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プミラ街道

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 王都を出発し十日が経った。道中は特に問題もなく、スムーズに旅をすることが出来た。

 それもこれも、王都からクレメオまでの整備されたこの一本道。【プミラ街道】のおかげだ。

 まぁ、整備されているとは言ったが、アスファルトなどで舗装されている訳ではなく、大きな石などを取り除き固く平に踏み慣らした程度だが、それでも馬車での移動には大分楽になっている。

 このプミラ街道は一人の商人によって発案され、どんな経緯があったのかは分からないが、その商人が私財を投げ打って整備したのだそうだ。この功績により、この街道はその商人の名前【プミラ】の名が付けられたそうだ。

 これが普通の道なら馬車の揺れは酷く、お尻に大打撃を与えていただろう。


 貿易の要である港町クレメオから王都まで、素早く且つ安全に移動できるように整備されたのがこの街道だ。この国の貿易はプミラさんに作られたと言っても過言ではないだろう。


 王都からクレメオまではいくつかの小さな村があったが、その村も王都とクレメオを繋ぐ大事な中継地点として大いに役立っている。

 予定ではもうすぐクレメオが見えてくるはずだ。王都で待ってくれているみんなの為にも頑張らないとね。


 そういえばヴェロニカは私の見送りに行けないことを、非常に残念がっていたっけ。ヴェロニカはライアン様の婚約者になった事で、妃教育の真っ只中なのだから仕方がない事だ。

 現在、ヴェロニカは学園(アカデミー)に通いながら王城で妃教育を受けるというハードスケジュールをこなしている。

 あまり根を詰めすぎると体にも心にも悪いだろうから、ライアン様には無理をさせないように釘を指しておいたが、サボり魔のライアン様の事だ、そこの所は心配しなくても良いのかもしれない。

 私が不在の間、孤児院の事を任せてきたから、案外二人でお忍びの息抜きに行くのかもしれないわね。


「リリー、見えてきたよ」

 クラウスさんの声に幌馬車から顔を出し前方を覗くと、遠目に街らしきものが見えてきた。

「あれがクレメオ……」

「リリーさん、もしかしてその奥に見えるのって……」

 リリアナが御者台から幌の上に飛び乗って遠くを眺めている。


「ええ! 海ね!」

 視界に入ってきてもまだ遠い場所にあるが、あれは紛れもなく海だ。

「海! 俺初めてだなあ! なんか、ワクワクしてきた!」

 ジャンクも少しでも海が見えるようにと、御者台から腰を浮かせ遠くを見ている。


 御者台に座っているのだから、馬を操らなくて良いのかって? そこは毎度おなじみスノーが幌馬車を引いているのでなんの心配も要らない。御者台に人が居なくてもスノーが目的地まで連れていってくれるが、さすがに無人の幌馬車だなんて周りから見たら奇妙なので、形だけの御者をジャンクとリリアナが務めているのだ。


「はぁ、こんな快適な旅……アタシ初めてよ」

 そうため息を漏らすのはエアさんだ。エアさんには足の事もあるし、一緒に幌馬車に誘ったのだが、「ありがとうね、でも気遣いは無用よ」とやんわり断られた。

 冒険者の頃は馬に乗っての移動など当たり前で、「足を失ったぐらいで馬を乗りこなせなくなるなどありえないわ」と軽く笑って颯爽と馬を走らせている。


「ああ、俺もだ……俺たちの遠征って行ったら、野宿で日持ちのする不味い飯が定番だからな。この快適を知ってしまうと元の生活に戻るのが辛くなりそうだ……」

 王都を出る時は派手な言い合いをしていたエアさんとウドルフさんだったが、数日一緒にいるうちにだいぶ打ち解けているようだった。

 そう言う私もフェルンバッハ隊長から「長ったらしい名前で呼びにくいだろうから、ウドルフと呼んでくれ」と願われウドルフさんと呼ばせてもらっている。その代わり、私の事も「リリー」と呼んでもらうことにした。


 時折、小型や中型の魔物が現れたが、二人は危なげなく対処していた。

 その時、初めてエアさんの戦いを見たが、フォークを槍のように扱い投擲し、ナイフで首を一刀両断……と言った戦い方で、それはまるで料理の一つの工程を見ているようだった。

 ウドルフさんの方は見るからに重そうな幅の広い両刃の剣を軽々と操りバッサバッサと切り倒していた。

 二人ともとても豪快な戦い方をしていて、思わず見惚れてしまった。


「それにしても、まさかリリーのあの家が移動可能だなんて……こんな魔法、初めて見たわよ」

「箱庭……と言ったか。リリー殿はとんでもない魔力の持ち主だったんだな。改めて実感したよ」

 王都を出発して一日目の夜。エアさんと、ウドルフさんを初めとした討伐部隊は腰を抜かすほど驚いていた。野営の準備を始めようとするみんなを横目に、私が箱庭を広げた瞬間のみんなのあの顔と言ったら……。


 クラウスさん達特務部隊は見慣れた光景だが、初めて見るエアさん達はそれはそれは驚いていた。

「すぐに慣れるよ」

 クラウスさんは苦笑いしながらエアさんの肩を叩いたのを覚えている。


 ちなみにフェルンバッハ隊のみんなもしっかり眠れるように、リノベーション魔法で新しく一棟増設してある。

 これから討伐の任務を待ち受けている人達には、体調管理をしっかりしてもらって万全の体調で挑んでもらわないといけないものね。

 

「それにしても、本当に良かったんですか?ウドルフさんが王都を離れちゃって。本当は王都を護る大事なお仕事があるんでしょ?」

「ああ、その事だったら心配はいらないさ。今頃リーヴェスが俺の代わりに隊を扱いているだろうよ」

 ウドルフさんは「ハハハ!!」と何のことは無いと豪快に笑っている。

「リーヴェス副隊長さん、優秀そうですもんね」

「俺が居ないくらいで王都の安全が脅かされるだなんて、それこそ問題だからな。これもいい機会だと思って残された騎士たちには一層励んで貰わないとな。それよりも心配なのは俺の方だよ……王都に戻ったら、この楽しい遠征が恋しくなるかもなぁ」

 そう冗談めかし皆を笑わせた。


「それじゃあこの辺りで一度箱庭を出しますね」

「了解!」

 目の前にクレメオの街が見えてきているのに、何故ここで箱庭を出すかといえば、クレメオに入ってしまえば、しばらくはこの箱庭を出すことができないので、今のうちに荷物を取り出しておく必要があるからだ。

 普通の旅人は大きな荷物を馬や幌馬車に括りつけ移動するのだが、今の私達は武器以外はほぼ手ぶらだ。どこからどう見ても王都から旅をしてきたようには見えないだろう。


「食料品とかは私のアイテムボックスにしまってあるからいいとして……取り敢えず、クレメオで過ごす分の生活用品は出しておきましょう」

 みんなはそれぞれ自分の部屋へ戻ると、大きな背嚢に荷物を詰め込んで戻ってきた。

「これが今までの普通だもんなぁ。慣れって怖い」

「これしきの事でグダグダするんじゃない」

「ほら、馬鹿言ってないでさっさと行くよ!」

 相変わらずフレッドさんは、ガウルさん、アニーさんに尻を叩かれている。それもなんだか楽しそうだ。


「みんな、準備はいいかしら?」

 メンバー全員を確認すると、再び箱庭を縮小させ、アイテムボックスへと入れると、今度こそクレメオに向かって馬車を走らせた。

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