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潜んでいた闇


 ロッドの先端にある宝玉が不気味な赤黒い光を放ち始めたのに、エターナはひどく危険なもの感じ取った。 これまでとはけた違いのマナが集まっているのが感じ取れた。

 その力はギラの頭上に赤い光が現れ、それはどんどん膨れ上がっていく。

 「何なの?」

 「貴様が知るはずもないな、これが《フレア》だ!」

 その名前に「《フレア》ですって!?」と叫んだのはエターナではなくアインだった。

 「《フレア》って……おいおい旦那!」

 ガリアもまた声を上げ動きを止めれば、アストも手を止めてギラを見やる。

 「アイン、《フレア》って何?」

 「……《ファイア・ボール》や《エクスプロージョン》とは比較にならないくらいの熱と爆発を生み出す魔法です。 ですが、その分集めねばならないマナも桁違いでいかに優れた魔法使いでもおいそれと使えるはずは……」

 あくまで聞き知った知識であるが、その気で撃てば村のひとつくらい消し去る事が出来る威力とも言われている。 「おいおい! そんなの使ったら俺達どころかあんたも無事じゃ済まねえぞ!」と必死に抗議してるところ見るとガリアも知っているようだった。

 「ならば逃げるが良い、運が良ければ死にはしまい?」

 自分に顔も向けずに言うのに「無茶苦茶言いやがる……」とガリアは吐き捨てた。

 「仲間も巻き添えって……何て奴なの!」

 すでに子供の身長程の直径になり色も赤みがかった白へと変化させ、今にも放たれそうな《フレア》を睨みながら、どうするべきかをエターナは考える。 《フレア》の魔法に関する知識は学んでないが、直感的にやばすぎるものだとは感じ取っていた。

 「恨むならトキハを恨むがいい。 あやつがお前を弟子にしなければ、エターナル・ブレスレットを与えなければ死なずに済んだのだからな?」

 そう、全てはトキハが悪いのだ。 トキハが存在しなければ誰も不幸にならずに済んだのだ。

 「あたしは死なない! あたしにはまだまだ見たいものがある、やりたい事もある! だからこんなとこで死ねるかぁ~~~!!!!」

 ギラとトキハの因縁は知らなくとも、完全に自分勝手な逆恨みだと理解出来る。

 だから、ギラに対して沸き起こるのは同情ではなく怒りの感情だ、こんな男の身勝手で自分はもちろんアインやアスト、それにガリアが死ぬなんて事あってはいけない。

 「いや……死ぬのだ!」

 死の宣告と共に放たれた《フレア》の赤い光球、それと同時にギラの身体がふわりと浮き上がった。

 「《レビテーション》!? 自分だけは逃げる気だった!?」

 アインの声には驚きと軽蔑が一緒に含まれていた。

 《フレア》と同時に《レビテーション》も発動待機状態にしておける技量があるとは思わなかった、そしてそれが出来て自分だけは巻き込まてないからこそ《フレア》という手段を行った彼の身勝手さだ。

 彼女の声を背にエターナは地を蹴った、ギラが安全な距離に到達すればすぐにでも大爆発するであろう光球は、逆に言えばそれまでは絶対に爆発しないはずだ。

 「《リフレクション》か? 無駄だ、《フレア》は反射出来るようなエネルギー量ではない!」

 「反射の力を攻撃の力が上回れば突破される!」

 「何?」

 その理解の仕方はトキハから教わったのか、自分の経験則から導き出したのかは今はどうでも良かった。 どちらにしてもエターナには最初から反射するつもりはなかった。

 「た~~~!!」

 ピコハンを叩き付けるのではなく《フレア》のエネルギー体に触れさせた、それは床に溢れた水に雑巾やスポンジを当てる時の感覚でやった。 つまり……。

 「跳ね返せないならこっちに吸わせるまでよっ!!」

 ギラには言っている事が理解出来ず「どういうのだっ!!?」と問い返すと直後、《フレア》の光の一部が触手のように伸びハンマーに吸い込まれ始めたのを見た。

 「エターナル・ピコハンはあたしの魔法を込められる! なら他人の魔法だって出来ないはずないっ!!」

 「何をどうすればそんな発想になるっ!!?」

 しかし、現実に魔法の力が吸収されていては今すぐに《フレア》を発動させようとしたが、まだ安全な距離に達していないと気が付けばそれを躊躇した。 その間に《フレア》がすべて吸収されてしまえば、次に打つ手を思い付けない。

 「今度はこっちの攻撃よギラっ!!」

 愕然と空中で静止してしまっているギラに見せつけるように掲げたピコハンのハンマーは、まるで太陽のような輝きをしていた。

 「無茶苦茶を思い付いて迷いなく実行し、本当にやってみせる……とんでもない嬢ちゃんだぜ……」

 アストもガリアと同じ事を思いながら、《レビテーション》を使って飛び上がるエターナを見つめた。

 「ひっ……」

 恐怖を感じ逃げようとしながらも、ギラの右腕はロッドを前に突き出していた。

 「……な、なんだ……?」

 『心配すんな、お前さんの肉体・・は守ってやるよ?』

 聞こえた……と言うより頭の中に直接響いた声を、ギラは知っているように感じたが、それ以上を考える余裕はなかった。 

 「いっけ~~~~~!!!」

 一気に距離を詰め振るわれたエターナル・ピコハンと黒いロッドがぶつかる。

 ピコッ♪という音と共に解放された膨大なエネルギーは、触れたものを焼き尽くす熱を衝撃波にのせたすべてがギラに向かった。 「ぐぉぉおおおおおおっっっ!!!?」という叫びと共に赤みがかった光に飲み込まれいくのとは反対方向へ、つまり大地に向かって「わきゃぁ~~?」とエターナが落ちていくのは、攻撃の反動だった。

 そのまま追突すれば命の危険もあったが、《レビテーション》のコントロールを立て直して両足で着地してみせたエターナに、アストとアインが駈け寄る。

 「エターナ!」

 「大丈夫ですか?」

 大きく安堵の息を吐いた後、二人を向かって「うん、大丈夫よ」と笑ってみせたエターナは、次には表情を曇らせて空を見上げた。 あれではギラは助からないだろうと思う、無論そうしなければ自分が死んでいたし自業自得と言えはするが、それでも死なないで済むならその方がいいと思う。

 「……え?」

 エターナの目が驚きに見開かれたのは、彼女の見つめる先に不敵な笑いで自分を見下ろしているギラが浮いていたからだ。 その表情の変化を不審に思ったアスト達も少女の視線の先を見て、そして同じ様に驚きの表情となる。

 「おいおい……マジかよ……?」

 ガリアであっても雇い主の無事を喜ぶよりも信じられないという気持ちが先にきた、それ程の不気味さを感じさせる光景だった。

 「ふふふふ……流石に少しヒヤリとしたぞ?」

 それは間違いなくギラの声に聞えたが、同時に全くの別人の物であるとも感じさせた。 だから、「あんた……誰?」と問うていた。 

 アイン達三人はエターナを怪訝そうに見たが、ギラだけは少し驚きの表情をした後に愉快そうに笑い出した。

 「勘がいい娘だな。 理屈ではない、本能的なもので相手を理解する事に長けているか?」

 ギラはゆっくりと降下を始め、ほどなくエターナ達の数メートル先に着地しすると同時に手に握っていたロッドを投げ捨てた。 音を立てて転がるそれに思わず目を向ければ、付いていたはずの宝玉が砕け散ったのかなくなっていた。

 「これも、もういらん。 俺を封じ込めていた忌々しい道具などな」

 「封じ込められていた……だと?」

 エターナ達と合流したガリアが問うと、「そうだ」と頷く。

 「俺はバルバトス。 お前らが魔神って呼ぶ存在さ」

 


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