エターナ対ギラ
黒い馬車が紅蓮の炎に包まれるれ、繋がれていた馬が鳴き声を上げて逃げ出せたのは、幸運にも着弾地点がギリギリズレていたからだった。
「ど、どういう冗談だと……!?」
ギラだけではない、アインとアストも信じられないという顔で長い銀髪の少女を見ていた。 迫りくる《ファイア・ボール》に対し逃げるでもなく、火球に向かいおもいっきり振るわれたエターナル・ピコハンは、何とそれを撃ち返してしまったのだ。
「お~~出来た出来た~~♪」
一瞬焦ったものの馬が無事に逃げれた事に安堵したエターナが喜びの声と共にピコハンを構え直す。 本能的に避けられないと悟ると同時に、直感的に閃いたボールなら打ち返したれという発想を実行したのだ。
「火炎魔法を打ち返す……エターナル・ブレスレットの力か?」
「さあ? あたしも今思い付きでやった事だしねぇ?」
「思い付きでやってみせただと? そういう事が出来る娘だと?」
仮にも魔法使いが《ファイア・ボール》の知識がないはずもなく、体感はなくともその怖さは想像出来るはずだ。 魔法でなくと火というものは人間の生活において身近なものであり、その便利さも怖さは自然と覚えるからだ。
故に、無策でとは言えないにしろイチかバチかで突っ込むなど並みの度胸で出来るものではない。
「あるいは只の馬鹿か……」
次の瞬間に「うっ……」と呻いたのは、「さて? どっちでしょうかね!」という言葉と共にアインの放った《マナ・アロー》が受けたからだ。 出血と共に少し太めの尖った棒が刺さった時のような痛みは、治まるまでは左腕を振るい辛くさせるなと分かる。
「ガリア!」
ギラが呼んだ名にエターナ達は周囲を見回せば案の定、後方の少し離れた場所に黒い肌の男の姿が出現した。 まるで瞬間移動でもしたかのような現れ方は、《インジブル》の魔法で隠れていたからで、距離が離れていたのは戦闘になった場合に魔法に巻き込まれるのを警戒していたのだ。
白髪のダーク・エルフの男は無言で両腕に光のブレードを展開させ、そしてゆっくりと歩みを進めながらエターナ達を見回す。
「ま、これも仕事のうちなんでな?」
本来は逃げようとしたら足止めしろというのが指令ではあった。 雇い主が呼んだのが挟撃の為か撤退のための援護かは知らないが、どちらにせよ参戦せよというには違いない。
「……さて、どうしますか……?」
ギラに逃げる様子なければこのまま二対三で戦闘続行と判断する、先程までは実質一対三だったのでガリアの実力を思えば不利になったと考えるアイン。
「アストはガリアを何とかして! ギラはあたしがっ!!」
唐突に出された指示にアインとアストが驚き何か言い返すよりも早くエターナは跳び出していた。
「エターナっ!」
アストが後を追いかけようとしてが、「お前さんの相手はこっちだぜ!」とお約束のセリフと共にガリアが斬り掛かって来ればそちらを相手にするしかなかった。
「私とサシの勝負か? 子供がいい度胸を!」
少女の無謀を嘲笑いながら《ファイア・アロー》を放つ。 矢のように細い棒状の形の炎をエターナは対照的な蒼い瞳でしっかり見据え、そしてエターナル・ピコハンを正面から叩きつければ、弾き返された炎の矢はまったく見当違いの方向に飛んでいった。
「うし! コツは掴んだわっ!」
「コツの問題かっ!? ならばっ!!」
今度は《エクスプロージョン》を放つ、これなら光弾とピコハンが接触した瞬間に爆発を起こす、弾き返すも何もないはずだった……が、魔法の光弾は本当のボールめいて叩き返されまったく無関係な場所で爆音を響かせた。
「馬鹿なっ!?」
こういう形となれば自分はどちらにも魔法で援護が出来るようにするべきとその場に留まったアインも、ギラと同様に信じられないものを見ている心境だった。
衝撃の魔法を込め増幅させたエターナ・インパクトで炎を跳ね返すのはもちろん、《エクスプロージョン》の爆発を発動させずに跳ね返せるはずはない。 だとすれば別の魔法だと考えられた。
「「《リフレクション》っ!!?」」
直後、アインとギラの声が重なったのび、数回斬り結んで互いに後ろに跳んだアストとガリアも思わずそちらを見た。
「《リフレクション》……?」
「……魔法反射の魔法の《リフレクション》だと?」
だが当のエターナは「……ほへ? 《リフレクション》? どーゆーことなの?」とキョトンとなる。
「何? 貴様、《リフレクション》を使えるのではないのか!?」
「ん? ないよ?」
少女の答えに愕然となるギラ。 エターナの表情や口調からは嘘を吐いてるように思えなければ、考えられる事はひとつしかない。
「戦いながら無自覚に新たな魔法を覚えたというのかっ!!? そんな事がっ!!!?」
ギラの叫びの後に「おいおい……冗談だろ?」とガリア、魔法ひとつ扱えるようになるのはそんな簡単な話ではないのだ。
魔法の基本とはマナを集める事から始まる、これだけでも個人のセンスもあるが数週間から数か月の修練が必要だ。 確かにこれさえ身に付けてしまえば《マナ・アロー》のようなマナを直接使うような魔法は難しいものではない。
しかし、例えば《ファイア・アロー》などのマナを別の現象に変換させるとなると話が違う。 基本であり一番大事なのはその現象を明確にイメージ出来る事だが、単に頭に思い描いただけで魔法となるものでもない。
これも本人の素養にもよるが、少なくとも一夕一朝で出来るものではないのだ。
「……増幅だけでなく魔法の発動を補助する能力があのピコハンにあるというのか……?」
そうとも考えなければあり得ない事であった、少なくともギラにはそれ以外の可能性は頭に浮かばない。
「今度はこっちから行くよ~~!」
その声に思考を現実に引き戻されたギラは、ピコハンを振り上げて迫ってくる銀髪の少女の姿に、半ば反射的に《プロテクション》を使っていた。 直後、赤いハンマー部分と不可視の壁がぶつかり弾いた。
「……だが、子供にその性能を生かしきれるはずがない!」
「ドロボーが偉そうに!」
よろめきかけたのを踏ん張ったエターナはキッとギラの瞳を見据える、その純粋で真っ直ぐな視線に彼は一瞬だけだが気圧されかけた。
「人の物を盗っちゃおうなんて考える悪い大人が、偉そうに説教とかすんなぁ~~~!!」
ピコハンが白く輝き出すのは、今度はエターナ・インパクトを打ち込もうという事だ。
「違う! そもそも私が得るはずだった物を奪ったのはトキハだ! あいつがいなければブレスレットも夢幻の称号も私の物だったのだ!!」
「わけ分かんない事言って!」
言っている意味が分からなくても、とても自分勝手な事を言っているの雰囲気は感じ取った。 その苛立ちも込めてエターナル・ピコハンを叩きつけてやれば、ギラの顔面に到達する前に手ごたえを感じた、それが先程も感じた《プロテクション》のものだと分かる。
ピコハンの可愛らしい音をかき消すバシッという音と共に叩きつけた部分の不可視の壁が瞬間的に光を放った。
「効かんわっ!」
「にょれ~~!」
悔しそうな声を出すエターナの後姿を見守りながら、先程のギラの言葉を思い出すアインは、「思ったよりもくだらない事情か……」と小さく呟いた。