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出発準備

ブックマーク、評価、ありがとうございます。今週もまた誤字報告頂きました。とても助かっております!

 出発までの二週間はそれはそれは大忙し。と言っても、自分達の身の回りの準備だけなのだが。

 ありがたいことに、王城のメイドさん達から【南国の島へ渡るなら必ず持っていくべき物リスト】なる物を頂き、秘書官の皆様からは港町【クレメオ】と南国の島【フランジパニ】の現地の情報が書かれた大量のメモ(というよりかは報告書に近い)を頂いているので、何と準備のしやすいことか!

 しかも、クレメオの街の見取り図の端々に、走り書きでどこどこの宿は料理が美味しいとか、土産物を買うならこのお店! とか、ここは貝類の美味しいお店! 等々、秘書官さんらしい綺麗な字で所々にメモがしてあった。

 

「なんていい人たちなのっ!」


 私は買い物リストをポーチにしまい、エントランスまで降りると、エントランスには既に準備万端のリリアナとジャンクが待っていた。

「二人ともおはよう」

「おはようございます。リリーさん」

「リリーさんおはよう!」

 二人はカジュアルな服を身にまとっている。リリアナは私と一緒にマダム・ミンディーに仕立ててもらったワンピースを着ており、ジャンクはガウルさん御用達のお店で服を仕立ててもらった服を着ている。

 二人には魔獣の素材売ったお金をを渡そうとしたのだが、全力で拒否されてしまったので、現物支給することに決めたのだ。

 

「二人とも似合ってるわよ」

 リリアナは淡い水色のワンピースに白い肌が映えて、まるで青空のようだ。可愛いと褒めれば照れたようにはにかみ、頬を染める。

 ジャンクの方はまるでガウルさんを若返らせたかのようで、そのことを伝えるとガウルさんを兄貴と慕うジャンクは嬉しそうに白い歯を覗かせた。

 今日はこのメンバーで旅の買い出しに行こうと思う。


「さて、それじゃあ行こうか」

 そう言って私達は商業区へと向かった。


 まず向かったのは、食料が集まる朝市だ。

 ここ王都には毎朝新鮮な野菜や魚、お肉が集まってくる。朝市の会場は広く、様々なジャンルのお店が軒を連ねている。

「リリーさん、見てください! 見たことの無い果物が山盛りです!」

 そう言って色とりどりの果物を指さすのはリリアナだ。

 リリアナ達を保護した後「リリアナって兎の亜人じゃない? リリアナってお肉とか食べれるの? やっぱり草食の亜人はお野菜しか食べないの? 好きな食べ物って何?」と聞いたことがあった。

 するとリリアナは「お肉もお魚も食べますけど、基本お野菜が多いです。これは私の味覚の好みなので、お魚が好きな兎の亜人もいれば、お野菜の嫌いな亜人もいるので、味覚は人間と一緒です。あ、私は果物が一番好きです」と言っていた。

 果物好きのリリアナは、見たことの無い果物に目を輝かせている。


「ほんとね! 私も見たことの無い果物が沢山あるわ」

「リリーさんでも知らない果物があるんですね。意外です」

 ジャンクは本当に意外そうに私を見た。その姿が何だかおかしくて笑ってしまう。

「もちろんよ。私の知らない事なんて沢山あるわよ。ただ、貴方達の知らない世界の事を私が知っているってだけで、この世界に関しては貴方達よりも知らない事は多いわよ」

 ジャンクとリリアナにはこの先も一緒に旅を続けるにあたり、私が別の世界からやってきた事を話してある。

 二人は驚いていたが、私の不思議な力と知識が転移者であることを納得させた。


「果物は大事よ。秘書官さんの話によれば、フランジパニまでは港町クレメオから船で二十日程かかるらしいから、その間の栄養管理は大事だからね」

 一度船に乗ったら、フランジパニに着くまではどこにも寄らない。船で生活する間の食事には気をつけなければならないものね。

「まずはここから食料品を揃えていきましょう」


「いらっしゃい! 今日も珍しい果物が入ってるよ!」

 露店に近づくと威勢のいい声が私達を迎えてくれた。元気に声をかけてくれたのは、ここの店主であろう青年だ。

 店主の言う通り、並べられた果物は半分以上が見たことの無い果物だった。王都で暮らし始めてからだいぶこちらの食材にも慣れたと思ったが、まだまだ私の知らない食べ物があるんだなと、思い知らされる。


「見たことの無い果物ばかりでどれを買ったらいいか分からないんですけど、おすすめってありますか?」

「そうだろそうだろ! ここ王都でも珍しい果物ばかりだからな。そうだな……例えばこれなんかおすすめだね」


 そう言って差し出されたのは、真っ赤なピンポン玉サイズの果物だ。ルビーベリーに似ているが、大きさがまるで違う。

 店主は私とリリアナ、ジャンクに一つずつ手渡してくれた。

「食べてみてもいいんですか?」

「もちろんだよ。食べてみないと分からないだろうからね。そのかわり気に入ったら買ってくれよ」

 店主はニカッと人のいい笑顔を向けてきた。


「それじゃあ遠慮なく頂きますね」

 大きな果実を半分ほどかじると、ジュワッと爽やかな果汁が口の中いっぱいに広がる。

「んん! 美味しい! なんて甘いの!? それに甘いだけじゃなく、程よい酸味が後を引くわ」


 リリアナとジャンクもその甘さに目を丸くしている。

「リリーさん、これ美味しいですね!」

「本当だ。すげぇ甘い」

 中の種を避けながら、モグモグと口を動かす二人。甘くて美味しくてつい笑みが零れる。

 それにしても、この果実……何かに似てるわね。この甘酸っぱさは……そう、さくらんぼだ。


「どうだい? 気に入ったかい?」

「ええ、とっても! この果実、なんて名前ですか?」

「これは北の地で採れるチェリルって果物さ」

「本当に美味しかったわ。このチェリル頂くわね」

「まいど! いくら必要だい?」


 目の前には藤で出来た籠にチェリルの果実が山盛り五つあった。

 旅には私とリリアナ、ジャンクに特務のメンバー、それにロジーとスノーが付いてきてくれる。そこまでの大所帯ではないにしろ、そこそこの人数がいるのでかなりの数を揃えなければならない。


「そうですね……そこの籠全部ください」

「まいど! はっ!? ぜ、全部!?」

 店主はそこまで買ってくれると思っていなかったのだろう、驚きの声をあげた。

「ええ、全部です。これから旅に出るので十人分程の食料を買いに来たんです」

「そうだったのかい、驚いたよ。あ、でもこのチェリル、日持ちはしないから旅には向いていないよ? 果実も柔らかいからすぐに傷んでしまうんだ」

 店主は親切にそう教えてくれたが、私にはアイテムボックスという最強のギフトがある。

「そこは大丈夫です。アイテムボックス持ちなので」

 そう言うと、店主は羨ましそうにアイテムボックスに消えていくチェリルを見ていた。


 チェリルの他にもプルーンに似た果実のプルムと、柑橘系の果実のオランジュ、トゲトゲの果皮が特徴の山桃に似た果実のスーモ、蛇の鱗のような果皮に包まれ、パイナップルのような風味のスネークフルーツ。等々、沢山の美味しいフルーツを購入した。


「毎度あり! またご贔屓に!」


 店主は沢山買ってくれたからと、オマケに生搾りのスネークフルーツジュースを三人分用意してくれた。見た目は蛇の鱗模様で正直気持ち悪いのだが、味は抜群に美味しい。折角なのでもっと美味しく頂く為に、三人分のコップにツン、ツン、ツンと人差し指を当て、氷魔法でキンキンに冷やした。

「最高……」

「甘いジュースなのに冷えてるおかげか、くどくないですね」

「ほんとね。夏の飲み物って感じ。これを炭酸で割ったらもっと美味しいかも……」

 昔、遠い地で飲んだパインサイダーを思い出した。美味しかったなぁ……。


「リリーさん、タンサンって何ですか?」

「あ、俺も初めて聞く」

 二人は聞きなれない言葉に首を傾げた。

 そりゃそうか。この世界で認識されている気体は【空気】一択しかない。【酸素】も【二酸化炭素】もこの世界の知識には存在しないのだ。これでは説明するのは難しそうね……。


「えっとね、炭酸って言うのはね、シュワシュワする液体? かな。口に含むと液体がパチパチ弾けるの」

 リリアナとジャンクに分かりやすいように簡単な言葉で説明するも、「口の中で弾ける!? 爆発するんですか!?」と中々うまく伝わらなかった。

 いつか炭酸の代わりになるような素材が見つかれば、二人に飲ませてあげようと思う。きっと驚くわよね。二人の反応が楽しみだ。


 その先も沢山の野菜や魚を買い、どんどんアイテムボックスへとしまっていく。

 お肉は既に最高級の魔獣のお肉がこれでもかとアイテムボックスに入っているので、朝市では購入しないでおいた。

 

「ふぅ。食料品はこんなところかな? ちょうどお昼だから一休みしましょう」

 一頻り食料を買い込んでアイテムボックスへしまうと、私達は朝市の会場からほど近い場所にある、屋台が集まる広場までやってきた。

 ここでは朝早くから様々な屋台が暖かな食事を販売している。そして、夜になればここは夜市としてガラリと雰囲気を変え、お酒を飲みながら夜を楽しむことも出来るのだ。


 私達は屋台からそれぞれ好きな物を購入し、三人でシェアしながら昼食を取った。

「リリーさん、今日の買い物はこれで終わりですか?」

 リリアナは小エビの串揚げを一つかじりとると、サクサクと音を立てて美味しそうに食べている。

「そうね、後は生活雑貨の補充と、貴方達の装備品の受け取りと、三人分のフランジパニ用の衣類の受け取りで最後かな?」

「おぉ! 俺達の装備品できあがったんですね! ガウルの兄貴に見繕ってもらった装備、楽しみだなぁ!」

 ジャンクはワイルドボアの串焼きを両手に持ち、口いっぱいに頬張りながら満面の笑みを浮かべる。

「ジャンクってはほんとガウルさん好きよね」

「ガウルの兄貴は偉大なんだよ。強くて優しくて頼りになって……俺の目標なんだ」


 相変わらずお肉を頬張りながら話すジャンクに、リリアナが小言を言っている。

「もぉ、ジャンク、汚い。ちゃんと飲み込んでから喋ってよ」

 二人はやいやいと言い合いをしているが、本気で喧嘩をしているわけでもなく、特にジャンクは楽しんでいるようにも見える。今まで人と関わらずに暮らしてきた反動なのか、最近では随分と話すようになってきた。

 何はともあれ、仲良きことは美しきかな。


 私達は残りの昼食を綺麗に平らげると、今度は商業街へと向かって歩き始めた。

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