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孤児院

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 孤児院について私が相談したのは、ここの畑でハーブを育て、子供達にも簡単に作れるポプリやステビアスイーツを販売し、孤児院の運営費に当てる事だ。

 実は、ここ王都では私が販売するハーブ関連の商品が爆発的に人気が上がり、常に品薄状態となっていた。

 そこで、孤児院の子供達に手伝ってもらい商品の数を確保しようとしたのだ。

 勿論、売上金は全て孤児院運営の為に使ってもらう。


「へぇ。リリー、いい事考えついたね」

 ライアン様は私の提案を快諾してくれたが、問題は山のようにある。

 一つは人員だ。今現在、孤児院の運営は院長先生が一人で切り盛りしている。そこにハーブの販売などは過酷すぎるだろう。ただでさえ子供が増えていて院長先生の負担はどんどん増えていっているのだから。


 と、そこで院長先生から提案があった。

「それならば、心当たりがあります」

 院長先生は三人ほど優秀な人材に心当たりがあると言う。

 それは、ここを卒院した卒院生だった。

 話を聞いてみると、三人は優秀なのに孤児院育ちと言うだけで良い働き口が見つからないのだと言う。

 ちなみに計算などの勉強は院長先生がみっちり叩き込んであるらしい。流石、元商家の奥様だ。


「それではその三人とは後日面談するとしましょう」

 孤児院の運営に関わる大事な人材なので、私も直接会って話をしてみなければならない。


 二つ目は防犯について。

 恐らく、ここでハーブが栽培されていると知られれば、よからぬ事を企む連中に目をつけられるはずだ。

 王都には騎士団が常駐しているとはいえ、子供達を少しでも危険な目に合わせるわけには行かない。それに、騎士団の方にここを守ってもらうのもちょっと違うと思う。


 出来ることならずっと見守ってくれる事が出来る方がいればいいのだけれど……

 とそこで、ふとクラウスさんが口を開いた。

「精霊……みたいな、ずっとそばに居てくれる存在がいればいいのにな」

 …………それだ!

「クラウスさん、ナイスアイデア! 精霊は無理だけど、その方向性で行きましょう! 後でロジーに相談してみるわ」


 次は三つ目、販売する場所について。

 こちらはライアン様によってすんなりと決まった。

 孤児院の世間への偏見を払拭する為、販売所はこの孤児院の敷地内に作る事に決まった。

 なんと、ライアン様が国の予算をこの孤児院の為にぶんどっ……確保してくれると言うのだ。

「ディランさん、ライアン様あんなこと言ってるけど実際どうなの?」

 一人張り切るライアン様を横目にコソコソとディランさんに尋ねてみると「あいつはやると言ったら必ずやる男だ。あの目をしたライアン様は無敵だからな」と何やら何も心配しなくても良さそうだった。ここはライアン様に任せるとしよう。


 その後も細かいことを話し合い、その日はそこまでとなった。

 次にここを訪れるのは約二週間後、野菜とハーブの苗を植える日なので、それまで各自出来る事を精一杯やろうと話し、解散となった。


 そしてその日の夕方、里帰りをしていたジャンクとリリアナが戻って来た。どうやら途中でバッタリ会ったらしく、二人で箱庭へと戻ってきたのだった。

 ジャンクに付いて行ったガウルさんと、リリアナに付いて行ったアニーさんとフレッドさんは騎士隊舎前で別れたと言う。


「二人とも、おかえりなさい。無事に帰って来れて良かったわ。どこも怪我してないわね?」

 そう声を掛けると、二人は嬉しそうに返事をした。

「た、ただいま戻りました」

「ただいまリリーさん。俺もリリアナも怪我はありません」

「そう。良かったわ。さぁ、まずは荷物を置いてリビングにいらっしゃい。ハーブティーとクッキーを用意しておくわ」


 その後、ハーブティーを飲みながら二人がいなかった時の様子を話して聞かせた。

「それじゃあすぐに出発はしないんですね」

「ええ。暫くは孤児院の運営を手伝おうと思うの。だからここを発つのは夏真っ盛りの頃かしらね。それで、二人はどうだったの?」


 こちらの状況を話した後は二人の様子を伺う。

「じぁあ俺から。俺の方はフェルンバッハ隊長さんが両親を丁寧に埋葬してくれていたので両親にここを出て行くことを報告してきました。後は自分の少量の荷物を取った後、ガウルの兄貴に手伝ってもらって家を解体してきました」

「解体って……そこまでする必要なかったんじゃない?」

「いえ、俺はリリーさんに付いていくと決めたので……もう前を向いて進みたいんです」

 ジャンクはその決意を揺るがさないために家を解体したのだと言う。

「そう……分かったわ。リリアナはどうだった?」


「私の方は……村に行ったらやはり既に生き残りは次の土地に向けて出発した後で、誰も残っていませんでした。元々私も荷物は少ない方だけど、住んでいた家の片付けをしていたらコレが……」

 そう言ってリリアナが見せてくれたのは深い青色の魔石が付いたペンダントだった。

「これは?」

「これはリーゼがいつも肌身離さず着けていたペンダントです。この魔石は昔リーゼが初めて自分で仕留めた魔物から出てきた魔石で、ずっと大切にしてたものです」

 恐らく、襲われた際に引っ掛けて落としてしまったのだろう。

「そう……ん? この魔石、まだ魔力を失ってないわね。仄かに魔力を感じるわ」


 青い魔石はよく見ないと分からないほどだったが、ジワジワと魔力が零れ出していた。

「ほ、ほんとだ。気が付かなかった……リーゼは「この魔石は守りの魔法が込められているのよ」って言ってたけど、結局守ってはくれませんでしたね……」

 寂しそうにペンダントを見つめるリリアナにペンダントを返すと、そのまま自分の首に装着した。

「また……会えるかな……」

 リリアナはペンダントを優しく撫で目を閉じた。

「きっと見つけ出しましょうね。その時は私も全力で協力するから」

 

 戻ってすぐの二人はだいぶ疲れていたようなので、その日はすぐに部屋へ戻り眠ってしまったようだ。

 二人がいない間、シェアハウスに新しく部屋を準備したので今後そこが二人の部屋となる。


『奴隷か……』

『人間って残酷だよな〜』

 キッチンで一人後片付けをしていると、スノーとロジーがそう言ってダイニングテーブルに付いた。

「ほんとよね……私の元の世界でも大昔奴隷っていたけど、ほんと残酷よね」

 いつもの様にスノーはワインを、ロジーはホットココミルクを飲もうとしていたので「ちょっと待った!」と二人を止めた。


「孤児院の事でバタバタしてて忘れてたけど、二人にお土産があったのよね」

 私はそう言ってアイテムボックスからグラスセットとマグカップを取り出すと二人に渡した。


『こ、これ、僕に?』

「ええそうよ」

『リリー、ここにロジーって書いてある!』

「あはは、ごめんね下手な字で……」

『え? これリリーが書いてくれたの!?』

 マグカップに書かれた「ロジー」の文字。それは食器店で行っていたサービスで、食器に文字を入れてくれるものだった。

 そして、沢山買っくれたお礼にと自分で書いてみないかと店主に言われ「ロジー」の文字をこの国の文字で書かせてもらったのだった。

 ロジーはジーッとマグカップの文字を見つめると、ふにゃりと笑い私に抱きついてきた。

『リリーありがと。とっても嬉しい……』

 そして両頬にチュッ、チュッ。と口付けを落とした。

「ふふっ。喜んでくれて嬉しい」

 ロジーは早速マグカップを持ってキッチンへと駆け込んでいった。


 スノーはと言うと、既にグラスにワインを注いであり、光にワインをかざしながらうっとりと眺めていた。

『リリー、ありがとう。こんなにも嬉しいプレゼントは他にないよ』

「この間スノーに沢山お酒貰ったからね。お礼よ。お酒好きなスノーにピッタリかと思って」

 そう言うとスノーは私の額と頭に口付けを落とし、妖艶に微笑んだ。

『折角だからリリーも一緒にどうだ?』

 スノーはそう言って果実酒を注いでくれた。


 そこからは三人でいつもの夜のひと時を過ごし、ついでなので孤児院の事も相談したのだった。


『ん〜僕はリリーに沢山の魔力と愛情を注いでもらって精霊化したんだけど、正直これと言って植物に魔力を与える方法は分からないかな……スノーはどう思う?』

『そうだな……精霊化は無理だとしても、リリーの魔力を帯びた植物なら作れなくはないだろう。ただ、魔力を与えたからと言って必ずしも孤児院を守ってくれるとは限らないだろうな。その植物にとって孤児院が思い入れのある特別なものでない限り難しいだろう』


 孤児院に思い入れのある植物ね……これは院長先生に聞いてみないと分からないから、後日訪れた際に聞いてみよう。


 その日は遅くまで三人で語り合い、夜更かしをした後ようやく就寝したのだった。


 苗を植えるまでの二週間でやれる事をやってしまわねば……そう決意を固めたのだった。

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