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奴隷狩りの悲劇

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「あ〜、お腹っぱい! レイリーさん、ご馳走様でした!」

 私達はレイリーさんの屋台でお腹がはち切れるくらい食べまくった。

 最初に食べたイール貝の他にも、ルールーと呼ばれる白ギスに似た淡白な味わいのフリットや、全身カラフルなべラールのカルパッチョ、巨大ロブスターの白ワイン蒸しはどれも絶品で、最後の〆に出されたココミルクにパッションフルーツのような果実を混ぜ合わせて凍らせた、なんちゃってジェラートもとても美味しかった。


「いい食べっぷりだったね〜。良ければまた来ておくれよ。屋台はね、毎日仕入れる食材によって日替わりだから、色んな料理を楽しめるからね。次も腕を奮っちゃうよ〜!」

「はい! また、絶対に来ますね!」

 美味しい料理に、この土地ならではのお酒。なんて贅沢なんだろう。

 私達はほろ酔い心地でレイリーさんにお礼を言って屋台を後にした。


「さぁて、次はどうするか……」

 お腹を摩る私の脇で、メアリックさんがそんなことを口にした。

「え、メアリックさんまだ食べる気?」

「ん? 逆に聞くがリリーはもう満足か?」

「そりゃあ満足ですよ。お腹いっぱい、もう食べれません」

 いくら美味しいからとはいえ、食べすぎたなぁと反省しているくらいだ。


「そおか、もう一軒くらいリリーと回りたかったが……仕方がないな」

 メアリックさんは残念そうにそう言うと、今度はウドルフさんに向かって行った。あの二人はこの後またどこかの屋台にでも寄るのだろう。


「屋台歩きって二軒、三軒とハシゴするのがセオリーなのかしら?」

 首を傾げていると、レオナード君が苦笑いをした。

「そんなことは無いですよ。メアリック隊長は蟒蛇(うわばみ)ですからね。散々食べた後は綺麗なお姉さんの所にでも行くのでしょう」

 ほう! やっぱこの世界にもキャバクラ的なお店があるんだ。

「へぇ〜」

「あ、リリー様もしかして……」

「あ、ううん、私の故郷にもそういったお店はあったから変な遠慮しなくていいわよ」

 レオナード君はきっと私がそういったお店を嫌悪しているのだろうと察し、否定しておいた。

 

「そうでしたか。ここクレメオでは女性の働き口としてそういったお店は多いのですが、きちんと騎士隊の許可を得て営業しているお店ばかりですからね。他の屋台のお店もほとんどが許可を得て出しているお店ですから、怪しいお店は無いので安心してください」

「騎士隊のお仕事はそんな所まで及ぶのね」

「そうだね、その地域その地域で騎士隊の仕事は様々だけど、クレメオは特に多種多様だね。俺みたいに外に出てばかりの仕事とはまるで違う」

 クラウスさんもいかにここの騎士隊が多種多様なお仕事をしているのかを説明してくれ、レオナード君はクラウスさんのその理解力に感激しているようだ。


「とは言っても、ほとんどが……と言ったように、ごく僅かですが、我々の目を掻い潜って闇の営業を行っている店もあるのは事実ですね。女性の接客を受けられる店にしろ、娼館にしろ、酷い扱いを受けているのはいつでも女性なんです。強制的に女性に働かせている店もあるくらいで……っと、魔女様には関係の無い話でしたね。すいません」

 

 レオナード君の話を聞いて、どの世界にも似たような環境は生まれてしまうのだなと、悲観してしまう。

 中にはきっと奴隷狩りで連れてこられた子達もいるのだろうと、ジャンクとリリアナを見ながら腹立たしい気持ちになる。


 とそこで、少し離れたところにいたジャンクとリリアナに急ぎ足で駆けつける体躯のいい……と言うか柄の悪そうな男が近づいてきた。

「お前! 何故ここにいる!? どうやって抜け出した!!」

 男はそう言って、リリアナの腕をつかもうとしたが、ジャンクがリリアナを後ろに引き、体を張ってリリアナを守った。


「クラウスさん!!」

 私がそう叫ぶ間もなく、クラウスさんもレオナード君もリリアナの元へと駆けつけて行く。

 私も二人に続き、リリアナの元へと駆けつけると、ジャンクは目をギラつかせ身体中の毛を逆立てて威嚇していた。


「失礼、うちの仲間に何か用ですか?」

 クラウスさんは責め立てるわけでもなく、冷静に言葉を口にした。

「あぁん!? どこのどいつか知らんが、首を突っ込まないでもらおうか。コイツはうちの商品だぜ!」

 男はそう言いながら威嚇するジャンクを鬱陶しそうに一瞥する。

「ふざけんな! 何が商品だ! コイツは俺たちの大事な仲間だ! お前の言う商品が何かは知らないけど、さっさと消えろ!」


 リリアナはそのやり取りを居心地悪そうに、不安そうにジャンクの纏っている服をギュッと握りしめ、耐えている。

「大丈夫よ、リリアナ。貴女は指一本も触れさせないから」

 私もそう言ってリリアナの手を握った。


 誰だか知らないがそっちがその気なら、こちらだってそれ相応の対応をするまでだ。

 私もリリアナに何かあれば許す事など出来ないと、意気込んだところで私の両肩にずっしりとした二つの手が置かれた。


「どこのどなたと勘違いなさっているのか知らないが、この方々は本日クレメオに到着された我々沿岸騎士隊の客人であるぞ。無礼な真似をすると言うのなら、我々が正規の対応をさせてもらうが……」

「げっ! お前は沿岸騎士隊の……」


 騒ぎを聞き付けたのであろう、メアリックさんとウドルフさんはいつの間にか私達の後ろに立ち、二人揃って仁王立ちをしていた。

 この二人の仁王立ち、威圧感が半端ない。

 そして、あっという間に他のメンバーも駆けつけ、男を囲む。

 特務のメンバーも警戒感を顕にし、ガウルさんなど牙を剥き「グルル……」と唸り声をあげている。


「な、なんだよお前ら!」

 男はメアリックさんとウドルフさんを始め、いかにも戦闘慣れしていそうな面々の登場によって、急に挙動不審になり、額から汗を流し始めたところで、急に態度を変えた。

「そ、そう言えば、何か違うようなもしてきた……わ、悪かったな、ウサギの嬢ちゃん」

 男は半ギレしながらもリリアナにそんなことを言った。


「人違い……という事で良いな?」

 メアリックさんの怒気を含んだ言葉に、男は否と言える訳もなく、「すまなかった」と小さく言葉を口にした。


「全く……人違いで女性を商品だなどとくだらない言葉をするんじゃない。どんな商品を扱っているかは怪しいところだが、今日のところはさっさと消えろ。次に見かけた時は容赦しないからな」

 メアリックさんのその言葉に、男は舌打ちをしながら顔を逸らした。


「あ〜、何事もなくて良かった……リリアナ、大丈夫? 怖かったよね」

「だ、大丈夫です。あんなの魔獣に比べたらなんて事ないですよ。それに、ジャンクも皆も守ってくれたから……ジャンク、ありがと」

 クレメオに着いて早々に厄介事に見舞われるとは思ってもいなかったが、何事も無くて良かった。

 魔獣に関しては強いリリアナも、人間に関しては恐怖の対象だろう。言葉にはしなかったがリリアナは奴隷狩りの被害者だったのだから。


 そうして私たちがその場を立ち去ろうとした時だった。

「ほら、お前もさっさと行け。俺たちの気が変わる前にな」

 ウドルフさんがそう言って男を解放しようとしたその時、男はボソボソと何かを言った様だったが、私の耳にはよく聞こえなかった。

 どうせ恨み言の一つだろうと気に求めなかったのだが、リリアナの体がピタリと動きを止めた。


「リリアナ?」

 そう呼びかけてリリアナを見ると、私はギョッとした。


「桃色……」

 一言そう呟いたリリアナは目を大きく見開き、瞳孔を縦に割いた。

 ザワザワとリリアナの体がざわめき、半獣型から獣型へと体を変え、両の手から長い爪が伸びる。


「リリアナ! どうしたの?」

 リリアナの異変に気付いた瞬間、リリアナは一瞬にして男に襲いかかった。

 長い爪が男の首に伸び、今にも深く突き刺さりそうだ。


「リリアナ! 辞めて!!」

 私がそう止めようとしても、私の声など聞こえていないようで、男に馬乗りになったリリアナは冷たい視線を男に送る。


「リリー、リリアナは一体……」

「分からない……一言、桃色……って言ったかと思ったら急に……」

 何故リリアナが豹変したのかも分からず狼狽えるばかりだ。


「や、やめろ……殺さないでくれ……」

 リリアナの豹変ぶりに、先程まで横柄だった男もガクガクと震えている。


「桃色と言いましたね。薄い、桃色と……。どこにいる! 言いなさい!! 言え!!」

「お、俺の雇われ先……そ、そそ、そこに」

「詳しく!!」

「ひと月前……マスターが買ってきた奴隷で、シツケ途中のウサギの亜人だ……そいつがあ、あんたと似ていて……間違ったっ。でも、色が違う、そいつは……薄い桃色で、右の耳にシルバーの耳環を……」


 男がそこまで言うと、リリアナはグッと顔を歪めた。

「リーゼっ……!! こ、殺してやる!!」

 リリアナがそう言った瞬間、誰も近づけずにいたそこに、ジャンクが近寄り、リリアナをギュッと抱きしめた。

 

「リリアナ、落ち着け。大丈夫だ。まだ間に合う。その手を退けて。必ず助けるから、お姉さんも、リリアナも」


 リーゼ、リーゼッテ。そう、お姉さんだ。リリアナのお姉さん。奴隷狩りで攫われたリリアナの唯一の家族。……見つけたのだ。

 

「リリアナ、私も貴女に誓ったわよね。必ずお姉さんを助けるって。だからその手を離して。必ず助けるから、ね?」

 リリアナは私とジャンクになだめられ、ようやく体の力を抜き、少しずつゆっくりと手を離す。


「リーゼ、生きてる。見つけた……」

 ボロボロと涙を零すその瞳は先程の鋭さはなく、瞳孔もいつも通りに戻っていた。

「うん。早く助けてあげよう」

 私たちがリリアナをなだめている間、ウドルフさんがメアリックさんとレオナード君にリリアナのこれまでの経緯を説明してくれていた。


 その後、男は開放されることはなく、メアリックさん達によって拘束され、騎士隊へと連行された。

 一刻も早くリーゼッテを助けに行きたいが、物には手順という物がある。焦って行動を起こして逃げられては、せっかく見つけたリーゼッテごと姿を消してしまう可能性もあるのだ。


 明朝、男の取り調べを沿岸騎士隊が引き受けてくれたので、私達もその場に立ち会うべく、メアリックさんに約束をしてその日は宿へと帰ったのだった。


 男はリーゼッテをシツケ中だと言った。その言葉から嫌な事を想像させる。きっと私の想像もつかない酷いことをされているに違いない。

 ……必ず助ける。そう固く心に誓って強く拳を握りしめた。

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