アスト対ガリア
二本のブレードを操るガリアに動きは巧みで、しかも魔法も操る事を知っていればアストも慎重に攻めざるを得ない。 《インビジブル》は真っ向勝負の最中に使うものではないが、それだけしか操れなと思い込むのは危険である。
「まだ若いのにやるな、にいちゃん!」
「あんたもね!」
ブレードが前髪を掠め黒い髪の毛が数本宙を舞うのは、アストには気にする余裕はない。
「だが、こっちも大人なんでね……本気でやれば負けんさ!」
アストの打ち込みを右のブレードで受け止めたガリアは、左のブレードを突き出した。 それがわき腹に刺さるか刺さらないかというタイミングでギリギリ回避したアストは、「大人の方が絶対強いわけじゃないだろ!」と言い返す。
「まあ、そうだが……この場合は実戦経験のさだ!」
ガリアの攻撃は、片方のブレードを盾代わりしたかと思えば二本で左右からの攻撃をしたりと巧妙で仕掛けるタイミングをなかなか掴めない。
「剣が二本あるってのはこういうもんさ!」
「二刀流の相手とだって戦った事もあるのに……」
「だから経験の差だと言っている!」
直後に《ファイア・アロー》が飛んできたのを後ろに下がって回避したガリアは、それを放った黒猫を見やる。
「嬢ちゃんも気にしてるくせに、こうも的確なタイミングでこっちも援護してみせるってか……あいつも只もんじゃんってこったな」
前回の時にこの三人を相手にしてたら勝てたかどうか分らなかったと認める。
アストが仕掛けてこないので雇い主の方を見れば、互いに攻め手がなく膠着状態が続いていた。
ガリアとしては目の前の青年をさっさと倒して援護に向かいたいとこだが、そう簡単な相手でもない。 もっとも、それは相手も同じだろうとも分かる。
「ま、こいつの足止めを出来てるだけ良しとするか……」
「こっちはそういうわけにもいかないんだ!」
言いながら仕掛けてきたアストの表情には先程まではなかった僅かな焦りが伺えた。 何気ない呟きだったが、どうやらこちらが時間稼ぎを狙っていると考えたのだろう。
勢いよく突進し突いて来たのを回避し反撃に振るってやったブレードは彼の頬を掠め赤い筋を作ったが、それに怯むことなく振るわれたマナの剣もガリアの左腕を掠めた。
「勢いは良い!……が、そういう焦りは危険だぜ?」
「焦ってなんかっ!」
互いに振るう刃が数度ぶつかり合う。
「動きが強引になってんだよ!」
未熟な証しだと思う一方で、それがこの人間の若さと真っすぐな性格故だと好感を持ちもした。
冗談ではないとギラは憤る。
師であった魔術師の弟子の間ではギラは優秀な方であった、彼の後継者の最有力候補とさせ言われていた……がそれもトキハがやって来るまではだ。
トキハはメキメキとその才能を開花させ、いつの間にか誰もが一目置く程の魔法の才能を見せた。 それはギラも認めはするが、自分と比較して大きな開きなどないはずだった。
何より修行した年月の長さで得た知識や技術は彼女を上回っているはずだった。
だが、最終的に夢幻の名とエターナル・ブレスレットを譲り受けたのがトキハなのが納得出来ず、師に抗議しトキハとの対決をした。 絶対の自信を持っていたギラは、しかしその戦いで敗北したのである。
その後の人生は決して悪いものではなかった、魔術師として魔法の研究に励み数々の実績を認められて魔術師組合の幹部まで上り詰めれば、トキハに敗北した事も誰にでもある人生の汚点だと割り切れもした。
そんなある日、腕輪を武器に変える少女が旅をしているという話を聞き調べさせれば、それがトキハの弟子と分かれば腕輪がエターナル・ブレスレットだとは容易に分かる。
「エターナル・ブレスレットは玩具ではないというのに……トキハめ、こんな子供にポンと与えるとは……」
少女の握るハンマーの外見は玩具以外の何物でもなく、その意味では彼女に相応しい形へと成っているのだろう。 そしてそんな子供にいずれは夢幻の名も与えるつもりだという理解は、ギラには不愉快以外の何物でもなかった。
だから取り返す、本来得るはずだったエターナル・ブレスレットを取り返し、その力でトキハも倒し夢幻の名も取り返すのだと、そう決めたのだ。
「……なのにたかが小娘にこうも手こずる、どういう事だと言うのだ……」
自分の右手で握る黒いロッドを見やる、偶然手に入れたこの発掘遺産は研究の結果、使用者の魔力を大きく増幅させると分かった。 魔力が強くなるという事は集められるマナの量が増え使用する魔法の力もその分アップするのだ。
「そうだ、こっちにはこのロッドがあるというのに何故だ?」
自分がロッドの力を使いこなせていないのか?という考えが頭を過ったが、そんな事あるものかとすぐに否定した。
「……いいだろう、子供相手に使う事もないと思っていたが」




