第二十三話
数時間後、カナミが再びやって来た。先ほどよりもさらにひどい顔で泣きながら。
「あんたに言われっぱなしは気に食わないから、言ってきたわよ。速水君に告白してきてやったわよ」
「え?」
私はカナミの行動に驚き、唖然としてしまった。
「振られたわよ! これで満足? あんたの言う最短距離を行った結果がこれよ。速水君すごく困った顔していた。その困った顔を見て、私の胸は痛んだ」
「ご、ごめん……」
私はカナミの勢いに、思わず謝った。
「今謝ったわね? ごめんって言ったわね? 確かに聞いたわよ」
急に、カナミの口調が変わった。いつもの冷静で淡々とした口調だ。
「謝ったってことは、あんたの考えが間違っていたと認めたわけね」
「え、ええいや……その……」
カナミの口調がまるで被告に詰め寄る弁護士みたいで、私は思わずたじろいだ。
「あんたの考えは間違っている――とまでは言わないけれど、あんたはもっと知るべきよ。考えるべき、変わるべき。あんたの言う最短距離だけでは、太刀打ちできない場面がこの先きっといっぱいある。そして、それは今この瞬間にも来ていると思う」
カナミの目は、すごく澄んでいた。泣きじゃくったせいで瞼は腫れていて、まるでお化けみたいだけど、その瞳はすごく力強かった。
「マコ、あんたは今、変わるべきなのよ」
――その一言が、私の心にスッと突き刺さった。
私は今まで自分の言葉だけを信じて生きて来た。他の誰かの言葉が、こんなにもすんなりと心に刺さったのは、初めてだった。
「わかった。今度は、私の番だね」
私はコクリと頷き、カナミと目を合わせた。カナミもまた、コクリと頷いた。
悪いことは連鎖する。これでもかと、畳みかけるようにやって来て、心をえぐる。でも、雨のあとにはきれいな虹がかかるという、あの幼い絵本を、ふと思い出す。
「雨やんだね」
気が付くと、雨は止んでいた。空を見上げる。虹はまだかかっていない。でも大丈夫、私が虹をかけるから。
そんなことを考えながら、私は雲間から射す光を見つめた。




