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記憶1

かなり時間が空いてしまいましたが11話です!

新しい妖怪が出てきます!よろしくお願いします!

 今日もいい天気だ。

 青々と晴れ渡った空に、桜の木が良く映えている。

 

 私は、みずはに借りたハンカチを返すために、彼と初めて出会った緑地を訪れていた。


 桜も満開の季節を迎え、ちらほらと花見に来ている人を見かける。


 私も家族と花見をしに来ようかな。

 そんなことを考えながら、みずはと出会ったあの橋の前まで来た。


 今日は此処にはいないのか。だとすると隠世の方?

 私は首を傾けて、辺りを散策し始めた。

 大きく枝葉を伸ばす木々が立ち並ぶ山道を進む。


 そういえば、隠世にはどうやって行けばいいのだろう。

 以前は、みずはが隠世まで運んでくれたようなので行きかたなど一切わからない。のだが……ふと、ある場所に違和感を感じた。


 そこは何の変哲もない、木と木の間。なのになぜだろう。とてつもなく違和感があるように感じてしまうのは。


 まるで、青一色で統一されたパズルの中に、1つだけ、黄色いピースがあるかのように。


 私は吸い込まれる様に、その木と木の間を通る。


 すると、思った通り景色は一変。


 色鮮やかで華やかな和風の建物が立ち並び、多くの"人でないもの"が行き交う大きな道に、私はいつの間にか立っていた。


 後ろを振り返ってみても、さっきまで歩いていた道はどこにもない。


 前に訪れた時と同じように賑わいを見せるこの場所は、人ならざる者たちの都。現世の向こう側の世界。「隠世」である。


 「意外と簡単に入ってこられるのね……」


 意外と簡単に入ってこれたことに驚きを隠せず、辺りをキョロキョロと見回す。

 みずはの家はどっちだっただろうか。

 下手に歩いて迷ったら困るので、気の向くままに歩き出す気にもなれなかった。


 すると、突然。

 十字路の真ん中で、あごに手をやりながら唸っていた私の目の前に大きな影が2つ、私の行く先を阻むように立ったのがわかった。

 

 「ええ……?」


 「人間の娘だ。こんなところに珍しい」


 「家に持ち帰って鍋にしやしょうぜ」


 血の気が引くような会話を聞きながら、おずおずと見上げてみれば、大きな体に巨大な瞳を一つ持つの妖怪と、のっぺらぼうの様に目と鼻はないが、大きな口を持つ妖怪が私を見下ろしていた。

 一つ目の妖怪は、野性的な目を光らせ。

 のっぺらぼうの様な妖怪は大きな牙を覗かせた口からヨダレを垂らしている。

 両者共々2メートルは超えていると思われる巨体の大きな手が、私に向かって伸ばされた。


 牛鬼退治の一件から少しばかり妖怪に対しての恐怖心が薄れていた私は、返り討ちにしてやろうかとも思ったが、何故だろう。身体が動かない。


 勿論多少の恐怖もあったがそれだけが原因ではないらしい。


 何故か、その妖怪の大きな一つ目から目が逸らせない。まるでその大きな瞳に捕えられたように、私は指一本だって動かせなくなっていた。


 私の額を、嫌な汗が伝う。


 まずい。もうダメだ。そう思って目を瞑った時に後から透き通るような声がした。

 

 「やめなんし」


 その妖怪の視線が私から声の主に移され、やっと自由になった身体で私も振り返る。


 そこには、真っ白な着物を身に纏う美しい女性が立っていた。全身に冷たい空気を纏う彼女は、私でもよく知っている妖怪によく似ている。


 「雪女…」


 「陰陽師に目をつけられたらどうするので?」


 やはり雪女なのか。

 雪女と呼ばれた彼女は私と妖怪達の間に割って入る。


 「雪女」は、確か雪山や東北辺りと比較的寒い土地に住む妖怪だったはずだが、こんな暖かい土地にまでいるとは思わなかった。


 人間に一つ息を吹きかければ相手を凍死させることが出来ると言われる雪女。妖怪のことなどよく知らない私でもよく知っている有名な雪の妖怪。そんな彼女は、妖怪の中でもそれなりに力のある妖怪のようだ。私を食べようとしていた妖怪達の顔色が真っ青になっている。


 雪のような白い肌に、柔らかな日差しを反射させる白銀の髪は、一つのゆるい三つ編みに結われて右肩に流されている。

 薄い紅のさした口元が三日月型になる。

 

 「あまり面倒ごとは好きではありんせん…。持ち込まんように気をつけなんし…」


 澄み渡った水の色をした瞳がすっと細まる。妖艶な笑を浮かべた彼女の覇気に、一瞬で妖怪達が怯んだ。

 額に汗を浮かべて後ずさり、あっという間にどこかへ逃げ去ってしまう。


 まさか逃げるだなんて、そんなに怖いのだろうか、雪女という妖怪は。と、私は少し警戒したが、逃げ去って行った妖怪達を見送ると、私を振り返り、柔らかく微笑んで見せた。


 「怪我はありんせんか?」


 暫く固まっていた、私は、慌てて返事をする。


 「あ、はい……大丈夫です。」


 「人の子がこんな所をうろつくと危ないでありんすよ。あ、そうだ……これを付けておくと人間とバレないのであげんしょう。」


 そう言って彼女は私に狐の面を付けてくれた。

 本来ならば、こんなもので隠せるのかと疑いたくなるだろうが、雪女である彼女の言うことにはヤケに説得力があった。なんの疑いもなく信じて頷いてしまう。


 「ありがとうございます」


 彼女は口角を上げて微笑むと、軽く会釈してその場を去っていった。




 「ってことがあったのよー」


 「ほう、雪女か」


 私はなんとかみずはの家に辿り着き、一本桜の木が植えられた庭を眺めていた。

 縁側に腰掛けた私の膝には、以前倒した女の子の方の牛鬼が、当たり前のように私の膝の上に座って、ご機嫌な様子で足をプラプラとさせている。

 そこへ、ずるい僕もと寄ってきた男の子の方の牛鬼が私の袖を引く。


 「あー…こらこら、二人は無理だってば」


 と言っているにも関わらず、男の子の方は強引に座ろうとして、女の子の方たまた、少し寄って座れるだけの隙間を作ると二人仲良く私の膝に座って鼻歌を歌い始めた。


 二人の可愛らしさに、自然と表情が柔らかくなるが……そろそろ足が痺れてきたので降りてほしい……。


  「しかし、迷っているにも関わらず道を聞くのを忘れるとはなぁ。ヌシもぼーっとし過ぎであろう」


 「仕方ないでしょ、突然だったんだもん。道に迷っていた事なんてすっとんじゃってたわ」


 みずはが、おぼんに茶菓子と昆布茶を乗せて持ってくる。

 直ぐに私は、いただきます!の声と共に、茶菓子のおまんじゅうを口に運んだ。とろけるような上品な甘さが口いっぱいに広がる。そんな至福のひとときに顔が綻んだのが自分でもわかった。


 「しかしヌシはよく食うな、まるで豚のよう……ぐほっ!?」


 「みずはの家のお菓子ってどれも美味しいんだもの、どこで買ってるの?」


 溝落に肘打ちを食らい、蹲る(うずくま)みずはに尋ねる。


 「集落の外れにある和菓子屋だが……、先程からヌシが阿呆みたいに食べ続けておるからもうないぞ。なんだ買いに行ってくれるのか、そうかそうか」


 「まぁ、別にいいけど、食べすぎたのは本当だし……行くわよ。ちょっと運動してカロリー消費してくるわ」


 「まさか本当に行くと言い出すとは……、明日は雨だな」


 「失礼ね、私にだって優しさくらいあるのよ?」


 それに運動自体は嫌いではない。寧ろ好きな方だ。

 学校の授業の中でも体育が一番好きである。

 その代わり座学は苦手なのだが。


 雪女から貰った面を斜めに被る。

 牛鬼達も行きたいというので、道案内も兼ねて連れていくことにした。


 「気をつけて」と玄関から手を振るみずは。

 なんだかお母さんの様だ。こういう時だけ。

 

 私は頷くと、牛鬼二人と手を繋ぎ、みずはの家を出て、和菓子屋のある集落の外れを目指して歩き始めた。






 「ん〜!やっぱりあの店の食べ物は尋常じゃないくらい美味しいわね〜」


 「「おいしいー」」


 牛鬼二人の声が重なる。

 無事買い物を済ませた私達は、そのお店でおうばん焼きを買って頬張っていた。


 外はふんわりと柔らかく、中にはアツアツの餡。

 一口食べれば、アツアツで濃厚な餡が外の柔らかい生地を包み込む幸せの味。


 「あれ?」


 「どうしたの?牛鬼の男の子の方」


 突然、牛鬼の男の子の方が声を上げた。

 そう言えば、この子達に名前はないのだろうか。呼びづらくて仕方がない。私は今更そんなことを思いながら牛鬼の男の子に尋ねる。


 すると、彼が道の先を指さした。

 

 「ん……?」


 彼が指さした方を見る。

 蝶々でも見つけたのだろうか、と微笑ましい気持ちになっていた私は、目の前の光景に思わず絶句した。


 桜が満開になった並木道の先で、白銀の髪をした女性が道の真ん中に力なく倒れていたのだ。

今回は冬の定番の妖怪、雪女を出してみました!

ずっと出したいと思っていたのですが、なかなか出せないでいたので、やっと出せてほっとしています!

次の話もなるべく早くあげられるように頑張りますので、よろしくお願いします!

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