イムシー村での出来事
イムシー村はフィーリア王国にある小さいが平和な村だ。
だがこの日、そのイムシー村が騒然とし始めたのは、野党の集団が襲撃して来たからだった。 しかもそいつらは人間ではなくゴブリンと呼ばれる種族であった。
体長一メートル程の緑色の肌を持った人型の生き物達は、五十人程の集団で村へと侵入して来た。 村人が慌てて避難し出し自警団が迎撃に当たるが、自警団といっても戦い方を多少学んだ程度のグループというのが実際のところであり、人数も十数人程度しかいない。
「よりにもよってトキハ先生の留守中なんて……」
若い自警団員が槍を構えながら自信なさげに呟くのがそれを物語っていた。
「がっはっはっはっ! 野郎ども片っ端から奪ってしまえっ!! 抵抗する奴は皆殺しよぉ~~ひゃっはぁ~~~!!」
ゴブリンの後方でそう叫ぶそいつはゴブリンに似てはいるが、体格は倍はあり顔つきもゴツイそいつはオークである。 カマッセという名のこのオークがこの野盗集団のリーダーである。
ゴブリンもオークもある程度の知性を持ち言葉も使うため、動物とか怪物よりも蛮族というべき存在だ。
「えっへっへっへ、この村もオイラ達に目を付けられたのが運の付きですねアニキ?」
隣に立つ右目に眼帯を付けたゴブリンが下品な笑いをするのに、「そういう事だぜ、ヤクー!」と豪快に頷くカマッセである。
彼らのようなゴブリンやオークと人間は仲が良い隣人とはいかないが、人間側がその気になれば駆逐するのも難しいというわけでもないので、いらんちょっかいはあまりしないというのが普通だ。
なので野盗となって村ひとつを襲撃し略奪をするというのも頻繁にあるというような出来事でもない。
「あべっ!?」
「おばっ!?」
「ごべっ!?」
直後に三体のゴブリンが宙に浮き、そして地面に叩き付けられたという光景がカマッセの視界に跳び込んで来た。
天辺がピョンと立った長い銀髪の少女が「まだまだ~~~!!」と声を上げながら両手に握った大きなピコピコハンマーを振り上げ、更に二体が吹っ飛ばされる。
「「なにぃぃいいいいいいっ!!?」」
カマッセとヤクーは揃って驚愕の叫びと共に目を見開く。 いくらゴブリンとはいえ、どう見ても十代前半の人間の少女の玩具みたいな武器で倒される道理はないはずなのだ。
すると今度は爆発音が響きそっちへと顔を向ければ、数体のゴブリンが吹き飛ばされたかのように倒れていて、彼らを見つめる一匹の黒猫が立っていた。
「こいつらトキハ様の留守を狙って来たのか、偶然なのか……」
仲間がやられた事にいきり立ち迫る五体のゴブリンは、猫が人間の言葉を喋ったのに一瞬驚きの表情をしながらも一斉に襲い掛かる。
「いずれにしても撃退するのみです!」
黒猫の前方に光弾が現れる、そしてそれがゴブリン達目掛けて発射され、五体の中心辺りの地面に着弾し爆ぜて大きな音を響かせた。
「「「「「あぼばべらぁぁぁああああああっ!!!?」」」」」
五体の敵をまとめて吹き飛ばしたのは《エクスプロージョン》の魔法だ。 大気中に存在するマナを集めて様々な現象を引き起こすのが魔法であり、その魔法を扱える者は魔法使いと呼ばれる。
使用者であるアインが近くにある民家などの被害がないように手加減をしているので死にはしないが、それでもすぐには立ち上がれなくくらいのダメージにはなる。
「女の子に猫!? どういう事だよっ!!?」
気が付けば少女の登場で勢いづいたのか自警団のメンバーも果敢に挑むようになり、徐々に味方が押され始めていた。
「あんたがボスねっ!」
一体の顔面にピコハンを叩きこんで気絶させた少女がカマッセに気が付くと、地面を蹴って駆け出した。 カマッセは「やるかこらぁっ!!」と愛用のバトル・アックスを構えて迎え撃つ。
「このカマッセ様がてめーみたいな小娘に!」
「エターナ・シャインハート!!」
「……はあ?」
何を言ったのか分からないカマッセが聞き返すのと同時に、ピコハンの赤いハンマー部分が白い光を放ち始めた。
その間にも距離を詰めて来た少女めがけてカマッセは躊躇なくアックスを振り下ろすが、彼女は身軽な動きで回避し「あたしの名前!!」とピコハンを勢いよく振り上げれば、見事にカマッセの腹にヒットしピコッ♪という可愛らしい音を鳴らす。
しかし、エターナル・ピコハンの力にエターナの魔法を上乗せしたエターナ・インパクトのフルパワーの威力は、何とカマッセの巨体をボールめいて吹っ飛ばした。
カマッセの姿も、「あばばばばぁああああああああっっっ!!!?」という悲鳴も青い空に吸い込まれるようにあっという間に小さくなっていき、最後にはキラリと星めいて輝いて消えた。
「これはまた飛んだわねぇ~?」
兄貴分のオークが消えた先を呆然と見ていたヤクーは、エターナの愉快そうな声に我に返って「アニキぃぃぃいいいいいいいっ!!!!」と叫んで走り出せば、他のゴブリン達も大慌てという様子でそれを追っていったのであった……。