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第三十話

 ユウイチ君はどこ!

 私は『龍のくしゃみ』に流されながらも、ユウイチ君を必死に探した。

 小さい頃はなすすべもなく流されたけど、今の私なら何とかこの『龍のくしゃみ』の中を泳ぐことができる。上下左右もわからないし、ものすごい水圧で下流へと押し流されているけれど、なんとか溺れずに姿勢を保っていられる。

“ユウイチ君! どこにいるの?”

 私はなんとか水面を見つけ、上に向かって泳ぎ、水面から顔を出した。多少水を飲んでしまったけれど、意識はハッキリとしている。大丈夫。それよりもユウイチ君だ。このままでは、ユウイチ君が死んでしまう。

「ユウイチ君!」

 私はユウイチ君を発見した。五十メートルくらい先の下流で浮いている。距離があるからよくわからないけど、動いていない。意識がないみたい。それに、いつの間にか人間の姿に戻っている。河童の妖術が解けたんだ。

 私は必死にユウイチ君に向かって泳いだ。はやく助けないと、はやく、私が、助けないと! 

私は無我夢中で泳いだ。

「大変だ! 子供が溺れているぞ!」

 橋の上の方から声が聞こえた。橋の上にいる人たちもユウイチ君の存在に気付いたようだ。

「ジャボン!」

 後ろの方で誰かが飛び込む音が聞こえた。

 無我夢中で泳ぐ体とは裏腹に、心はやけに静かで、周りの音や人の声がハッキリと聞こえていた。

 もう少しで、ユウイチ君にたどり着く。そう思った瞬間、私は再び視界を水に奪われた。上下左右がわからなくなり、ものすごい水圧に押されて、ユウイチ君を見失った。

 一瞬わけがわからなかったが、すぐに現状を理解した。

 『龍のくしゃみ』の“第二波“がやって来て、それに飲まれたのだ――。

 そんな……間髪入れずに連続で『龍のくしゃみ』が来るなんて。ユウイチ君……。どこに……どこにいるの…………。

 突然の第二波。さすがの私も意識を保つので精一杯だった。思わず水を飲んでしまったし、呼吸が苦しい。正直、ユウイチ君のことを心配できるほどの余裕がない。まずは、私自身の体制を立て直して、とにかく水面に出ないと……。パニックに陥ってはいけない、とにかく冷静に、心だけは冷静に。

 私は焦る気持ちを抑えて、慎重に川の流れを見極め、水面を目指して泳いだ。

「ぷはぁ、はぁ、はぁ、う、くんぅはぁ、はぁ」

 なんとか水面に出て、息を吸い込んだ。呼吸が苦しい。酸欠で視界が霞む。

「ユ、ユウイチ君……はぁ、はぁ……ど、どこ…………」

 朦朧とする意識の中、必死で探す。

「大丈夫か! すぐに救急車を呼べ」

 岸の方で声が聞こえた。すぐに声のする方を見た。そこには、大勢の人と横たわるユウイチ君がいた。距離があってわかりにくいけど、どうやらユウイチ君は無事のようだ。ゴホゴホいって水を吐き出している。ちゃんと呼吸をしているのがこの距離からでもわかる! 誰かが助けてくれたんだ。

 私はユウイチ君が生きていることに安堵した。瞬間、急に視界が暗くなった――。

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