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回顧録2 束の間の二人の時間

 なんて! 失態なの! バカ! 私のバカ!

「う〜〜〜〜っ」

 ここは私の個人の部屋。そこで今、先程の失態を思い返しながら子猫になったガウルさんを魔法を使って乾かしている。

 クラウスさんに見られるだなんて恥ずかしすぎる。

「っていうかロジーもロジーよ! クラウスさんを唆してバスルームに連れてきたのロジーでしょ!?」

『えへへ。バレちゃってる? 別にいいじゃん、リリーあいつのこと好きなんでしょ? 人間の番はそれくらい普通だと思ったんだけどな〜。それに前に一緒に魔泉にだって入ってたし……今更じゃん?』

「もう! 思い出したくない事まで思い出させないでよ! 忘れかけてたのに……」

『怒ったリリーも可愛いね』


 ふふっと笑ったロジーは私の頬にチュッと口付けを落とし窓から外へと飛び出して行った。

「もう……自由なんだから」

 少し前まではクラウスさんを毛嫌いしてたみたいだけど、最近は自分から話をするようになってきた。

 でも、あまりにもいたずらが過ぎるわ。


 改めて自分の姿を見てみると、ブラウスが肌に張り付いて胸の膨らみがハッキリと見て取れる。

「これを……見られたのよね……」

 あの時、私のこの姿に気が付いたクラウスさんは、直ぐに後ろを向いて見ないようにしてくれたけれども、見られたことには変わりない。

「はぁ……恥ずかしすぎる」


 ずっとここにいるわけにもいかない。これからクラウスさんと夜市に行く約束をしてるのだ。子猫のガウルさんを乾かすと、手早く新しい服に着替え、クラウスさんの待つリビングへと向かった。


「あ、あの……お待たせしました」

 おずおずとガウルさんを抱えてリビングへ入ると、クラウスさんはソファに座ったままニッコリと微笑んだ。

「ああ、リリー。そんなに待ってはいないよ。ん? それは新しい服かい? よく似合ってるよ」

 つい先程の出来事にまともにクラウスさんの顔を見れないでいたが、有難いことにクラウスさんは何も無かったかのように振舞ってくれた。

 おかげで少しはまともにクラウスさんと話が出来そうだ。


 しばらくするとガウルさんが元の姿に戻り「俺は一体……」と、不思議がるガウルさんに事のあらましを説明した後、ようやく私達は夜市へと出発したのだった。


「ほんとガウルさんには申し訳ないことしたわ」

「まぁまぁ。何事も無かった訳だし、ガウルも気にするなと言っていただろう?」

「でも……」

「ほら、今日は楽しみにしていた夜市だろう? そんな顔してると楽しめないよ」

「うん……そうね。後でガウルさんにはお詫びのスイーツでも作って届けておくわ。今日は折角クラウスさんが誘ってくれたんだもの、楽しまないとね」


 しばらく歩くとすぐ目の前に辻馬車が見えてきた。この馬車は庶民の居住区に一番近い商業街まで行き来をしていて、停留所がちょうど夜市の広場が近くにあるのだ。

 私も孤児院に行く時などよく利用させてもらっている。

 

「それではレディ、お手をどうぞ」

 そう言って腕を差し出す様子は様になりすぎて思わず見とれてしまうほど。

 差し出された腕にそっと手を添え、馬車に乗り込む。


 この辻馬車は下位貴族も利用しているらしく、外から見えないように黒いカーテンが引かれている。そのカーテンをいつものように開いて、外の景色がよく見えるようにする。

 車内に魔石ランタンがあるとはいえ、カーテンが引かれた薄暗い車内は居心地が悪い。

 ましてや、クラウスさんと二人きりで密室となると、なんだかドキドキして落ち着かなさそうだもの。いや……別に変なこと考えてるわけじゃないけどね!


 辺りは既に夜の(とばり)が下りているが、貴族街故か光の魔石を動力とした街灯が石畳を照らしている。魔石から発せられる光は白っぽいLEDライトのようだ。光量は決して強くはないが、間隔をさほど開けずに設置された街灯は、夜道を歩くのも苦労しない程。


 まぁ、貴族の方々は夜道を歩くなど庶民のような真似はしないのだけれども……。

 特に高位の貴族の方はお家お家でマイカーならぬマイ馬車をお持ちのようで、クラウスさんのご実家にも家紋が描かれた馬車があるそうだ。

 ……という事は、クラウスさんも高位の貴族なんでしょうね。今まで特に触れてこなかったが、何となく爵位を聞いてみれば、あっさりと「ウィンザーベルク家は伯爵家だよ」と教えてくれた。


 ただし、後からディランさんに詳しく教えてもらった内容では、ウィンザーベルク家は伯爵の中でも特別な爵位【辺境伯】という名の力を持った伯爵家なのだそう。

 まだまだ勉強中の身で、【辺境伯】と言われても、何が特別なのか分からないが、この国の事は詳しく知っておきたいのでクラウスさんやディランさんに教えてもらわねばならないだろう。


 そう言えば、ブローディア伯爵様も馬車をお持ちだったわね、などと馬車内では王都、貴族に関する些細な話題で盛り上がった。

 例えば、社交に関して。

 今は社交シーズンなので領地持ちのお貴族様方はここ王都へ滞在し、社交シーズンが終わると領地へ戻っていくのだそう。ちなみにこの国の社交シーズンは春先から夏の終わりにかけての間なんだって。

 ただし、領地持ちではない貴族、王都で仕事を抱える貴族、王都から離れたくない貴族は王都に留まるらしい。

 

 ちなみにウィンザーベルク家は現在、クラウスさんのお兄さんが王城で働いている為、王都に住居を構えていて、お父様とお母様は領地でスローライフを送っていると、クラウスさんに教えてもらった。

 お父様とお母様は随分と仲がよろしいようで、未だにラブラブなんだって! お兄様のウィンザーベルク伯爵様は大変優秀らしく、クラウスさんも憧れの存在だと言っていた。

 家族の事をこうして話してもらえるって、心がふわふわと嬉しい気持ちになるわね。


 社交シーズン中は様々な催し物が開催され、男性であれば乗馬や会議やクラブ、女性であれば女性同士のコミュニティであるお茶会、そして夜になれば華やかな舞踏会、通称夜会が開かれる。

 確か、ヴェロニカは来年社交界デビューでデビュタントを控えていると言っていた。この国では十五歳が社交界デビューのお年頃なんだとか。


 そして、夜会では若い男女のお見合いも兼ねているそうで、ご令嬢方は将来有望そうな殿方に見初められるために、自身を美しく着飾り色々な方とダンスを踊り会話を楽しむそうだ。


 十五歳で婚活か……貴族って大変だな……などと思っていたが、庶民でも遅くとも二十歳までには結婚するのが一般的で、二十歳を過ぎてしまうと、いわゆる【行き遅れ】の部類に入ってしまうらしい。

 私……今年で二十二歳なので完全に行き遅れだわ……まぁ、全然気にしてないけどね!

 

 街灯は、商業街から庶民の居住区へ移る辺りで全て炎のランタンへと姿を変える。こちらのランタンも小さな炎の魔石を使用しているそうだ。

 こちらは貴族街のLEDのような光ではなく、オレンジ色の暖かな光を感じる。

 

「もうすぐだね」

 クラウスさんがそういう通り、窓の外を眺めればいつもの停留所の近くまでやって来ていた。

 楽しい会話ももうすぐ終わり。馬車を降りれば次はいよいよ夜市だ。

 通い慣れたこの道も夜となっては雰囲気がガラリと変わる。こうして夜出歩くのは、王都にやって来て初めてなので新鮮だ。

 騎士団の皆が「何かあっては困るから、絶対に夜は出歩かないでくれ」って言うのだもの。仕方がないわよね。


 馬車の揺れが収まると、外から扉を開けてもらうまで少しの間、間が空いてしまった。

 すると、クラウスさんは「少しだけ……」そう言って隣に座る私をギュッと抱きしめた。


「二人っきりの時間は貴重だからね」

 そう言って、驚いて口が半分空いた私に軽く口付けをすると、パッと抱擁を解いた。

 その一連の流れるような所作に恥じる間もなく呆気にとられてしまった。

「い、今のは……ず、ずるい……しかも、カーテン開けっ放しなのに……」

 顔が赤くなる頃には外から御者さんが扉を開け、クラウスさんが何食わぬ顔でエスコートするように手を差し伸べてきた。


 いつもいつもドキドキさせられっぱなし……きっと今度は私がクラウスさんをドキドキさせてあげるんだから!

 そう意気込んで、クラウスさんの手を取り馬車を降りた。

ゴールデンウィーク、STAY HOME!

という事で、私のSTAY HOMEは花壇にお花を植えたり、ちょっとしたお野菜を植えたり、裏庭のぼうぼうの草むしりをしたり、ガーデニングに勤しんでおります。ミミズさんこんにちは!

まだ春なのに夏の日差しのようで焼けてしまいそうです(汗)

皆さんはどんなSTAY HOMEをお過ごしですか?


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