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デビュタント

ブックマーク、評価、誤字報告ありがとうございます!

本業が忙しく二週間ほど空いてしまいました。ヴェロニカとライアンの行く末をお楽しみください。

 ……白、白、白。私の目の前で白の大輪が優雅に踊る。どの花も個性豊かでそれぞれが個として美しい輝きを放っているようだ。

 品のあるシャープな印象の百合、優しさが溢れ出すかのようなダリア、あどけなさが残る可愛らしいマーガレットが広いホールで微笑みながらワルツを踊る。

 その中でも特に目を引くのが……


「ヴェロニカ……綺麗ね」

 今日のヴェロニカは他の令嬢よりも一段と輝いてみえる。プリンセスラインのドレスがふわりふわりと舞う姿は、まるで月下美人のよう。

 月下美人は日が落ちて暗くなった頃開花し、たった一晩しかその姿を見ることが出来ない珍しい花だ。


 ここは王宮にあるパーティーホール。なぜ私がこんな所にいるのかと言うと、またいつものライアン様の爆弾発言があったからだ。

「そうだ! デビュタントに合わせてさ、リリーも陛下達と謁見してみない? と言うか、陛下にも王妃殿下にもリリーに会わせろって言われてるんだよね。特に王妃殿下、まぁ俺の母上なんだけど、ど〜してもリリーに会ってローズガーデンの礼がしたいって言うんだよね。出来上がったローズガーデンを初めて見た時の母上ったらそりゃあ見事なはしゃぎっぷりだったよ」


 とまぁ、そんなこんなでデビュタントの日に合わせ、私も国王陛下、王妃殿下と謁見することになったのだ。

 あ、勿論、デビュタントを迎えるご令嬢とは時間をずらして、私だけ早い時間に謁見したんだけどね。だって、そんなキラキラのご令嬢と一緒になんて恐れ多いわよね。絶対浮くに決まってるもの。

 

 で、実際お会いしてみた感想が……『この親にしてこの子(ライアン様)あり』と言った具合で、予想のはるか上を行く方々だった。

 まずは国王陛下。少し癖のある金髪に力強い目付きが威圧感を覚えたが、実際に話してみるとそんなことは無く、突然異世界にやってきた私の事を気遣ってくれた。……ただ、言葉の端々に妙に色気があったり、ウインクを飛ばしたりとライアン様と似通った空気を醸し出していた。

 そして、王妃殿下はまるで絵本の中から出てきた妖精のような可憐な方だった。終始穏やかな言葉遣いで、私のことを「リリーちゃん」と呼んだ。


「そなたがリリー殿だね。話はライアンから聞いているよ。そなたとはもっと早く会って話がしたかったのだが、ライアンが渋ってね。なかなか会わせてくれなかったのだよ」

「ホントよねぇ。私だってリリーちゃんのお庭に行ってみたいのに、ライアンばかりずるいわ。ライアンね、貴方のお庭の自慢話ばかりするのよ。意地悪だと思わない?」


 人払いをした一室で、お二人の他には宰相さんとライアン様しかいないからか、お二人は随分と楽しげに私の話を聞いてくれた。

 時々興奮しては宰相さんに止められ、お小言を言われていたが、長い付き合いなのだろう、随分と親しげに見えた。なんだか数年後のライアン様とディランさんを見ているようだ。


 王妃殿下からは是非とも名前で呼んで欲しいと懇願され、「フローレ様」とお呼びすることとなった。本当の名はフロレンツィア様と言うのだが、親しい間柄で呼び合うこの名で呼んで欲しいと仰ったからだ。

 

 フローレ様はローズガーデンをとても気に入ってくれているようで、早くお茶会を開いて自慢したいと無邪気に喜んだ。


 時間も限られていたので、短い時間での謁見となったが、近いうち必ず箱庭に招待すると誓い、退出したのだった。


 そこから私はライアン様にデビュタントの後に開催される舞踏会に招待されたのだが、舞踏会に着ていくドレスなど持っていないので断ろうとしたら、何故か連れていかれた部屋には美しいドレスが準備してあり、あれよあれよという間に大変身させられたのだった。


「ふふふ。ヴェロニカも美しいが……今日のリリーは一段と美しい。どんな令嬢にも劣らない美しさだ。やはり俺の見立てに間違いはなかったな」

 そう言って私を褒めちぎるのは勿論クラウスさん。そして、今私が身につけているこのドレスは、実はクラウスさんの贈り物だったりする。


「クラウスさん、こんな素敵なドレス、本当に良かったんですか? それに、アクセサリーまで……」

「ああ、勿論だよ。愛する女性に贈り物をするのは当然のことだ。とてもよく似合っているよ」

 あぁ……クラウスさんの笑顔が眩しいっ!

 おそらくずっと前からこのドレスは注文してあったのだろう。サイズがピッタリでしっくりくるのは、マダムミンディ製だから。クラウスさんは私に分からないように、こっそりとマダムに相談していたみたいなのだ。

 こんなに美しいドレス、着る機会はあまりないだろうが大切にしたい。


「クラウスさん……ありがとう」

「喜んでくれて嬉しいよ。と言うか、俺もこの指輪……本当に良かったのかい? あの時残しておいたズラトロクを、まさか俺の為に使ってくれるとは思わなかったよ」

 クラウスさんはそう言って左手に嵌められた指輪をそっとなでた。

「ふふふっ、勿論よ。クラウスさんにピッタリの素材だし、きっと貴方を守ってくれるはず」


 ドレスがクラウスさんからの贈り物だと知らされた時、丁度いい機会だからと、以前装備屋のバーニーさんに作ってもらったズラトロクの角で作った指輪を渡したのだ。

 ズラトロクの角で作られたその指輪は、角でできているとは思えないほど美しく、よく見ると真珠のように角度によって深い光沢を放っている。

 飾り気のないツルリとした指輪だが、ズラトロクの角は雷の魔力を帯びているので、雷の魔力持ちのクラウスさんに打って付けの指輪と言える。

 装飾品ではなく、魔道具としての指輪だ。


「でも……左手に付けるとは思っていたけど、まさか薬指だとは思わなかったわ」

 そう、クラウスさん嵌めた指輪は、薬指だった。それってまるで……。

「ん? 薬指だと何かあるのかい?」

 この世界では婚約指輪や結婚指輪の概念が無いため、クラウスさんはキョトンとして薬指を眺めているが、プロポーズに贈る指輪が薬指に嵌められるとは思いもしないだろう。

「ううん、何でもない」

  薬指の指輪の意味を知られたら、恥ずかしくてたまらなくなるので絶対に内緒だ。


「あ〜ぁ、見せつけてくれるね」

 私達がホールの端で話し込んでいると、見知った二人が揶揄うように近づいてきた。

「こんばんは、リリー殿。今宵の貴女はどのご令嬢よりも美しいですね。男共は貴女の姿に釘付けですよ。クラウス、彼女の手を離さないように。男共がリリー殿を狙っておいでだ」

「リリー本当に綺麗。流石クラウス兄様の見立てたドレスね、リリーによく似合っているわ」


 その人物は、ファーストダンスを踊り終えたヴェロニカと、その兄ロドリック様だった。ヴェロニカはロドリック様の腕に手を添え愛らしい顔を向けている。


「ありがとうございます、ロドリック様。お世辞でも嬉しいです。ヴェロニカもとても綺麗ね、デビュタントおめでとう」

 お世辞とわかっていても褒められると嬉しいものだ。貴族男性は挨拶がわりに女性を褒めるのが当たり前らしいので、サラリと受け止めておく。

「ふふふ、ロドリックに言われずとも離しはしないさ。ヴェロニカ、今日の君はどの令嬢よりも美しいよ。これで君も一人前のレディとして社交界にデビューしたわけだ。ブローディアの名に恥じない振る舞いを期待しているよ」

「まぁ、嬉しいわ。でも、心の声がダダ漏れですわよ? (リリーの次に)ってね」

 ヴェロニカはクスクスと笑ってクラウスさんを揶揄う。


「そうだ、ヴェロニカ……あの返事、今晩って聞いたんだけど、もう心は決まったの?」

 あの返事、それは勿論ライアン様からの求婚の事だ。先程国王陛下へ謁見した際、その話も出たのだ。


「まさかヴェロニカが殿下のお眼鏡に適うとは思いもしなかったが……これは大変な名誉だ。初め聞いた時は腰を抜かすかと思ったよ。あぁ、殿下の求婚を受けるかどうかはヴェロニカの心しだい、殿下からは「私からの求婚だからと言ってヴェロニカに無理強いはさせないように」ってキツく釘を刺されているからね、名誉だからと言って強制させる気はないよ」

 その他にも既にライアン様は多方面に働きかけているようで、彼の本気が見て取れた。


「ええ。ライ様……いいえ、殿下には誠心誠意お返事をさせていただきます」

「うん。ヴェロニカがどんな返事をしても私は応援するわ。しっかりね」

「ヴェロニカ、噂をすれば……いらしたようだよ」

 私達が目を向けると王太子の到着に場は沸き立ち、令嬢達からは歓喜の溜め息がそこかしこから漏れている。


 ライアン様は真っ直ぐとこちらへ向かって歩いてくる。ただ一点、ヴェロニカを見つめながら。



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