二つ名
多忙の為、更新遅くなりました。
ブックマーク、評価、ありがとうございます。また、莫大な量の誤字報告をくださいました方、本当にありがとうございます!とても助かっております!
自分でも見直しているつもりですが、ニホンゴって難しいですね(汗)
「やはりリリーのお茶は心地が良くなるね。皆の表情も穏やかになったところでリリーの紹介をしようか。さっき皆に紹介したい人がいると言ったのは、このリリーの事なんだ。彼女は巷では色んな二つ名が付いているんだけど、ここ王都では【祝福の魔女様】なんて呼ばれているみたいだね。ブローディアでは確か【ブローディアの女神】だったかな?」
ライアン様はそう言ってここにいる全員に私を紹介した。
【祝福の魔女】!? 何よそれ!? 【ブローディアの女神】に引き続き、また新たな二つ名に顔がヒクヒクと引き攣る。
ステータス……開きたくないわね……
「おぉ! それではあの噂は本当だったのですね?」
「王太子妃殿下の誕生は目前ということですな!」
「それならば私達を妃殿下のお側付きとして選んでくださったのですか!?」
「なんとおめでたいのでしょう!」
秘書官もメイドも騎士達も挙って祝福の言葉をライアン様にかけている。
いやいやいや! 否定しなさいよ!
相変わらずニコニコと否定もせず皆の話に相槌を打つライアン様にガックリと項垂れる。
ライアン様はにこやかに皆を制すと、私に向かってこんなことを言った。
「だってよ? リリー。僕の婚約者になってくれるかな?」
その瞬間、突然と部屋の空気がザワザワと泡立ち、肌がピリピリと刺激される。発生元は……まぁ、クラウスさんなのだが、後ろに控える特務のメンバーは苦笑いでその様子を見ていた。
「殿下。おふざけはここまでですよ。本気で怒られたいんですか? ほら、ちゃんと訂正してください。じゃないと強〜烈なの……喰らいますよ?」
今にも強烈な電撃を放とうとするクラウスさんに目配せをし、苦笑いを向ける。
「おふざけ? で、殿下、これは一体……」
「何故特務のウィンザーベルク様の気が立っていらっしゃるのかしら?」
私の言葉に皆が困惑する。
「ごめんごめん。まぁ、許してくれ。ただの遊び心じゃないか」
クスクスと笑い、改めて皆に口を開くライアン様。
「皆にはガッカリさせてしまうが、リリーにはもう既に心に決めた人物がいるからね。いくら私が妻にと求めても叶うことはないだろう。あぁ、この際だからリリーから皆に教えてやってくれ。リリーが誰を想っているのか、そして誰に想われているのかをね」
突然のライアン様の爆弾発言に「は?」と変な声が出てしまった。この人……私を困らせて楽しもうとしてるわね?
だが、ライアン様と変な噂を払拭する為にも、意を決して口を開く。
「あ、あの……私がお慕いしているのは……クラウス・ウィンザーベルク様です」
こんな沢山の人の前で想い人の名を告げるなんて、恥ずかしくて赤面してしまう。
クラウスさんをチラリと見ればさっきの雰囲気からガラリと表情を変え、ふわりと笑みを向けてくれる。
「え……?」
「なんと! あの女嫌いで有名なウィンザーベルク殿が魔女殿のお相手ですと?」
「そう言えば街で流れている噂に、特務の隊長が女性と仲睦まじげに歩いていたという話があったわ」
「私も聞いたことがあります。初めて聞いた時は何かの間違いではと思いましたが……仲良く街を歩く姿はお似合いだったとの噂でしたわね」
「では、その女性というのが……リリー様ですか?」
「そういう事。だから私の妻には迎えられないんだ。この事は陛下にも王妃殿下にも伝えてある。何故君達にリリーを紹介したのかはこれから詳しく説明するよ」
ライアン様がそこまで言うと、その先をディランさんが引き継いだ。
どんな話だったかと言うと、まずは私がこの国で行ってきた事が話された。バースの村でのハーブの栽培、西の森の魔素の浄化、ブローディアでの女性失踪事件の解決、奴隷商からの子供達の解放……などなど、ディランさんが実際に目にした私に関する事が語られた。
「リリーは世界に蔓延る、人に害なす魔素を浄化する為、各地を旅するそうなんだ。そこで、私達は国としてリリーを支えていく方針を固めた。この事は陛下にも報告済みで、リリーのことに関しては私に全ての権限を一任していただいている。少しでもリリーの浄化の旅がスムーズに行くようにね。リリーには特務部隊を旅のお供として付け、残った者もリリーをサポートすべく働いてもらいたい。それからリリー、君にはここ王都に拠点を作ってもらいたい。いくら浄化の為とはいえ、帰る場所もなく旅をしっぱなしというのはあまり宜しくない。それに、ここに帰ってくれば世界の情報が手に取るように分かるから、次にどの土地へ赴くか決めやすいだろう?」
拠点……か。急に真面目になったライアン様の話を真剣に考えてみる。
確かにここ王都には様々な情報が集まってくる。考え無しに知らない土地へ赴くのは賢いとは言えないだろう。
私はここに拠点を置くことに心を決め、首を縦に振った。
「さて、じゃあリリーは次の土地をどこに決めるのかな? もう次の土地へ旅立つ事を考えているんじゃない?」
ライアン様は私の次の旅先を聞いてきた。
次の土地……それは既に決めてあって、クラウスさんには伝えてある。クラウスさんも目でうなずいてくれる。
「ええ。王都でのやりたい事も一段落ついたことですし、次は港町【クレメオ】に寄ってから海を渡り、穀物の生産が盛んな島に向かいたいと思ってます」
そう。昨年ブローディアで偶然出会った……私以外の転移者の御家族、イーヴォさんとヴィムさんとの約束を果たしに。
マサさんのお墓参りと、新たな穀物【もち米】を探す為に海を渡ろうと思う。
もちろん魔素の状況も見て回るのも忘れないわよ。
イーヴォさんとヴィムとの約束はもうすぐ果たすことが出来る。遠い島なので移動するのにも大変だが、あの時の約束が果たせることに安堵する。
「それは確か……」
「ええ。【酒の魔術師】の故郷ですね」
マサさんが転移者だと言うことは王族以外知られてはならない。皆にはその事を伏せ、知り合いのいる島が【酒の魔術師】の故郷らしいので、そこから巡ってみたいと提案した。
そこからライアン様は秘書官に現地の情報をまとめるように指示し、メイドには南の島に渡る為の生活必需品のリストアップ、騎士様達へは【クレメオ】の派出所にいる騎士様達へ伝令を送るよう、テキパキと指示を出している。
おぉ。これが王太子モードのライアン様なのね。
「いつもこの位真面目にやってくれれば俺達が苦労することもないんだがな……」
小さな声で呟くディランさんに苦笑いをし、全くその通りだと同意した。
王太子モードのライアン様は仕事の出来るいい上司のようだ。皆が与えられた仕事に顔を輝かせている。
出発は二週間後。それまでに万全に準備を整えておこう。
……そして出発までの二週間、慌ただしく過ぎていく一方で、リリーの知らないところで、とある情報が第一騎士団により王太子ライアンへと報告された。
「何? ベラドンナだと……?」
「ええ。あの男からそのような名前が……」
「ベラドンナと言ったら、ブローディア女性失踪事件の影で動いていた女じゃないか。それがどうして……」
ライアンはフェルンバッハから報告される言葉に眉をしかめた。
「至急事実確認の為、あの男から搾り取れるだけの情報を入手致します。リリー殿への報告は如何致しますか?」
「リリーか……いや、リリーには余計な心配はかけたくない。この件は彼女には知らせず浄化の旅に専念してもらおう」
「はっ」
一人執務室に残ったライアンはフェルンバッハより受けた報告書を読み返す。そこには今回の第二秘書官の男からの供述の他に、ブローディアで起きた事件の詳細も書かれていた。
このベラドンナが個人として動いているのか、それともサラセニアという国として動いているのか……。アズレア王国としては気になるところだ。
それに、リリーが聞いたというベラドンナの言葉も気になる。『やはりこの世界を統べるのは祖国サラセニアの他にない』そう言っていたと。
「サラセニアか……」
そろそろ本格的に調査に乗り出さなければと深い溜息をつき、報告書を閉じた。




