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記憶2

大変遅くなってすみません!!

久しぶりなので文もびっみょーでございますがお付き合いくださいませ!!

 「大丈夫ですか……?!」


 慌てて倒れている女性のそばに駆け寄り、抱き起こす。

 酷く体が冷たい。もしかして、もう、死んでいるのだろうか。

 一気に血の気が失せて、冷たい恐怖が這い上がってくる。嘘だ。死んではいけない。

 私はまだ生きていると信じて体をゆすった。


 「大丈夫ですか!しっかりして下さい!」


 ゆすった事で、彼女の顔を隠していた長い三つ編みが肩から流れる。するとそこから見覚えのある真っ白な肌と繊細な顔立ちが現れた。


 「って、貴方さっきの……」


 倒れていた女性は、先程助けてくれた、雪女だった。

 なるほど、だから冷たかったのか、と、納得して胸をなでおろす。

 とは言え、安心できた訳ではない、安全な状態かどうかはわからないのだから。


 「んん…」


 雪女が小さく唸り声を上げる。

 呼吸が浅く、顔も赤い。

 何かの病気なのだろうか。


 「こういう時は…救急車!でも、妖怪だから違うわよね…。隠世ってこういう時どうするのかしら」


 早くしないと雪女が死んでしまうかもしれない。私は焦るあまりたじろいでキョロキョロと辺りを見回した。

 だが、突然冷たい何かが頬に触れてびくりとする。

 雪女が私の頬に掌を添えていたのだ。慌ててその手に自分の手を重ねて雪女を見つめる。すると彼女の唇が薄く開いた。

 

 「み、水……」


 雪女は消え入りそうな声でそう言うと、その手が力なく落ちた。


 「え、え?水?」








 

 「母さん…!母さん…!」


 どこかで自分を呼ぶ声がする。

 自分が愛してやまない。愛おしい子の声が。

 

 ぼんやりと浮かぶ我が子の後ろ姿。

 彼女はその背中に向かって手を伸ばす。


 だが、追いかけても追いかけても、息子の姿はどんどん遠ざかっていった。

 白く靄のかかった視界。そこに降り注ぐ桜の花弁。どんどんと小さくなっていく我が子の背中。


 待って──。


 そう叫んだと同時に目が覚めた。






 *






 「あ、良かった。目が覚めて…!大丈夫…?魘されていたみたいだったけど」


 見知らぬ天井。

 全身が重だるく、熱い。

 身体を動かすことすらままならない。

 ぼんやりと視界が滲んで見えるのは、この熱さのせいなのか、それとも夢のせいなのか。目に浮かんだ涙が原因らしく、雪女は指先で目元を擦った。


 「ここは……?」


 「ここはこの妖怪の家よ。貴方が集落の外れの道端に倒れてたから、取り敢えず運んできたの」


 そう言っては彼女は、隣に座る青年を指差す。


 「ただの夏風邪だな、寝ていれば治るであろう」


 いつの間に測ったのか、手には体温計を持った青年は、まるで医師が診断を下したかの様な説得感のある言葉でそう言う。


 その言葉を聞いて、ああ、またか。と思う。

 最近は、こういった理由で倒れることが多くなった。妖である自分が、あろうことか、暑さに負けて倒れるなど、これでは他の妖に顔向けができない。


 「大丈夫でありんす…。世話をかけんしたなぁ」


 重たい身体を起こしあげると、頭に乗せてあったらしい氷袋が布団の上に落ちた。


 「ああ、いいからいいから!無理しないで」


 そう言って自分の背中に手を添えた彼女の顔を見る。

 毛先にかけて緩くウェーブした艶のある栗色の髪に、くっきりとした二重。加えて強い意志の感じられる赤い瞳。端的に言ってべっぴんさん、な彼女の顔は見覚えがあった。


 「お主、昼間の……」


 「あ、そうよ。私は花沢栞。昼間は助けてくれてありがとう」


 そう言って彼女、栞は笑う。まるで花が咲いたような、若々しくて明るい笑顔。

 そう、彼女は、昼間集落の通りで妖に食われそうになっているところを助けた、人間の少女だったのだ。





 「なんだか見覚えがあると思っていたら……、そういうことでありんしたか」


 雪女は納得したように頷くと、熱のせいで紅く染まった頬を緩ませて笑みを浮かべた。


 「ええ、だからこれは恩返しみたいなものよ。気にしないでゆっくりしていってね」


 「自分の家の様な言い草だが、お主、我の家ということを忘れておらんか。別に構わないが」


 みずははこう言うが、この家は何故か我が家のような安心感がある。妖怪の家なのにおかしな話だけれど。


 「あ、そうだ!暫く私もこの家に泊まらせて貰っていい?ほら、部屋沢山余ってるみたいだし!」


 流石に妖と言えども、熱中症で伏せっている雪女を、一応列記とした男のみずはの家に置き去りにするのは気が引ける。


 「別に構わんが、家のものにはどう説明するのだ?」


 「友達の家に泊まるって伝えとくわ。まぁ、間違ってないし」


 そうして、今日から数日、私はみずはの家に住むことになった。







 燦燦と降り注ぐ太陽の元、私は庭に立つ物干し竿に洗濯物を干していた。春の穏やかな風に乗せられてやってくる、夏の息吹を感じる生暖かい温度に、汗が頬を伝う。


 「これだけ暑ければ雪女も倒れるわよね…」


 昨日倒れた雪女はまだ部屋で寝ている。ああやってこの暑さが原因で苦しむ者を目の当たりにすると、やはりつらいものだ。なぜなら地球温暖化を進めているのは他でもない私達人間なのだから。

 胸のどこかを針でチクリと刺されたような気がして、眉尾を下げる。


 「後で氷袋替えに行かなくちゃ……」


 彼女は昨日私を妖達の手から守ってくれた。その恩はきちんと返さなければ。

 洗濯物をすべて干し終え、洗濯籠をもつ。


 「あれ……?」


 ふと視線を上げたときに、視界の端に白い人影が写った。

 見覚えのある白い着物に、真っ白な長い髪。あれは、雪女?

 気になって、持っていた洗濯籠を縁側に置くと、後をつけてみる。

 私は、建物の陰から、そっと顔を出しすと先程の雪女らしき人影を探した。

 

 「あ」


 思った通り、みずはの家の道を壁に手をつきながら歩いていく見覚えのある女性。間違いなく雪女だ。もう動けるようになったのか。妖の回復力って凄まじいのね……。

 でも、壁に手をついて歩いているところをみるに、完全に回復したわけではないのかもしれない。

 今日はとても暑いのに、あんな体で外に出て大丈夫なのだろうか。いや、大丈夫なわけがない。また外で倒れでもしたら大変だ。

 

 「でも、どうして私たちに何も言わずに出ていったのかしら」


 可笑しい。本来ならば一言声をかけると思うのだが、何か、私たちに知られてはならない用でもあるのだろうか。


 「ヌシ何をしておるのだこんなところで」


 「うわぁっ!みずは!?」


 驚きのあまり、思わず大きな声を出してしまい、まずい、と慌ててみずはの背中を押して建物の陰に隠れる。

 声に反応して振り返っただろう雪女には恐らく見られてないだろう。恐らく。


 「なんだ、ストーカーというやつかヌシ」


 私が何をしていたのかは、私の視線をたどって察したらしい。みずはは私になんとも言えない、冷え切った目で私を見下ろす。なんと冷たい視線だろう。


 「そんな引き気味な目で見ないでくれる?失礼よ。雪女が出て行っちゃったから後をつけてるの」


 そうだ。私は雪女がどこに行くのか知りたいだけだ。ただそれだけ。そんじょそこらのストーカーと一緒にしないでもらいたい。後をつけてるのは事実だけれど。これはストーカじゃなくて尾行なのだ。そう、尾行!


 「何故そうコソコソと……、声をかければいいではないか」


 みずはのもっともな提案に、私は困ったような視線を返す。


 「私たちに外出を知られたくないから、黙って出ていったんでしょう。ならつけるしかない」


 「妖のすることにすべて意味があると考えてはならぬ。徘徊するのが好きな妖もおろう」


 「そんな認知症のおばあちゃんみたいな……」


 「なんであれ、どうせロクな理由ではない。ヌシもしや取って食われたいのか。そういう趣味ならばしかたあるまいな」


 「どんな趣味よ!ていうか、別に帰ってくれてもいいんだけど?」


 そうだ、そうだ。みずはが私のやることに首を突っ込む必要はない。

 帰りたければ帰ればいい。というかどうしてついてくるのか。私はみずはを呼んだわけでもなければ、一緒に来てくれといったわけでもない。

 そんな私の考えをよそに、彼はきょとんとして首を傾けると、ふっと吹き出して高らかに笑った。


 「何を言う。面白そうだからついてきたに決まっておろう。何をしておる見失ってしまうぞ」


 なぜかノリノリなみずは。え、なに?なんでこの人私よりノリノリなの?


 「ちょ、待ってよ!」


 みずはは足早に歩きだし、私を置いて先に歩いて行ってしまうので、私もあわてて後を追いかけた。


お付き合いありがとうございました!!

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