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デートです!

「リリー、こっちに来てごらん。ほら、これなんかすごくリリーに似合ってる」

 私達は今、王都で一番賑やかな商業地区に来ている。特に行先は決めず、こうしてふらりと寄ったお店で小物や日用品などを見て回っているのだ。


「う〜ん、私にはちょっと可愛すぎじゃない? もう少し大人っぽいのが好きかな……」

「じゃあ…………これは? これならリリーの綺麗な黒髪に映えるね」

 そう言ってクラウスさんが選んでくれたのは、ルビー色のバレッタだった。


「綺麗な赤ね……ロジーの瞳みたい」

 ふと、そんな事を口にすると、クラウスさんは眉を下げ困ったような顔をした。

「俺といる時に他の男の事を考えるなんて、リリーは悪い子だね。俺を嫉妬させようとしてるのかい?」


 うはっ! その顔は反則よ! こんな所で色気を振りまかないで〜!


「ご、ごめん! そんなつもりは無いわ。それに、ロジーはあんな見た目だけど男の子じゃないからね。精霊に性別はないから!」

 あたふたと言い訳していると、クラウスさんは「プッ」と吹き出した。

 揶揄われただけだったようだ……


「も、もぉ! 揶揄ったのね! 酷いわ!」

 顔が熱い……絶対真っ赤になってるわ! 

「ははは! ごめんごめん、あんまり可愛いから揶揄いたくなったんだ」

 クラウスさんはそう言って私の髪をひと房取ると、口付けを落とした。


 もう! 周りにいっぱい人がいるのに……

 クラウスさんはルビー色のバレッタを持つと、カウンターに持っていき支払いをした。


「はい、プレゼント。きっとリリーに似合うよ」

「もぉ、自分で買うのに……」

「デートで男が好きな女性にプレゼントを送りたいんだから、女性は笑顔で受け取ってくれればいいんだよ」

 この人は……何でこうポンポン恥ずかしげもなく言えるのだろう。


「うん……ありがと……嬉しいわ」

 

 二人が出た店では他の客が……特に女性が頬を染めて二人の様子を見ていた。


「ねぇねぇ、見た!? あの方、アズレア騎士団特務隊長のウィンザーベルク様よね!?」

「見た見た!! 何が【冷血紳士】よ! 噂なんて当てにならないわね」

「あぁ、まだ胸がドキドキしてるわ! 素敵な方よね……」

「隣の方はウィンザーベルク様の恋人かしら……」

「きっとそうよ! だって彼女に向かって好きな女性って言ってたし、彼女を見る目があんなに愛おしそうなんですもの! 間違いないわ!」

「キャーーーー! 素敵〜!」


 そんな事を言われているとは露知らず、二人は手を取り合い次の店へと入っていった。


「ここはキッチン用品を売っているのね。カトラリーやグラス類もあるわね」

 次に入った店では食器類が売られていた。

「へぇ……ペアグラスだって」

 クラウスさんが見つめる先にはシャンパングラスが置かれていて、グラスの側面には花の模様がデザインされていた。それはまるでレーザー彫刻のようで、繊細な部分までリアルに表現されている。


「綺麗ね……」

 クラウスさんとペアグラスなんて素敵よね……いくらかしら?

 ふと、値段を見てみれば目玉が落ちるかと思った。

「き、金貨十五枚……」

 無理無理無理無理! 金貨十五枚って言ったら日本円で十五万円って事でしょ? 

 うん、見なかったことにしよう……ほら、他にもお手頃な可愛い食器もあるじゃない。


 ペアグラスは見なかったことにして、他の食器を見る事にした。

「あ、グラスセット……」

 他のグラスを見ていると、ガラスケースに並べられたグラスセット目に留まった。

 箱に入ったグラスは種類も様々で、シャンパングラス、ワイングラス、ブランデーグラス、ロックグラス、トールグラス、カクテルグラスの六点セットだった。


 これ……お酒大好きスノーにピッタリね……この間、私の為に色んなお酒買ってきてくれたからお礼に買っていこうかな……

 値段も六点セットで金貨二枚と、買えない額ではないので店員さんに包んでもらった。

 その他にも、よくホットココミルクを飲んでいるロジーにマグカップを購入し、折角なので一人一人のカトラリーも購入した。


「随分と買ったね。それは二人に?」

「ええ。スノーにはこの間沢山お土産貰ったし、ロジーはほら……拗ねるから」

「ふふふ、仲が良くて羨ましいよ」

「もぅ……また揶揄うの? クラウスさんこそ、さっき店員さんと何か相談してたわね。何か買ったの?」

「ん〜、それは秘密かな。後でのお楽しみってことで」


 クラウスさんは何かサプライズを用意したようで、嬉しそうに微笑むだけだった。


「ところでリリー、そろそろお腹が好かないかい?」

「そう言えばそろそろお昼ね。朝食も軽く食べただけだったからお腹すいたわ」

 お腹が鳴ったら恥ずかしすぎるので、空腹になる前に食事をしたい所だった。

「それじゃあ、王都で人気のカフェに行こうか。実は昨日のうちに予約を取っておいたんだ」


 クラウスさん、行動力ありすぎね。ってか、人気のお店なのに昨日予約とか大丈夫だったのかしら……そもそもカフェって予約制じゃないような……


「ねぇ、クラウスさん? レストランならともかくカフェで予約ってどう言う事かしら?」

 そう問いかけるとクラウスさんは気まずそうに目を逸らした。


「あ〜、実はな……昨日あの後どんな店にしようかとディランに相談したら、その店を紹介されてな。実際に見に来たところ凄い行列だったんだ。それでどうしようか悩んでいたら、店員が声をかけてくれてね。席を用意するから是非来てくれと言われたんだ」

「でもそれって特別なんじゃ……」

「ああ。俺も他の客がいる手前、申し訳なくてね。俺も貴族の端くれだから何処へ行くにも並んだ事など無かったのだが、騎士となり、家を出れば一般の人達と同じように過ごさなければならないから、一度は断ったのだが……集客にもなるから是非来てくれとあちらから頼まれたんだ」

「集客になるからって……どゆこと?」

「何でも騎士隊も立ち寄るカフェって事で、宣伝したいらしいんだ」


 なるほどね〜。王都の住人からしてみると、騎士団員は雲の上の存在……とまでは行かないが、中々お近づきになれない存在なので、そんな人達が自分たちの店に来てくれれば、ただ立ち寄っただけでも宣伝になり、集客効果を生み出すわけだ。

 【騎士も立ち寄るカフェ】としてね。


「それで……ついね」

「承諾したのね」

 まぁ、今回だけと言う事だし、折角だからお誘いを有難く受けることにした。


 少し歩いてブティック街を抜けると、すぐに目的地が見えてきた。

 店の全面に張り出たオレンジ色のひさしの下にはカフェテーブルが並べられていて、カップルや女友達などが楽しそうにお昼のひと時を過ごしていた。

 もちろん店内の飲食スペースもあり、そちらも空いている席がなく満員御礼状態だ。


「すごい人気なのね。あ、やっぱり長い列が出来ているわ」

 お店の入口には長い列が出来ていて、席が空くたびに受付の案内係が一組ずつ席へと案内している。


 こんなに並んでいるのに順番飛ばしているみたいで申し訳ないわ……そう思いながらもクラウスさんにエスコートされ、お店の入口へ進むと、案内係がニコリと笑顔を向けお辞儀した。


「お待ちしておりました、ウィンザーベルク様。どうぞこちらへ」

 か、顔パス! 何も言ってないのに……!


 クラウスさんは優雅に微笑むと「行こうか」と言って私の手を引いた。

 やっぱりこうしているとクラウスさんは貴族なんだなと感じる。本人が話したがらないので家格については触れてこなかったが、振る舞いや周りの反応からすると、きっと高位の貴族なのだろうなと思う。


「本日はこちらのお席をご用意させて頂きました。当店で一番眺めの良いお席でございます」

「ああ、ありがとう」

 クラウスさんは椅子を引くと私に向かい「どうぞ」と席を勧めた。


 いけないいけない……惚けている場合じゃなかった!

 クラウスさんのあまりにも優雅な仕草に見とれてしまっていたが、気を取り直して「ありがとう」と言って勧められた椅子に座った。


「リリー、緊張してる?」

 クラウスさんには全てお見通しか……

「だ、だって、クラウスさんがあまりにも優雅だから……隣にいてもクラウスさんみたいに振る舞えないもの……」

「なんだ、そんな事を気にしていたのか。ここはテーブルマナーのない気軽なカフェだからそんな心配は要らないよ。ほら、周りを見てご覧。みんな楽しそうに食事してるよ?」


 言われて周りを見れば、どのお客さんも楽しそうに笑談しながら食事をしている。

「ああ、俺が悪かったね。つい、見栄を張ってしまった。いつも通りでいいから笑ってくれるかい?」

 クラウスさんは私の手を握るとふわりと笑った。


 あぁ……心臓に悪い……ドキドキが止まらないわ……

「う、うん。ねぇ、クラウスさんはここのお勧めって知ってるの? メニュー任せてもいいかな?」

「ふふっ、任せて。ちゃんと調べてきたから」

 クラウスさんはそう言うと、ウェイターを呼びスラスラと注文をしていった。


 しばらくすると赤ワインが運ばれてきて、目の前で赤い液体がグラスへと注がれた。

「お昼からワイン?」

「一杯だけね。リリーとの初めてのデートの記念を祝いたいから」


 もぉ……この人は何でこんなにも私を喜ばせてくれるのだろう。いちいち胸がキュンキュン疼く。


「クラウスさんったら……」

「俺、リリーが思っている以上に君の事が好きだし、相当浮かれてるんだ……それじゃ、今日という良き日に感謝して……乾杯」

「私も……いつも優しい貴方が大好きよ。乾杯」


 それから一頻り料理を楽しんでお店を後にした。


 もちろん、二人が店を出た後は客同士、店員同士でひっきりなしに噂された。

 これが後に王都中を駆け巡るとんでもない噂の元凶となるのだが、この時、まだ二人は何も知らなかった……


「さぁ、午後からはどうしようか……リリー、どこか行ってみたいところはある?」

 まだまだお店は沢山あるが、そちらはまた次の機会に取っておいて、私は次の目的地をクラウスさんに告げた。


「クラウスさん、素材屋さん……でいいのかな? そこに連れてってくれないかな? 今まで仕留めた魔獣の素材を買い取って貰いたいのよね……アイテムボックスに大量に眠ってて……」

「そう言えばそうだね。コカトリスやベルベットバイソン、フォレストイーグルなんかもあったか?」

「ええ。それを硬貨に変えて皆に分配したいのよね……」

「ん?みんな?」

 

 クラウスさんは不思議そうに首を傾げた。

「そう。コカトリスを仕留めたのはガウルさんでしょ? それに、ベルベットバイソンはリリアナとジャンクとガウルさんとフレッドさん、フォレストイーグルは私だけど、その他にも山ほどあるのよね。クラウスさんやディランさん、それにアニーさんもここに来るまで色々仕留めてきたから、それぞれに素材代支払わないと……」


 そう言うと、クラウスさんは「いやいやいやいや!」と首を横に振った。

「何言ってるんだよ……今まで散々リリーの箱庭で世話になってたんだ、それらはリリーが貰っておいてくれ。俺たちは任務として魔獣を狩っていた訳だから、代金は受け取れない。騎士道にも反するからな。どうしてもというのなら、リリアナとジャンクに渡してやってくれ」


 え〜。まさかの受取拒否ですか……でも、騎士道だなんて言われてしまったら仕方がない。今度違う形でお礼をしようと心に決めた。

「う〜ん。分かったわ。それでも買い取ってもらいたいもの沢山あるから、クラウスさんいいお店紹介してくれない?」


「分かったよ。それじゃ、俺達もよく利用する素材屋を紹介しよう。冒険者なら冒険ギルドで買取をしているが、ギルド員以外は利用できないからな。どうしても個人店限定の買取になってしまう。だが、これから行くところのオーナーは目利きだけはピカイチだから安心して紹介できるよ。特務部隊のお墨付きだからね」


 特務部隊の行きつけだなんて、そんな立派な所に連れていってもらっていいのだろうか……などと思いながらも、次の目的地へ向けて歩みを勧めた。

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