第四話
「……なるほど、つまり、あなたは魔女に魔法をかけられて、卍川から出られなくなってしまったわけね」
づかちょん先輩は黙っていれば美人だ。目は細くてキツ目だけど、鼻筋はキレイに通っているし、唇も肉厚で魅力的だ。アンジェリーナジョリーみたい。それに、背も高いし、華奢でスタイルも良い。
ただ、残念ながらづかちょん先輩は、水泳選手向けの体型ではない。きっと、バレーボールとか、陸上の高跳びとか、何ならモデルとか、そういったことで才能を発揮できる体型だと思う。
水泳は私みたいに、肩幅があって、少し肉付きが良くて、身長はそこそこ高いけどずんぐりむっくりな、まるで“弾丸”みたいな体型が良いと私は思っている。
正直、私は顔はかわいいが、スタイルはさほどよくないのだ(冒頭での自己紹介は嘘でした。許してね)。でも、私はスタイルの悪さを悲観したことは一度もない。私は水泳選手としての才能があり、その才能を生かしている賢い人間だと思っているから。それに対して先輩は、自らの才能を生かせず、才能のない分野で無理矢理戦おうとしている愚かな人間だ。
才能のある私から見たら、才能もないのに頑張る姿は非常に滑稽に見える。しかし、づかちょん先輩はとても真剣で、今までの人生すべてを競泳に捧げてきたような人だから、バカにしようとは思わないし、その精神力に関しては尊敬している。むしろ、私の水泳に取り組む姿勢や精神力は、づかちょん先輩から学んだと言っても過言じゃない。
つまりは、私はづかちょん先輩を小ばかにしながらも、尊敬しているという、少し複雑な感情を抱いている。
「……ということで、今先輩と勝負はできません。ごめんなさい。できるだけはやく尻子玉を手に入れて、この川から出ますから。勝負はそれまで待ってください。お願いします。……ところで先輩、実は、ちょっと先輩に頼みたいことがあるんですが」
私は川から出られないので、先輩に頼みたいことがたくさんあった。食料の調達や私のことを心配しているであろう家族への連絡、学校や部活を無断で欠席したことの説明などなど、外界との連絡役を頼みたかったのだ。
「ふざけんじゃないわよ! 魔法? 魔女? 河童? そんな話信じられるわけないでしょ! へたな言い訳はいいから、さっさと川から出て来なさいよ! 私のことバカにしてんでしょ」
しかし、先輩の熱はまったく冷めていなかった。
「いや、だから川から出られないんですって」
「嘘おっしゃい! この野郎、引きずり出してやるわ」
そう言うと、づかちょん先輩は私の腕を掴み、無理矢理岸に上げようとした。
「ちょ、ちょっと先輩! 痛い、痛いですって」
しかし、私の体はツルツル滑ってしまい、岸に上がることはできない。
「何よこれ! どうなってんのよ?」
「だから、これは魔法なんですって!」
「だーかーらぁ! ふざけるなって言ったでしょぉおおお!」
づかちょん先輩はついに発狂した。