第十七話
「河童、キュウリと尻子玉を交換しなさい」
私が河童を再び見つけたのは翌日の昼過ぎだった。河童は自由奔放で神出鬼没。この広い卍川の中で河童を探すのは大変骨が折れる。
「お? おお! おまえ、それ俺の大好物のキュウリじゃないか! くれくれ、はやくよこせ!」
河童は嘴のような口から涎を垂らし、ひどく興奮しているようだった。どうやら『キュウリ作戦』は大成功ね。私は河童の様子から手ごたえを感じた。
「……なんて言うとでも思ったのか? 愚かだぞ人間」
私が勝利を確信し、ニヤリとした瞬間、河童は冷ややかな目でこちらを見て来た。雰囲気が一変したのを感じた。
あれ? もしかして、少し怒っている?
私はそう感じた。
「俺は人間に化けて町に出かけ、そこでピザとかハンバーガーとか散々食べているんだ。キュウリよりもうまい食べ物がたくさんあることを知っている。それに、おまえは全く物の価値というものがわかっていない。おまえは尻子玉の何を知っているんだ? 俺にとって尻子玉がどれほど価値のあるものなのかということを、考えたことがあるのか?」
そんなこと、考えたことなかった。
だって、私にとってそれは「どうでもいいこと」だったから。私にとって重要なのは尻子玉に価値があるかどうかということではなく、尻子玉という物を手に入れることだ。尻子玉自体に価値があろうがなかろうが、それは私にとって関係ない。自分に関係のないことを一生懸命考えたって、無駄でしょ? 私はいつだって、目標を達成するために最短距離を生きて来た。自分に関係のないことをいちいち考えていたら前に進めない。その隙に、ライバルたちはどんどん先に行ってしまうのだから。
私は河童の話を聞きながらそんなことを考えていたが、河童はそんな私の上の空など気にせず、説教のような話を続けた。
「キュウリと交換できるくらいの物だと思っていたのなら、それはおまえの大きな勘違いだ。うぬぼれるなよ人間。俺は人間のそういう傲慢なところが嫌いなんだよ。自分たちで勝手に価値を決めて、その価値を他人に無理やり強要する。真の価値に目を背け、偽物の価値を盲信する愚か者が。帰れ」
そう言うと、気を悪くした様子の河童は「河童の川流れ」と呟き、上流の方へと泳いで行った。私はいわゆる「河童の二度手間」状態で、急に流れの速くなった川を必死に泳いで元の場所へと戻ったが、そこにはもう河童の姿はなかった。
くそ、逃げられた。でも、まぁいい。次の作戦を決行するまでよ。実はもう、次の作戦を考えてあるのよ。名付けて『地引網作戦』こうご期待!




