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シャプレイの町へ



 エターナとアスト、それにアインはシャプレイという町を目指して進んでいた。

 規模の大きな町へ入ってしまえば人も多く治安維持隊の目も行き届いているので相手も迂闊な事はしにくくなる、そうしておいてトキハへと相談の手紙を出し返事を待とうというのである。

 そのアインの提案にはアストはもちろんエターナも異議はなかった。 何もしないでじっと待つのはどちらかと言えば性に合わないのが彼女だが、それが正しいと思えば素直に従う事は出来た。

 「……とはいえ、シャプレイまでは四、五日はかかる、それまでに相手が何もしてこないわけはない」

 そのアストの不安も当然であり、「あのガリアという男ならこちらの行動を読むくらいはするでしょう」というアインの意見も間違っていないとエターナも思う。

 しかし、本当に何もしないでいても何も解決するはずもない、ならば今できる最善をするだけだった。

 朝の出来事を思い出しながら何気なく空を見上げたエターナは、真上近い太陽の眩しさに一瞬目を細めた後で、一羽の鳥がどこかへ飛んでいくのを見つけた。 どこかで見た事のあるようなないような姿で名前も出てこない、アインに聞いてみようかと思った時にはすでの青色の中の小さな黒い点となっていた。

 「……アインさん、どうです?」

 「気配は感じませんけど……昨日の男なら油断は出来ませんね」

 前を歩くアストとアインのそんな風な会話はもう何度目でだろう、こうもピリピリした緊張感をアインから感じるのは初めてなのではないかと思えた。 エターナも状況は理解していても、こんな調子ではすぐに疲れてしまうのではないかと心配にもなる。

 「ダーク・エルフのガリア・ストラトスかぁ……悪い人って感じでもなさそうなんだけどなぁ……」

 人間と友好的なエルフとは仲が悪いらしく、どこか嫌われ者っぽいイメージのあるダーク・エルフだけあってエターナもあまりいい印象は持っていなかったが、実際に会ってみるとそんな風に感じた。 

 「いやいや、私達を襲ってあなたの腕輪を奪おうとしたんですから充分に悪い人でしょう……」

 「そうなんだけどねぇ……」

 理屈ではそうであっても、感覚として感じるものとはまた違うのである。

 「まあ、救いようのない極悪人ってわけじゃないだろうが、ブレスレットを奪われたくないなら今はそんな風に思っちゃダメだよ?」

 アストの忠告に思わずブレスレットを見やる。 悪人に渡さないという師匠との約束はもちろんの事だが、エターナ自身にもお気に入りのアクセサリーであり愛用の武器であるから誰であれ渡す気は全くない。

 「……って言うか、別にガリアが欲しがってるわけじゃないよね、そーいえば」

 「そうですね、そうであれば話は簡単でしたけどね。彼を倒すだけで済むのですから」

 アインの言う倒すとはもちろん殺すという事ではなく、痛めつけて二度と手を出してこないよう約束させるか、捕まえて治安維持隊に引き渡すかするという事だ。

 「まー次に来たら今度こそぶっとばしてやるだけだけどね」

 結局のところそれが最善だと思い付いてしまえば最初の時にそうしておけば良かったと言えなくもないのだが、後になってからでしか分からない事もある。 そういうものだと分かっていても、やはりあの時ああしておけば良かったのだと後悔してもしまうものだとは、いつだったか師匠が教えてくれた事だ。

 「ガリアを捕まえて洗いざらい白状させるか……そうだね、手ごわい相手だろうけど昨日と違ってきちんとした心構えをしてれば何とかなるだろう」

 「……ですね。 その意味ではあの男が襲ってきても襲ってこなくても私達には構わないという事です」

 アストとアインも自分と同じ風に思ってるのかなと考えつつ歩調を早めると、後ろからアインを黒く小さな身体を抱き上げれば、「……わにゃ!?」と驚きの声を出した。

 「高いところの方が見やすいでしょう?」

 言いながらアインを自分の頭に乗っける、「……まったく、あなたは……」というアインの顔は見えなくても、呑気なんですからと言いたそうな顔であるだろうというのは想像出来た。

 「なるようになれって事でしょ? だったら気を張りすぎても仕方ないよ?」

 だから、明るい声でそんな風に言った。


 この日は夜も交代で見張りをするなど用心していたのだが、結局ガリアの襲撃はなかった。 状況が動いたのは次の日の午後であった。



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