズミに変身した……」

 目の前には視界いっぱいにレオナード君さんの顔がある。


「チュウ……! (エッヘン!)」

「リリー、その姿で威張られても可愛いだけだよ」

 クラウスさんはそう言って私をその手の平で包み込み、親指で優しく撫で上げた。


「チュチュウチュウ! (それじゃあ行ってくるわね!)」

 私はそう言って、クラウスさんの手の平から駆け下りた。

『僕も付いて行くよ!』

 ロジーはいつもの赤い光の光度をグッと落として、小さな点のまま私の首元に潜り込んだ。

「チュウ……(ロジー……)」

『もぅ、本当は不安なくせに』

『本当に……見栄を張りすぎだ』

 続けて聞こえたのはスノーの声……。スノーも白い点状の光になって同じく首元に潜り込む。

 ロジーとスノーには全てお見通しだった。私にしか出来ないからと意気込んだものの、本当は心臓がバクバクと爆発しそうだったのだ。


 私にしか聞こえない声は心を落ち着かせ、安心させてくれる。

「チュウ……(二人には叶わないわね……)」

『どれだけ一緒にいると思ってるの。リリーのことなんてお見通しだよ』

『全くだ。人には無理をするなと言うが、私から見れば一番無理をしているのはリリーだからな』

 やはり二人が一緒だと心強い。自信が湧いてくる。

「チュウ……チュウ……(二人ともありがとう……大好き)」


 そして私はいよいよ娼館の建物へと潜り込んだ。

 (……静かね、やっぱりみんな寝てるんだわ)

 堂々と正面から潜り込んだが、誰の姿も見えない。よし、と意気込みとにかく虱潰しに捜索した。ローラー作戦だ。


 (ここは……)

 建物の奥へと進むと、そこには似通った六畳ほどの小さな部屋がいくつも並んでいた。

 ここは客を相手する部屋なのだろう。簡素なベッドと粗末な物置だけの清潔とは言えないみすぼらしい部屋だった。

 (酷い環境……こんなところで働かされてたら病気になるわよ……)

 

『リリー、ここにはいない、早く出よう』

『こんな部屋、いるだけで気分が悪くなる』

 二人も見るに堪えないようで、苦悶の声が聞こえた。

 

 部屋を出て個室とは別方向に向かうと、今度は小綺麗な階段を発見。なんだかこの辺りはきちんと掃除も行き届いていて、さっきの部屋とは全く違う印象だ。

 

『あんな部屋で働かせているんだ、こんな小綺麗な場所にはいないんじゃないかな?』

『そうだな……リリー、地下室がないか調べよう』

 二人の意見を参考に今度は地下へと降りる階段を探した。


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