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騎士団保養所

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 私達はレオナード君の案内でクレメオの街を歩いている。時折すれ違う人々は皆、港町に住んでいるだけあって浅黒く肌が焼けている。

「ご用意させていただいたお宿は海に面したコテージとなっております。クレメオでとても人気の宿なのできっと気に入っていただけると思いますよ」

 私はロジーとスノーに挟まれ、地図を見ながら歩く。この地図は王都を出る際、王宮の文官さん達に持たされたワンポイントメモが書かれた地図だ。

 レオナード君は宿に案内するまでに細やかな街の説明をしてくれるので、地図に書き足していく。


「ところでリリー様、そちらのお二人はどなたですか? 先程見えらなかったようですが……」

「ああ、この二人は私の兄と弟よ。さっきは馬車の馬を預けて来てもらったからいなかったの。こっちがロジーで、こっちがスノーよ。ロジー、スノー、こちらクレメオ沿岸騎士隊のレオナード君」

 最近はロジーとスノーの事を聞かれるとこう答えることにしている。二人とも満更でも無い様子なのでそれで突き通すことにしているのだ。


「さぁ、着きましたよ!」

 そう言われて目の前を見ると、そこには抜けるようなコバルトブルーが広がっており、その透明度から砂浜の白が水中にもかかわらず確認できるほど。

 優しく響く潮騒も心が癒され、砂浜に座っていつまでも聞いていたいくらいだ。

 太陽の光を反射して光輝く海は美しく、日本にいた頃の都心の海とは大違いである。


「これが海……」

「すげぇ! 海って……どこまでも海なんだな!」

 リリアナは初めて見る海の偉大さに言葉を失い、心奪われているようだ。

 ジャンクの「海はどこまでも海」という言葉は、初めて見る海に対しての、言葉では言い表せない素直な感想なのだろう。

「ホント、どこまでも海よね。海を見てると癒されるわ」


 他の騎士たちもそれぞれ海を眺め、様々な反応を見せている。特務部隊のメンバーでは、フレッドさんだけが初めて海を見るようで大はしゃぎしている。

「フレッドさん、海は初めてだったんですか?」

「そう! クラウス隊長達は遠征で何度か海を渡ったことがあるらしいんだけど、俺は騎士になってそんなに長くないからね。凄いね〜、これが海か……」

「初めて海を目にする人は大体同じ反応をするよね。そう言う私もリリアナと同じで言葉が出なかったわ。何度見ても海の迫力は言葉を失わせるわね」

 アニーさんも、リリアナの隣で海を眩しそうに眺めている。


 あれ、そう言えば……

「レオナード君、私達って海じゃなくて宿に向かってたんじゃなかったっけ?」

 当初の目的地を前に、海に心を奪われてしまっていた。改めてレオナード君に宿のことを聞くと、満面の笑みである方向を指さした。

「はい、皆様にお泊まりいただくお宿はあちらです!」

 指さす方向を見てみれば、コテージが十棟程建っている。しかも、海の上に。


「うわ〜! 素敵! 海の上に浮かぶコテージね!」

 それはまるで、モルディブやタヒチなど南の島の楽園のようだ。

「それでは歩きながら説明しますね。正確には海に広がる岩礁の上に建っているコテージです。ですので、一棟一棟が間隔を開けて独立して建てられています。コテージに向かうには浜辺から桟橋を渡って向かってもらいます」

 歩きながらレオナード君の説明を聞いていると、その桟橋の目の前にやってきた。

 木でできた桟橋の上を歩くとカコン、カコン。と軽快な音が響く。また、すぐ下は海なので、桟橋の脚に波がぶつかりチャプン、トプン。と音が重なり、このまま海に飛び込んでしまいたい焦燥に駆られる。

 桟橋は海をぐるっと一周する形で続いており、その途中途中にコテージが点在している。


「それでは一番奥は女性陣で、残りの皆様は両隣二棟ずつご自由にお使いください」

 私達はコテージ五棟を使わせて貰えるようだ。そこで、ハッ! と気付く。

 ーーこんな立派なコテージ、きっとお高いだろうな……。と。


「あ、あの。レナード君。つかぬ事をお伺いするんだけど……このコテージって一泊おいくらなのかしら? とても高そうなんだけど……」

 恐る恐るきいてみると、しまった! という様にレナード君が額を抑えた。

「すいません! 言い忘れていました。こちらのコテージ、実は騎士団所有のコテージでして、騎士団に所属する者、またはそれに準ずる者でしたら無料でお使いいただけます。説明不足で申し訳ありません」


 まさかの無料でした……。聞くところによると、こうして海を渡って遠征に行く騎士の他に、休暇で家族と過ごす為に使う事も出来る保養所的な使い方もしているようなのだ。

 騎士団……意外と福利厚生がしっかりとしていました。


 それから私達は五つに別れ、コテージへと入った。時間はお昼を少し過ぎた辺りで、明日の朝までは自由時間となったので、それぞれが好きに過ごすことになっている。

 その際、エアさんがさも当たり前のように私達と一緒にコテージに入ろうとしたのを、ウドルフさんによって首根っこを掴まれていたのを見て、女三人苦笑いを零してしまった。

「えー! その二人は良くてどうしてアタシはダメなのよ〜?」

 エアさんは悲痛な面持ちでウドルフさんに連れていかれた。きっと一緒のコテージに宿泊するのだろう。


 エアさんが言うその二人とはロジーとスノー。二人には護衛も兼ねて一緒の部屋に宿泊する……と言ってあるが、アニーさんとリリアナがいれば護衛など必要ないのだが、あの二人は絶対に私から離れないので、護衛と言う言い訳で一緒の部屋にいることになったのだ。

 アニーさんとリリアナはロジーとスノーが精霊と神獣だと分かっているので、一緒の部屋でも全く気にしないと言ってくれたのが幸いだった。


「どこのリゾートよ、ここ」

 コテージに入ると、まず目に入ったのが広いリビングに大きな窓。窓の外はもちろん海で、デッキからそのまま海に入れるように階段が取り付けられている。


「リリー、どこのベッド使う?」

 私がコテージの内装に呆気に取られていると、アニーさんが荷物をリビングにドサリと置いた。

 ベッドは五つもあって、円形のコテージの壁際に沿って設置されており、カーテンで区切られている。カーテンを大きく閉めればプライベートな空間になる様に設計されているようだ。


「私はどこでも構わないけど二人はどうする?」

「あ、はい! 私、こっちの海が見えるベッドがいいです」

 リリアナが指定したのは一番海が広く見えるベッドだった。少し前までは遠慮ばかりして、自分の意見を言えなかったリリアナだったが、今はこうして自分の要望を素直に言えるようなった事が嬉しく思う。


「あら、いいんじゃない? リリアナ初めての海だもんね。海が良く見えるベッドで良かったわね!」

 アニーさんはそう言い、「じゃあ、私はリリアナの隣ね」と言って、隣のベッドに荷物を置き、私はその隣に荷物を置いた。

 ロジーとスノーはベッド要らずなので、リビングの中央に備え付けられているソファで寛いでいた。


 荷物を置いて大きな窓の外を眺めると、またウズウズと焦燥に駆られた。もう、我慢出来ない。

「ねぇみんな。行かない?」

 私が提案すると二人はニッと笑って親指を立てた。どうやら二人も泳ぎたくて仕方がなかったらしい。


 私はアイテムボックスに手を突っ込むと、三着の水着を取り出した。マダム・ミンディのオーダーメイド水着だ。

 アニーさんはシンプルな白いビニキ、リリアナはラッシュガードと一体になったヤシの木柄の水着、そして私はブルーの小花をあしらったフリル付きの水着だ。


「アニーさん、すっごく似合ってる。スタイルの良さが引き立つわね! リリアナも実用性の高い水着作ってもらえて良かったわ」

「普段こんなに肌を出す事なんてないけど、海を目の前にすると人間大胆になれるものね」

「私は日焼けを気にしなくていいから思いっきり泳げることが嬉しいです!」

「ふふふっ、逸る気持ちは分かるけどまずはコレを塗ってから行きましょ」

 私は手にした小瓶を二人に見せる。やや黄色味がかった液体が小瓶の中で揺れている。


「あら、もしかしてそれリリーの新作? 王都にいる頃箱庭で大きな木を育ててたけど関係ある?」

「そう言えば……私も収穫を手伝ったあの木、確かホホバの木って言いましたよね?」

「そう、それそれ。そのホホバの木の実から採れたオイルを使って日焼け止めクリームを作ってみたの。オイルって言っても油脂じゃなくてワックスなんだけどね、このホホバオイルには日焼けを抑えてくれる効果があるの。だからまずはこのオイルをしっかりと塗ってから行きましょ」


 三人でオイルを手に取り全身くまなく塗り込んでいく。手の届かない背中は三人で塗りあいっこだ。


「さぁ! 行くわよ!」

 デッキに繋がる大きな窓を開けると、私達は足早に階段を下り、海へと飛び込んだ。

毎日ジリジリと暑いですね( ˊᵕˋ ;)

今年の夏は毎年行っている海キャンプを自粛したので、文章の中で思いっきり暴れたいと思います!


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