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ライ君とさつまいも

ブックマーク、評価、感想、誤字報告、メッセージなど、とても感謝しております。皆さんありがとうございます!

「で? ()()()は何しに来たのかな?」

 子供達がいる手前、ライアン様とは呼べないので、今日はライ君と呼ぶしかない。

「いや〜リリーにライ君って呼ばれると何だか擽ったいけど嬉しいな。ずっとそう呼んでくれてもいいんだけどね〜」

 全く……すぐにそうやっておどけるんだから。クラウスさんとディランさんはライアン様の後ろで『すまない』と口だけで私に伝えてきた。


「で? 何しに来たの?」

「あぁ。クラウスがね、リリーと一緒に孤児院で野菜作りをする聞いたから、それなら俺もと思ってね。付いて来ちゃった」

 ライアン様はてへっと肩を竦ませる。来ちゃったって……彼女か!


「あっ! ってか、もう畑出来上がってるじゃん!」

 ライアン様は私の肩越しに耕し終えた畑を見てガッカリしている。どうやら私が魔法で土を耕すところを見てみたかったようだ。


「まだ終わりじゃないわよ。これから畑に肥料を撒いてもう一度耕すからね」

 念の為、昨日帰る際ここの土を少しだけ貰って持ち帰りペーハーテストをした。日本だと酸性雨の影響でどうしても土壌が酸性と化すので中和させないといけない。

 持ち帰った土は水と混ぜ、その上澄みを紫キャベツで作った液体と混ぜ合わせて調べた結果、ここの土は酸性化していない事が分かったので原肥を混ぜ合わせるだけで済みそうだ。


「さぁ、次はふかふかになった土にご飯をあげるわよ」

 そう言ってアイテムボックスから取り出したのは、私の特製肥料だ。

 麻袋に入ったそれは西の森で掻き集めた落ち葉や野菜屑、魔物の骨を粉にした物、なたね油を絞った残りカスなどを発酵させ作った有機肥料だ。

 この中には発酵で育てられた微生物がわんさかいることだろう。


「魔女様〜、これが土のご飯なの?」

「そうよ〜。みんながご飯を食べると元気になるように、土もご飯をあげると元気になるの。土を元気にしてあげると、お礼にとっても美味しいお野菜を育ててくれるのよ」

 子供達は「そうなんだ〜。土も生きているのね」と素直に学んでくれている。

 この肥料も自分達で作れるよう、後で庭の片隅にコンポストを設置しようと思う。


「さて、ちょっと匂いがキツいと思うけど我慢してね。土に混ぜ込めば数日で匂いは消えるから」

 そう言ってみんなで麻袋の中身を畑にばら撒いた。


 ふとライアン様を見てみると、王城暮らしでこんな事やった事ないだろうに、何故かテキパキと肥料を撒いている。クラウスさんもディランさんも孤児院の為に一緒になって頑張ってくれている姿を見ると、なんだか嬉しくなってくる。


「よ〜し! 今度は私の出番ね!」

 両手を畑に向け、魔法を放つ準備をすると、ライアン様は「待ってました!」とキラキラの笑顔を見せてくれる。


 先程は土を宙に浮かせたが、今度は土と肥料を混ぜ合わせるだけなので、土と肥料が混ざる様子はまるで羽釜でお米を炊いているように、土全体がグルグルと回っているかのようだった。


「さあ、仕上げよ」

 次は水魔法で畑全体に水分を与えれば完了だ。恵みの雨の様に畑を潤せば、土は濃く色付き心做しか輝いているようにも見えた。


「ふぅ! これで今日の作業は終了よ。みんなお疲れ様! 頑張ったわね!」

 私がそう言うと、子供達は首を傾げ「え〜? もう終わりなの? お野菜は? 植えないの?」と質問攻めにあってしまった。


「ふふっ。焦らないの。みんなはご飯食べるとどうなる?」

 子供達を見回してそう聞いてみると、「お腹いっぱいになる!」「幸せになる!」などと自分達が思った事を次々と口にしていき、最後に「眠くなる!」と答えてくれた男の子がいた。


「そう! みんな正解だけど、ご飯をお腹いっぱい食べると眠くなっちゃうわよね。これってね、土も同じなの。だからご飯をいっぱい食べた土を眠らせてあげなきゃいけないのよ」

 ここから約二週間はこのまま放置して、肥料に含まれている微生物が繁殖するのを待つ。


「えー? じゃあこの苗はどうするの?」

 子供達は苗を植えたかったようで、残念そうな声を出した。

「今日この苗を持ってきたのはね、貴方達に植える日まで育ててもらう為に持ってきたのよ。毎日お水をあげて太陽の光をいっぱい浴びさせてほしいの。出来るかしら?」

 そう聞いてみると、子供達はパッと顔を輝かせ「出来る〜!!」と元気よく返事をしてくれた。


「今日はみんなよく頑張ってくれたから私からご褒美よ」

 気が付けば時刻はお昼を少し過ぎた辺りだったので、子供たちと一緒に食べようと思っていたある物をアイテムボックスから取り出した。

 それは箱庭で大量に採れた紫色の楕円系のお芋、さつまいもだ。


 そのさつまいもを先程畑から取り除いた石で石焼き芋にしようと思う。

「みんなは危ないから少し離れててね」

 そう言って積み上げられた石に特大の火魔法を放てば、轟々と炎が石を熱した。

 石が赤く色付くと次はクラウスさんとディランさんに手伝ってもらい、スコップで石を崩しさつまいもを並べ、その上からまた石を乗せた。

 ライアン様は「俺にもやらせてくれ」と言われたが、流石に危ないので遠慮してもらった。あんなんでもこの国の王太子なので火傷などさせたら後が怖い。


 しばらく待つと、辺りにはほんのりと甘い香りが漂い、ぐぅっとお腹の鳴る音が聞こえた。

「さぁ、お待たせ! 熱いから気を付けてね」

 一人一人厚手のタオルに焼き芋を包んで渡してあげると、「いい匂〜い」とクンクンと匂いを嗅いでいた。


「さぁ、皆で食べましょう……と、言いたいところだけど、熱くてたべれないわよね」

 取り出して間もない焼き芋は触れただけで火傷してしまいそうな程熱かったので、少しだけ子供達に話を聞いてもらうことにした。


「お芋が冷めるまで私の故郷の話でも聞いてもらおうかな。私の故郷ではね、お食事の前に必ずある言葉を言うの。それはこの国の食前の祈りとも似ているわ。その言葉はね『いただきます』って言葉なの。私たちが口にする食べ物は全てが命あるものなのよね。動物にしろ植物にしろ、全ては生きている命を頂いて、私たちの命になるの。だから命に感謝して『いただきます』って言うのよ」

 この言葉は日本特有の挨拶だろう。私はこの言葉がとても好きだ。


「いただきます……か。確かにその通りだね。俺達が何気に口にしている食べ物は全てに命があるんだな。リリーに言われるまで考えたこともなかったよ」

 クラウスさんやディランさんは長い間一緒に生活してきたので、『いただきます』の言葉の意味を知っていたが、ライアン様は初めて聞く言葉だったのでしみじみとそう語った。


「みんなも食べ物に感謝して食べてくれると嬉しいわ」

 そして、食べ頃まで冷めた焼き芋を皆で『いただきます』をして頬張った。


「ふわぁ〜! 甘ぁ〜い!!」

「お芋なのに何でこんなに甘いの!?」

 子供達はハフハフと夢中になって焼き芋を食べている。気に入ってくれて何よりだ。


「こうやって温かい食べ物を皆で食べるっていいね」

 ライアン様は嬉しそうな表情でそう呟いたが、心做しか少し寂しそうにも見えた。

 するとクラウスさんとディランさんがこっそり私に耳打ちをしてくれた。

「ライアンは普段一人自室で食事をしているからな」

「それに、ライアンの口に入るものは全て護衛が毒味をするので、どうしてもその分時間がかかり冷めてしまうからな」

 と教えてくれた。

 何度も言っているが、改めてこの人はこの国の王太子なんだなと認識させられる。

 次に箱庭に来た時は暖かい料理を皆で食べるのも悪くないかもね……

 

 子供達とお腹いっぱい食べたら、今日は解散となった。

 小さい子達は眠気がやってきたのでお昼寝タイムに入り、大きい子達はそれぞれ自分たちの部屋へ戻って行った。


 さて、ここからは院長先生にこの孤児院の運営について相談させてもらうとしよう。ライアン様とディランさん、クラウスさんがいるので丁度いいしね。

 

 片付けが終わったタイミングで院長先生に話しかければ、ここでは何なので……と院長室へと案内された。

 部屋に入り、扉を閉めれば院長先生は深々と頭を下げてきた。


「リリーさん、本当にありがとう。畑のことと言い、あの三人のことと言い、感謝しきれないわ」

「頭を上げてください! 私に出来る事をやった迄です。それに、まだまだこれからですよ。丁度、ライアン様達もいるので一緒に話を聞いてもらいましょう」

「……やはりリリーさんもライアン様の事はご存知だったようね。ライアン様、お久しぶりでございます。いつもこの孤児院を気にかけて下さりありがとうございます」


 院長先生は次にライアン様に向かって頭を下げた。

「院長、リリーが言った通り、俺も自分に出来る事をやっているだけだから頭は下げないでくれ。孤児も国の民だ、出来る事は最大限努力しようと決めているからね」

 ライアン様……いつもこのくらい格好いいといいのに……何度も言うが私のところに来る時は何であんなにちゃらんぽらんなんだろう。


「で、リリー?」

「はい?」

「次は何を企んでいるのかな?」

「やだわ、企んでいるなんて。そういう言い方するならライアン様にだけ教えてあげませんからね」

「まぁまぁ、俺も協力するから教えてよ」

 軽口を言い合いながらふざけていると院長先生が「おやおや、随分と仲がよろしいのね」と微笑ましそうに見ていた。


 さぁ、ここからが本番ね。この孤児院がより良い施設になるよう相談させていただきます!

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