オークのカマッセとゴブリンのヤクー
「……あ~そーいやそんな事もあったわねぇ~」
納得したという顔で言うのは、エターナ・シャインハートという名の十六歳の元気で明るそうな少女である。
自分達と対峙している敵達を見渡し「それがこいつらってわけか」と言うアスト・レイ。 柄にエメラルド色の宝玉を埋め込まれた剣を構え、動きやそうなライト・アーマーを身に付けた十八歳の黒髪の剣士の青年は、とある出来事でエターナと共に旅をするようになった仲間である。
「……ああ、どっかで見た顔と思ったらあの時の連中でしたか」
ルビーめいた赤い瞳を持つ黒猫のアインの言い方は、別にそんな事はどうでもいいと思っているようだ。
「やっと思い出しやがったかっ!! こっちはてめーの生意気なツラやつるペタな胸を忘れやしねえ!」
「つるペタとか言うなっ!!」
エターナル・ピコハンをブンブンと振りながら怒鳴るエターナが睨むカマッセの隣には、眼帯ゴブリンのヤクーが立っていて、更に他に二十体ほどのゴブリンもいた。
ここでエターナ達が今どういう状況かと説明しておくと、現在のところ目指す目的もまだないのでどこかの町なり村なりへ向かって歩いていたとこに、このオークのカマッセ率いるゴブリンの盗賊団に襲われたのだ。
そしてリーダーであるオークが見た事のある銀髪の少女にて、てめぇーはっ!?」と驚けば、その銀髪少女は「ほへ? あんたどこかであったっけ?」というやり取りがあって、そこからカマッセの説明が始まったのである。
「……つか! 何でてめーらがこんな所にいるんだよっ!?」
「何でと言われても……ねえ?」
「ええ、どこにいようと私達の自由でしょう」
エターナとアインが言い合うのに「うぐぐぐぐ!」と拳を握り締めるカマッセに。「ど、どうすんですアニキ?」とヤクーが尋ねる。 知らずに襲撃した相手が以前コテンパンにされた相手であれば、ここは逃げるべきじゃないかと思う。
「どうするもこうするもねぇ! 相手だ誰であろうが尻尾を巻いて逃げるなんて情けねえ真似が出来るかっ!」
そして「やっちまえぇぇえええええっ!!」という号令をかければ、ヤクーを除く手下のゴブリンが一斉に駆け出す。 それに対し「ここは僕に任せてくれ」とアストが跳び出し、迫りくるゴブリンに剣を振るい始めた。
それから約二分間、アストやゴブリン達の掛け声や悲鳴が続き、それが収まった時にはゴブリン達は完全に大地に倒れグロッキーダウンしていた。
「二分!? たった二分で俺の手下が全滅だとぉぉおおおおおおっ!!?」
「安心しろ、みね打ちだ。 でもこれ以上やろうって言うなら命の保証はしないよ?」
切っ先をカマッセに向けて言うアストを、「この野郎……」とカマッセは睨み返したが彼の顔を見れば明らかに怯んでいると分かった。
「アニキどうするんですっ!?」
「ええいっ! こうなりゃぁぁああああっ!!」
バトル・アックスを構え突っ込んで行くカマッセの顔は、どうみても半ばやけになっていた。 そのカマッセは「……やれやれ」とアインが放った《エクスプロージョン》の爆発で「おわぁー!?」と木の葉めいて高く舞い上がった。
同時に駆け出すエターナが目指すのはカマッセの落下予測地点だ、だいたいの勘で位置とタイミングを合わせて「飛んでけ~~世界の果てまで~~~!!!!」とエターナ・インパクトを叩きつけた。
「いっでぎゅぅぅうううううううっ!!!?」
再び打ち上げられた巨体はそのまま勢いよく空の彼方まで飛んでいき、またしてもキラリと青空に光る星となり、ヤクーは「アニキぃぃいいいいっ!!」とそれを追いかけて走り去って行く。
それを追うでもなくただ見送ったアストは「……今の掛け声って何?」と尋ねてみると、エターナは無邪気な笑顔を彼に向けてこう言った。
「ん? ただ何となく言ってみただけだよ~♪」
半ば伝説上の存在であるドラゴンを自分の目で見るべく、育ての親であり魔女の師匠であるトキハの元を旅立った十六歳の少女、エターナ・シャインハート。
そしてエターナの保護者である喋る黒猫のアインは、途中に立ち寄った村の盗賊退治で知り合った十八歳の剣士青年アスト・レイと共に今日も旅を続けていた。