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第七話

 気が付くと、私は天津橋の下まで来ていた。目の前には誰もいない。私が後ろを振り返ると、そこにはまだ泳いでいるづかちょん先輩の姿が見えた。

 夕日に照らされてキラキラ光っている川面をかき分けて進む先輩の泳ぎは、お世辞にも上手いとは言えなかった。でも、一生懸命泳ぐその姿は、川と一緒にキラキラと光っていて、キレイだった。

「先輩、お疲れ様です」

「…………」

 先輩は、無言のままゼーハーゼーハー言っていた。すごく苦しそうだ。

「先輩……」

 手を貸そうと思い、先輩の傍に行こうとした時、先輩が口を開いた。

「ご、ごめんね。……ごめん。勝負がついたらさ、おめでとうとかさ、悔しいけど負けたよとかさ、マコに何か言ってやろうと思っていたんだけどさ……はは、何も、何も言葉が出てこないや」

 先輩は泣いていた。ボロボロとブサイクな顔で、泣いていた。

「先輩……」

 気が付くと私も泣いていた。

「うぅ、私、私負けたんだ。負けだんだぁ! うぅううわーーん!」

 “敗北”を受け入れるために必要な心の余剰を作るべく、先輩は涙を流した。

 サイズの大きな“敗北”を心の中に入れるためには、たくさんの涙を外に出して、心に隙間を作る必要がある。だから人は、悲しいときに涙を流すんだ。悲しい現実を受け入れるためには、たくさん泣いて、心に余剰を作らなければいけないから。

 人間が大人になってから涙を流さなくなるのは、老いて涙が枯れたからじゃない。涙と引き換えに、たくさんの悲しみを受け入れて来たからだ。

 づかちょん先輩は今日、思いっきり泣いて悲しみを受け入れた。だからきっと、づかちょん先輩は簡単に泣かない、素敵な大人になるのでしょう。私は心からそう思った。

「うわぁーーーん」

 づかちょん先輩の流した涙はほんの少しだけ、卍川の水位を上げた。それは卍川にとって取るに足らない僅かな変化だった。けれども、づかちょん先輩にとってそれは、とても大きな変化だった。

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