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暗闇からの襲撃者


 そんなこんなで食事を終え片付けを始めようとした時だ、「……こんな時間に何の用ですか?」とアインが夜の闇に向かい威嚇するかのような声を上げたのは。

 エターナとアストはすぐに何のことか分からず思わずアインの紅い瞳が見据える先を見た。

 「……流石に気づいてくれる思っていたが、まさか猫にとはな?」

 可笑しそうな男の声の次のは、その声の主が暗闇の中から姿を現した。年齢は三十少し手前という風に見えるが、尖った長い耳と黒い肌が見た目通りではないだろうと思わせる。

 ダークエルフ、人間を遥かに上回る長い寿命をもつエルフの、肌の黒いバージョンと言うべき種族だ。 人間と敵対してはいないが、あえて仲良くしようともしなというのが彼らの基本的なスタンスである。

 肌とは真逆の白い髪のその男は、灰色の鋭い視線でエターナ達を見渡す。

 「何の用ですかと聞いていますが?」

 いつでも魔法を放てるようにしながら問うアインの横に、やはりすぐにでも剣を抜けるように身構えたアストが並ぶ。 見たところ男は防具も身に付けていなければ武器らしきものも持っていないように見えても、油断ならない雰囲気を漂わせていた。

 「俺の要件はひとつ、その少女の持つエターナル・ブレスレットを渡してほしいという事だ」

 「……ほへ?……って、ええっ!!?」

 驚きの声を上げて思わず自分の左手首を見るエターナ、そこあるのは金属製と見える銀色の本体に持ち主の瞳と同じ蒼い色の楕円形の玉の付いたブレスレット。

 「……エターナル・ブレスレットを知っている……何者です?」

 「俺が何者かはどうでもいい事だ。 おとなしく渡せば痛い目をみずに済むぞ?」

 アインには答えずにエターナの蒼い瞳を見やる男、威圧するような迫力はあったが殺気めいたものは感じられない。

 答えの代わりという風にエターナル・ブレスレットが発光し持ち主の左手首から外れると球体へと形を変え、次に瞬間には十字となり一メートル程の長さにまで拡大する。

 「そー言われて素直に渡すと思う?」

 右手でしっかりそれを握ると光が消失し、エターナル・ピコハンの姿となった。

 「……まあ、そうくるな」

 男は肩を竦めた後で両手を左右に真っ直ぐに伸ばした、すると手の甲辺りに光が現れ、それは四十センチ程の光のブレードへと変わる。

 アストが驚きながら「……魔法のブレードか!」と剣を抜き構えれば、「そういう事だ」と切っ先を彼に向ける男は、次の瞬間に大きく後ろへ跳び闇の中へと姿を消した。

 「《インビジブル》……!?」

 ランタンの光の外へ出てもブレードの光まで見なくなる道理もなく、周囲の景色に溶け込み姿を隠く魔法であるのは間違いない。 アインとアストはすかさず気配を頼りに探そうとしたが、男は気配を消すのにも長けているようだった。

 「こいつ……アサシンか何かか?」

 「……かも知れませんね……」

 二人が油断なく周囲に視線を巡らせながらの会話に、「その割には堂々と姿を現してない?」と疑問を口にするエターナ。 実際にされても困るが、その気になれば自分達が寝静まるの待って行動しても良かったはずだ。

 「まあーぶっとばしてから聞けばいいかぁ……」

 エターナ達は互いに背を向け合う、こうする事で敵に背後を取られないようにし全方位を警戒する事が出来る。

 一分、二分と時間だけが過ぎていくがいっこうに攻撃してくる気配がないのを相手が逃げたと楽観視はせず、「……こっちの集中が切れるのを待っているか……」とアストは判断する。

 直後に「あ……」というエターナの声に続き爆音が響いたのは、彼女の《エクスプロージョン》であり、「なにぃぃいいいいっ!!?」という驚きの声は襲撃者の男のものだ。

 すかさずアストが地を蹴って声のした方に跳び出せば、アインが《ライト》の魔法で周囲を照らし、驚愕の表情の男の姿が照らし出された。 無傷なのは、咄嗟でマナのチャージが不十分だった上に着弾場所もズレてたからだろう。

 「真っ向勝負になればっ!」

 「……ちっ!?」

 アストの先制攻撃をブレードを交差させて受け止めると、「おいっ!どうして分かったっ!?」と叫ぶのは、もちろん目の前の剣士ではなくピコハンを構えた少女に対してである。

 「ん~~何となく目が合った気がしたから?」

 返ってきた答えに「はぁ!?」と声を上げて後ろへ跳ぶと、そこへアインの《マナ・アロー》が飛んできたのもどうにか回避してみせた。 マナのエネルギーを矢のように放つ初歩の攻撃魔法は、殺傷能力は低く急所にでも当たらなければまず致命傷とはならない。 

 《インビジブル》の魔法は簡単に言えば光を屈折させるフィールドを展開し相手から視えなくするのであるが、使用者も周囲が視えなくなってしまう欠点がある。 そのため僅かに除き穴を確保しているのだが、それも気づかれないために十分なものを確保できず、結果的に戦闘などで動き回るには十分な視界も確保出来ない。

 だから、確かに”目が合う”というのもありえはしても、エターナがそれを認識できるなど考えにくい現象のはずだった。

 「いつもの直感力ですか……」

 「直感って……ありかよっ!?」

 二発目の《マナ・アロー》を避け、男はアストに攻撃を仕掛けた。 彼の二本のブレードを駆使した体術は並ではないが、それをことごとく捌くアストの技量も只者ではないとアインには見えた。

 「やるな!」

 「あんたもね! ただの殺し屋ってわけじゃないか!」

 左のブレードを横薙ぎに振るいながら「殺し屋じゃねえよっ!」と言い返す。

 その戦いの動きの速さにエターナはピコハンで殴りかかることも出来ず、かといってアストを巻き込まないために魔法を使うという選択も出来ずにいた。

 故郷であるイムシー村の自警団の剣術の稽古などは何度も見た事はあるが、その時とは比べ物にならない動きを互いにしている。

 「ここまでやるとは……」

 呟くと男は後ろへ跳び、そして”待った”という風に右の掌を翳してみせた。

 それに対しアストは驚きながらも動きを止める、エターナもアインもどういう事かと男の顔を見た。

 「ぶっちゃけて言おう、俺の目的はあくまでエターナル・ブレスレットであってお前さんらの命じゃない。 だからこのまま戦い続ける事に意味はあまりないんだな、これが」

 何かの罠かと疑いの眼差しを向けるアストとアインの前で男はブレードを消したのは、戦闘停止が本気だと示していた。

 「それって……あんたはあたし達を殺そうとかしたくないって事なの?」

 「まあな、そういうのは流儀じゃないんでな?」

 肩を竦める男に「あんたって何なわけ?」と首を傾げながらエターナは問うと、彼はしばし困ったように考え込む。

 「どこまで言っていいかねぇ……とりあえず俺の名はガリア・ストラトス。 まあ、傭兵だよ」

 「ふ~ん……あたしはエターナ・シャインハートよ。 んで、こっちがアインであっちがアストね」

 「ちょ……!」

 「何をしてるんですか!?」

 名乗りと仲間を紹介しながらエターナル・ピコハンをブレスレットに戻すのにアスト達は慌てた。 そんな光景にガリアは心の中で苦笑する。

 「そんでお前さんの腕輪を奪えっていうのが俺の受けた依頼なわけだ、依頼主は相手の命は問わんって言ったが……不要な殺しは好みじゃないし、ましてや女子供は殺したくないんでな」

 エターナに対して向けられた笑い顔は悪人のものではないと感じられる。

 「だったら私達が眠って無防備なところを奪えばいいのではないのですか?」

 アインの言っている事はもっともなものだ、ガリアは少し困った風に顔になり指で頬を掻いた。

 「いや……何と言うか、目的はともかく女の子の寝込みを襲うって響きがどうかと思ってなぁ……」

 だから戦闘に持ち込んで武器化したところを奪って逃走しようというの計画を立て実行したはいいが、アスト達の技量が想像以上でそれが困難だと判断したのだと説明した。

 アインは真意を探るように男の目を見据える、目的を考えればこちらを油断させるための罠とも考えられる。 しかし、だからといってこちらから無闇に殺しにかかるという選択も取り辛い、捕獲という手もあるが容易にそれをさせてくれる相手でもない。

 「依頼主って誰で何であたしの腕輪を……って聞きたいけど……」

 「ああ、流石にそこまでは言えんな?」

 予想通りの答えが返ってきたのにエターナは、「とにかく今日のところは諦めるって言うなら帰っちゃえば?」と鬱陶しい犬でも追い払うように言った。

 「エターナ! 簡単に言うけど、ここで逃がしてもこいつはまた来るんだよ!!」

 「そうですって!」

 アストとアインが当然抗議する、口調からすると叱りつけているとも聞こえる。

 「そんな事言ってもさ、アストもアインもガリアをぶっとばして捕まえられる自信あるの?」

 二人共言葉に詰まる、不可能ではないが困難な事であるのも間違いないからだ。

 「俺を殺すのは出来るかも知れないぜ?」

 冗談めかした言い方ではあるが、今回の場合は互いに殺さないで捕縛なりをするのが難しい技量であるという事であり、その気で戦えばどっちかは死ぬ自体にはなりえるだろう。

 「あんたが死んだって大元の奴をどーにかしないと次が来るだけじゃないの?」

 「……まあ、そうなるだろうな」

 「だったらさ、あんたを捕まえて洗いざらい白状させられないなら意味ないじゃん?」

 新たな相手が来るならそいつも殺せばいいという考えをしないのは、もちろん人殺しを良しとしない倫理観である。 根本的な解決手段としてそれしかないならまだしも、無意味に死体を増やす行為など出来るはずもない。

 その理屈にはアインも一理あると認めるしかない、それに自分達の側が勝てるとも限らないし、相手が退こうというににこの場での戦いを続行する事もいい判断とは言えない。

 今後はともかく今は互いに手を引くのがベターではあるだろう。 アストもそう判断したのか剣を鞘に納めたが、流石に油断なくガリアから目を放す事はしない。

 「決まりみたいだな?」

 ニヤリと笑うとゆっくりと後ろへ下がって行き、やがて再び闇の中へと消えていった。 同時に緊張が解けたのかエターナがその場に座り込む 

 アストとアインはそれでもしばらく動く事をせずに周囲を警戒していたが、十分程経った頃に大きく息を吐くと緊張を解いた。

 「アインさん、苦労してきたんでしょうね?」

 「ええ、分かりますか……」

 剣士の少年と黒猫が苦笑を浮かべて見つめる先には、いつの間にか座ったまま静かな寝息を立てている少女の姿があった。

 


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