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雨に打たれて
いつもは雨が疎ましい。
予報が外れて急に降ってきた日など、恨み言を呟きながら帰宅するものだ。
けれどたまに、雨が恋しくなる。
余計な音を全て打ち消して、ザーっといつまでも同じ音を奏で続ける雨に感謝する。
たまに……、そう、たまに気分が乱れる時があるだろう。
そんな時、雨に打たれていると気持ちが冷静になれる。
考えすぎて熱を持った頭を冷やしてくれて、何度も聞いて耳に残っている言葉を掻き消してくれる。
そうして心身共に洗い流してもらうと、今まで見えていなかったことに気が付けることがある。
ほどよく冷たい雨に打たれ、今日も同じ言葉で思考を止める。
暖かさなんて必要無い。冷たく鋭利な心の刃で、暖かさ達に勝ってみせる。