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第十九話

 私はお腹が空いたので西卍に向かった。ママのお弁当が食べたくなった。

「あら、マコ来たのね」

 私が西卍に行くと、ママは河川敷に座ってぼーっとしていた。その膝の上には、特性のお弁当がある。

「ママ、お腹空いた」

「はい、お弁当よ」

 私はママからお弁当を受け取ると、近くにあった小さな岩の上に座って、お弁当箱を開いた。

 タコさんウインナーに甘い卵焼き、刻んだ梅干しを混ぜ込んであるお握り、プチトマト、チーズが穴に詰まっているちくわ。どれも、私の好きなものばかりだ。

「いただきます」

 私はお腹が空いていたのでママのお弁当をガツガツ食べた。おいしかった。ママの料理はとにかくおいしい。

「マコは今、どこで寝ているの?」

 お弁当を食べる私を見ながらママはニッコリと微笑んでいた。

「そこら辺の岩の上だよ。昨日は北卍で寝た」

「あら、そうなの。岩の上って、痛くなかった?」

「痛いに決まってるじゃない」

 私が昨日寝た岩はごつごつしていて痛かった。それに比べて、河童が寝床にしていた平たい岩は、ごつごつしている部分がほとんどなくて、痛くなさそうだった。くそ、河童の奴め。一番良い岩を独り占めしやがって、許せない。

「やっぱり痛いわよね。ママも昔、北卍の岩の上で寝たことがあるのよ」

「え? なんで?」

「マコの泳ぎが上手いのは誰のおかげだと思ってるの。私も昔はよく、北卍で泳いで遊んでいたのよ。で、遊び疲れたら、そこら辺の岩の上に登って、休んでいたものよ」

「へえー、意外」

 ママは普段おっとりしているので、子供のころは外で遊ぶよりも図書館とかで静かに本を読んでいるタイプだと思っていた。

「それでね、ママね、気持ちよく寝られる岩がないかなーと思って、いろいろ試してみたの。そしたら、天津橋の少し上流のところに、平たくて寝やすい良い岩があるのを見つけたのよ。その岩は中学を卒業するまで、ママのお気に入りの場所だったの。嫌なことがあったり、気分転換したいと思ったとき、あの平たい岩の上で寝転んで、青空を眺めていたわ。ああ、懐かしい。マコも今日からはあの岩の上で寝るといいわ。あそこで寝転ぶとね、誰かに愚痴を聞いて貰った時みたいな、すっきりとした気持ちになれるのよ」

 ママが言っているのはきっと、河童の寝床の平たい岩のことだ。

「ママ、残念ながらあの岩には先客がいるのよ」

「先客?」

「ううん、なんでもない。ママお弁当ありがとね。また食べに来るから」

「はいはい。待ってるからね。気を付けてね」

 そう言うと、ママは手を振って私を見送ってくれた。

 ご飯を食べた私は元気満々。再び河童から尻子玉を奪うべく、北卍へと向かった。



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