エターナル・ブレスレット
エターナル・ブレスレットを師匠であるトキハから貰ったのは十歳になった位のでだった。
最初は単なるアクセサリーかと思ったのだが、「腕輪に精神を集中してマナを送り込んでみなさい」と言われてその通りにしてみると、光り輝き大きなピコピコ・ハンマー
へと形を変えたのにひどく驚いた記憶がある。
「ししょー……これって?」
「エターナル・ブレスレットていうの。 まあ、ちょっと不思議な力を持った道具だと思って頂戴」
説明されたのはその程度だったし、エターナもそれ以上の事を聞こうとはしなかったは、どうせ原理とかを聞いても理解出来ないだろうなと思ったからだ。
その後でトキハと一緒にいろいろと試してみて、マナをエネルギー源に相手に衝撃を与える武器である事や、更に自身の衝撃魔法を上乗せして威力が上がる事を知った。
「いい、エターナ。 このブレスレットはあなたが自分の身を守る力になってくれるはずよ、でも同時に悪い人の手に渡れば人を傷つける凶器にもなるの。 だから決して人に渡してはダメよ?」
そう戒められれば、どうしてそんな物を自分に?という疑問が浮かび尋ねた。
「そうね……でもね、それはどんな武器も魔法も同じよ。 例えば、台所の包丁だって美味しい料理を作って人を喜ばす事も出来れば人の命を奪い誰かを悲しませる事も出来る」
その理屈は怖いものだと感じた、そして道具というものは使い方を間違えると危険なものへと変わるのだと漠然とだが思えた。
「エターナル・ブレスレットもね、武器として使わなければ単なるアクセサリーでしかないわ。 そして、その状態であるのが一番いいのよ」
トキハの言い方は、どこかそうである事を願っているという風に感じた。 包丁が食材を切るのがあるべき姿であるように、エターナル・ブレスレットもこうして腕に嵌めているだけなのがそうなのかなと、エターナはその時に思った。
エターナが話終わると「……うーん」とアストは腕ん組んで唸る、確かに誰かに狙われても変でもないとは分かる話だが、腕輪が武器になると最初に見た時点で当然と言えば当然だと思える。
「アインさんには何か思い当たる事ってあるんですか?」
昨夜の襲撃の後、アストとアインが交代で見張りをしたもの結局ガリアが再度襲ってくることはなかった。 そして夜が明けて明るくなってから移動して朝食を摂りつつ話し合いとなったのである。
「私もエターナと同じくらいしか知りませんが……まあ、発掘遺産の類ではあるでしょうねぇ……」
遺跡などから発掘される古代文明の遺産、現代の技術では製造不可能な道具たちである。 もっとも一部を解明されて実際に使われてる技術もあるので、あくまで現段階ではと付くと言っていいかも知れない。
エターナにそんな物を持たせたのは、普段は単なるアクセサリーにしか見えないのでどこでも気兼ねなく身に付けていられ、それでいていざとに時には身を守れる武器になるという便利さだろうとアインは思っている。
「あーそれってすっごく高く売れるんだっけ?」
アインは頷き「まあ、物にもよりますがね」と付け加えた。
しかし、売ってくれというならあり得もするが、いきなりいきなり殺してでも奪おうというのは極端過ぎる。 襲撃者にはその気はなかったようだが、依頼主からはそう指示されたと言っていた。
「やはりあいつを捕まえて白状させるしかないか……」
「ですね……」
「だよねぇ……」
簡単ではないが現状ではそうしない限り状況は好転しないだろう。 相手の言葉をどこまで信用していいかという問題はあるが、少なくとも命までは狙わる危険は少ないのでまだ安心は出来る。
昨夜逃がしてしまったのは結果的に不手際ではあったが、迂闊に殺してしまい次にもっと危険な奴がやって来るよりはまだマシだと思うしかないだろう。 そうする事で少しは気が楽になるのを感じたアストであった。
街道から少し外れた森の中にあるこの小さな小屋は一昨日にガリアが見つけ一夜の寝床と場所であった、一晩をここで過ごし出発したらエターナ達とゴブリン連中の戦闘を目撃し、目的であるエターナル・ブレスレットを見つけられたのだ。
「……だから失敗したのは悪かったですって。 だが、無理強いしても成功なんてしいないもんですよ?」
彼が話しているのは、古びた木の床に置いてある水晶玉のような物だ。 その水晶玉から『ふむ、流石にトキハの弟子というとこか……』と低い男の声。
「一緒にいた剣士も只者じゃなさそうでしたが?」
ガリアも馬鹿正直にすべてを報告しもしない、嘘は言わないが自分の不利益にならぬように脚色したり本当の事を言わなかったりもする。 今回で言えば単に奇襲に失敗し、戦闘の結果不利になったので撤退したとだけ話した。
『こっちの情報にはなかった、何かの理由で途中で一緒する事になったというところか……』
そんなとこだろうなとはガリアも思う。
『エターナル・ブレスレット……トキハの奴がもういらぬなら私がもらい受けても構わんはずだ』
「……一応言っておきますが、交渉の余地のない相手でもないですが? まあ、すでに仕掛けておいてなんですけど……」
売ってくれと言われて素直に譲ってくれるとも限らないが、その方がよほど筋の通ったやり方だ。
『ふん、あの娘がエターナル・ブレスレットの持ち主に相応しいか……試してやろうというだけの事よ。 お前を退けたというなら少しは骨があるという事ではあるか』
そして、『とにかく次の手は打つ、お前はしばらく奴らを監視しておけ』と指示を出して通話を終えた。
「……旦那が固執するエターナル・ブレスレットとトキハとやらの因縁か……しかし、何故こうまでするのか?」
水晶玉を介して話をしていた雇い主からこれまで何度も仕事を貰ってきた、いわばお得意様である。 ほとんどがまっとうとは言い難いものではあったが、それでもギリギリのラインではあった。
故に今回の依頼、エターナという少女の持つエターナル・ブレスレットを彼女の生死を問わず奪うというのは、ガリアにも迷いを生じさせてもいた。
「仕事とはいえ他人の因縁沙汰に巻き込まれるのも溜まらんな……まあ、あの嬢ちゃんもだが……」
これは思ってたより面倒な仕事になるだろうという予感がし、気が重くなるのを感じていた。