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異魔人


 エターナ達が街道を進んでいると前方から馬車が走って来るのに気が付く、四人乗りと見える黒塗りの馬車をやり過ごそうと三人は道の脇に避けたのだが、驚いた事に馬車は彼女ら十数メートル手前で止まった。

 「……何?」

 エターナが首を傾げ、「油断しないで……」とアストが前に出た。 敵と決めつけるわけにもいかないが、今の状況が状況だけに無関係な通りすがりの人と思い込むのも危険だ。

 アインは銀髪の頭から降りると御者を見やると偶然なのか目が合った、男の茶色の瞳にはこちらを警戒し探ってくるような色があり、少なくとも一般人ではないと感じさせた。

 その時、馬車の扉が開き初老の男が姿を現した、紫を基調としたローブを纏った藍色の髪のその男は、先端に黒い宝玉の付けられたロッドを右手で握っている。

 男は三人を見渡した後でエターナをもう一度見やった、彼の瞳にゾッとするものを感じながら「……あんた、誰なの?」と問う。

 「私の名はギラ・ドーラス、シャプレイの魔術師組合の幹部だ」

 魔術師とは魔法を研究したりなどその力を持ちいた仕事をする者の事だ。 

 魔法使いというのは魔法という力を使う者の総称であり、極端な話をするなら趣味でスプーンを曲げるという魔法だけを使えるような人間も魔法使いとなる。

 一方で魔術師とは職業として魔法を扱う者の呼び名である、趣味や個人的な食糧確保の為に魚を釣るのを”釣り人”というなら、プロとして漁をする者を”漁師”というようなものと思えばいいだろう。

 「ギラ……ドーラス……?」

 その名をアインはどこかで聞いたような気がしたが思い出せない。

 「君が”夢幻の魔女”の弟子のエターナ君だね?」

 「……え? ししょーの知り合い?」

 「ああ、そうだ。 トキハと私は同じ師匠の元で修業した間柄なのだよ」

 ギラの言葉に、トキハにも誰かの弟子だった時代があったのかと思うエターナ。 当然と言えば当然なのだが、これまでそんな風な事を想像した事があまりなかったのだ。

 「そういう縁なのでね、君がエターナル・ブレスレットの所持者として相応しいかどうか……確かめてやろうっ!!」

 ギラがロッドを振り上げると同時にアストも剣を抜く、正確に言えばエターナル・ブレスレットという単語が出てきた時点で剣に手を掛けていた。

 「あんたがガリアの雇い主かっ!?」

 アストが声を上げつつ斬り掛かって行こうとした動きを止めたのは、彼の前に立ちはだかった御者のためだった。 それは丸腰の人間を斬るのを躊躇ったのではなく、男から感じる不気味な気配に踏み込むのを危険と感じたからだ。

 「ああ、その通りだよ」

 「ふふふふふ……」

 不気味な笑い声と同時に男の身体が黒く染まる……いや、黒と言うより闇という方が正しかった。 闇は人型を崩して別の物へと変わっていく、そして闇が霧散するかのように散った後には異形となった姿があった。

 確かにヒトのよに腕もあり足もあるが、ぬるぬるとしたよに見える濃い緑の肌や頭がなく代わりに胸の辺りに不気味な人間の顔がある姿は、バケモノと形容するのが正しい。

 エターナは思わず「うげっ!? 何あれ……!?」と大声を出しながらも、エターナル・ピコハンを構えた。

 「あんな生物がこの世界にいるのか……いや、まさか……異魔人なのか!?」

 「……でしょうね、他に考えられませんよ……」

 異魔人とはこの住む世界とは別の次元にあるとされる世界の住人だ。 多種多様な姿形を有する彼らは知性があり言葉も使うだが好戦的だ、おそよ人間に従うような性格ではないのだが、主従の契約を交わし召喚するという魔法が存在する。

 「……っていうのだったけ?」

 エターナが確認したのはアインだったが、「うむ、正解だ」と答えたのはギラだった。

 「そして異魔人のこの世界での身体はマナで構成されいるのは知ってるかな?」

 「ええ。 正確に言えばマナの性質をマイナスに変化させたものを物質化してるんですよ」

 アインが答えると「ひゅ~猫のくせによく知ってるかねえか」と感心した声を出す異魔人、どこか陽気な若者のものとも聞こえる口調は化け物めいた姿とは不釣り合いだった。

 「……え~~と……どーゆー事だっけ?」

 教えてもらった覚えは何となくあるのだが思い出せずエターナが尋ねるのは、やはりアインにである。

 「マナとは魔法や道具のエネルギー源というだけではないのです。 動物や植物、この世界に存在するあらゆる生命を活性化する力がマナにはあるんです」

 活性化と言っても体調を良くし元気が出るという程度の効果だと言われている。

 「異魔人はその性質を真逆に、つまり生き物の元気がなくなるようなものへと変化させる……だったよねアインさん?」

 アストが敵から目を離さずに言うと、「そういう事です」とアイン。

 「やれやれ、トキハの弟子がそんな事も知らんのか?」

 「うっさい~! 誰にだって忘れてる事のひとつやふたつあるわっ!!」

 ギラに大声で言い返してから異魔人を見やり、「とにかく! やろうって言うなら受けて立つわ~!」とピコハンをぶんぶんと振るエターナである。

 「ギラ・ドーラス。 異魔人の召喚はどこの組合でも御法度のはず、分かっててやっているのですか?」

 「無論だ、奇麗ごとだけではやっていけない事もあるという事だよ」

 何でもない事のように言ったギラに、アインはこれまで以上の危機感を覚えた。

 この男は裏社会にも関わり、己の目的のために必要と思えば犯罪を犯す事も厭わない危険な人間なのだ。 しかし、だからと言って子供相手にエターナル・ブレスレットを奪うのにここまでする必要があるかは疑問である。

 「……ん? ギラ・ドーラス……まさか……?」

 不意に何かを思い出しかけたアインだったが、「さて、そろそろ始めようか?」とギラが宣言すれば、考えを巡らせる暇はなかった。

 「ほいほい、じゃあ仕事を始めようかね?」

 異魔人はまるでエターナ達と遊ぼうとでもいうかのように楽し気な声で前に進みでるとギラは反対に後ろへ下がる、どうやら自分は戦わずに観戦するつもりなようだ。

 「アスト君、異魔人には普通の武器は効きません……君は下がっていて!」

 アインが先制攻撃とばかりに《マナ・アロー》を撃つが、高速で飛ぶ光の矢を異魔人は「先手必勝てか!」と回避すると、アイン目掛けて鉄拳を繰り出す。 両者の距離はそれでも三、四メートルはあったが、彼女は黒い小柄な身体を捻るようにしそれをかわした。

 「腕が伸びた……!?」

 アインの驚きの声に被るように「反則でしょっ!」という言葉と共に突っ込んだエターナも、反対の手の拳を回避するしかないかった。

 「異魔人ってのはこういう芸当も出来るって事さ!」

 次はアストが「たぁぁああああっ!!!!」と気合と共に斬り掛かるが左腕を盾代わりし難なく受け止められた。 関節部分とはいえオートマタの金属の腕すら斬ったアストの剣は、目の前の敵には皮膚を傷つける事も出来ていない。

 「はっ!」

 異魔人が鼻で笑うのに言い返しもせず間合いを開くと、「……成程、こういう事か」とたいして落胆もしてなさそうな様子で剣を構え直した。 硬いではなく手応えそのものが感じられないのに何故か剣を振るい切る事が出来ない、そんな不思議で初めての感覚だった。

 直後、お返しとばかりに跳んできたパンチは、回避したアストではなく背後にあった樹木の幹を砕いた。 人間の同程の太さを軽々砕く威力に「パワーもバケモノじみてるな……」と表情を険しくさせ敵へと視線を戻す。

 「どんだけ切れ味が良くっても只の剣じゃ棒きれに過ぎんぜ?」

 再度攻撃しようとした異魔人が急に横へ跳んだのは、エターナが同時に放った《マナ・アロー》を回避するためだったか、更にもう一発飛んできた《マナ・アロー》を肩に受け「ぐっ!?」と呻き声を発する。

 「エターナとアインさん、良い連携をする……」

 アストが感心すると同時に彼の手に握られた剣のエメラルド色の宝玉が発光し始めた、そして今度は刀身が輝き出し一気に白い光が刀身全体を覆った。 刀身そのものが白い光へと変わったかと思わせる力強い輝きに、敵味方関係なく視線を向けさせた。

 「なっ!? 貴様……その剣は……?」

 僅かに狼狽えた声と共に伸びてきた異魔人の腕を最小限の動きで回避したアストは、「マナの剣、それがこの剣の名前だ!」と剣を振り下された剣は、今度は見事に腕を斬り裂き切断した。

 「……ぐわぁっ!!?」

 右腕の肘あたりから先を失った異魔人は「マナの剣だとっ!?」とアストを睨んだが攻撃はしない。

 「マナの剣? 伝説の剣士アムロが使ったといわれている剣だぞ?」

 ギラが驚きと疑いの混じった声を出しながらも、興味津々という目でアストの剣を観察し、エターナは「すごい!」と興奮気味に光も刀身を見つめる。

 「アムロ……大昔に赤い魔神と呼ばれた存在を倒したという……」

 アインはすぐに信じられずにいても、それでも異魔人の身体を傷つけた事を認められれば、少なくとも普通の剣ではないとは思う。

 「いくぞっ!!」

 アストが地を蹴って駆ければ、「だとしても貴様みたいな若造ではなっ!!」と迎え撃つ異魔人は残った左の拳で青年の身体を砕こうとするが、冷静に動きを見切り剣を振るった。

 右肩から動体までをバッサリ斬られた異魔人は「がぁああああああっ!!!?」と悲鳴を上げたが、傷口からは血液らしきものは噴き出さない。 代わりに黒い霧上のものが噴き出し大気中に拡散していく。

 その光景にゾッとするものを感じながら後ろへ下がるのと、異魔人の身体が黒い闇となり爆ぜるように四散するのはほぼ同時であった。



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