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足跡7

よろしくお願いします!

 「未來も無事みたいね、良かった」

 友人に怪我が無いことを確認して肩の力が抜ける。

 未來はみずはと一緒とは分かっていたが、みずはは自分で、戦闘はできないと以前話していたので、私は心配でならなかった。だが、幸い二人とも大きな怪我はないようで本当に安心した。


 そっと胸をなで下ろし、ほっと安堵の息をついたのもつかの間。急に辺りの景色が真っ白な光の泡となって、ゆっくりと消え始めた。


 「今度は何…?!」


 「牛鬼のはった結界が消えていっておるのだろう。そう犬のように騒ぐでない」


 みずはは私にそう言ってから、徐に懐から小さな小瓶を取り出したかと思うと、急に私の頭にぶっかけた。


 「ぶわぁ…?!」


 頭から肩の辺りにかけてびっしょり濡れる。


 「その姿のまま外を出歩く気か、ヌシ。鬼のままでは困るだろう」


 「だからってぶっかける事ないでしょ?! もう、びしょ濡れじゃない」


 指先で濡れた髪を人房取る、その髪はもう赤みがかってはいなかった。


 「我の作ったその水は、流暢に飲むよりもかけたほうが早いのでな」


 即効性に関してはどんな薬にも負けん。と胸を張るみずはは、相変わらず女子力の高いようで何故か持っていたハンカチを私の頭に被せて犬の頭でも撫でるかのように乱雑に拭いた。


 「うわっ、もうそんな拭き方ない、自分で出来る……!」


 そうこうやっているうちに周りの景色が一変。気がついた時には、辺りの景色が、深い森の中から、見慣れた学校の校庭に変わっていた。


 帰ってこられた事にホッとするが、それと同時に体の力が抜けて座り込む。


 「よかった……。ちゃんと帰ってこられたみたいね」


 安心して張っていた気を緩めたせいか、今まで体に掛かっていた負担が一気にのしかかった様な気になり、急にドッと疲れた気がする。


 「あれ……?」

 

 そしてふと視線をあげた先に、小さなふたつの影が写った。私は奇怪な者でも見たかのような顔になる。


 「子供……?」


 そう、視線の先には、見慣れない少年と少女が校庭のど真ん中で、背中合わせにして座り込んでいたのだ。勿論うちの高校にこんな小さな生徒はいない。見たところ、小学校低学年といったところだろうか。


 少年は頭に出来た大きなたんこぶを押さえ、少女は背中が痛いのか摩っている。


 二人とも年齢は6~7歳くらいと幼く、少年は黒地に白で一松文様が施されている甚平姿。

 少女は白地に淡い花模様があしらわれている丈が膝までしかない短い浴衣を着ていた。


 「何でこんなところに子供が……」


 「あれが今回の元凶の牛鬼だ」


 みずはの言葉に驚きのあまりぽかんと口が開く。そしてやっと我に返ると、信じられない事実に、二人の幼児を指さしながら慌てふためく。


 「え!?あれが!?」


 どう見たって年端もいかないただの人間の子供だ。私はにわかに信じ難い事実に、眉を寄せて、みずはの言ったことが本当か確認すべく、二人のそばまでいき、少年と少女の顔をよくよく見てみた。すると両者共々小さいながらも、頭に、私のものとよく似た、白く小さな角を持っていることに気がついた。


 少年と少女は、私を見ると、まるで悪魔でも見るかのように酷く怯えて涙目になりながら見つめてくる。


 「ごめんなさい」


 「もうしないから食べないで」


 食べないでって、食べるわけないでしょう。

 

 「食べないわよ」


 「ひぃっ」


 話しただけで「ひぃっ」って。人をなんだと思っているのか。

 ともあれ、確かに、この子達を痛い目に合わせたのは私だから弁解の余地はない。だが、だとしても、そんな目で見なくても良いではないか。と、私は密かに傷ついた。

 少年と少女は、誰が聞いた訳でもないのに、このような事をした理由を話し始めた。


 「ここから良い匂いがしたから来た」


 「初めて人に見つけて貰えて、うれしかった」


 「遊んでほしかった」


 「遊んでくれて嬉しかった」


 「あと、にんげん、おいしそうに見えた」


 「お腹すいただけ、ごめんなさいー」


 少年と少女が交互に話す。「良い匂いがした」というのは、恐らく私のことだろうか。なんだか双子のようなこの少年と少女は命乞いをするように指を組んで、うるうると瞳を潤ませながらこちらを見つめてくる。


 「その目はやめなさい……。そんな顔されたら怒れないじゃないの」


 二人の目を、掌で覆うが、結局根負けして、許してしまう。こんな私は甘いのか。下手をすれば殺されていたかもしれない相手なのにね。とは思うが、こんなにも幼い姿を取られては怒るに怒れない。


 「わかったから、もうあんな遊び方しないのよ」


 「許してくれるの?人間」


 「ええ、でも次やったらこうよ」


 その辺の石を拾い上げ、角砂糖のように潰してみせる。本当に凄い怪力だ。我ながら恐い。


 「ニンゲンこわい」


 「もうしない」


 少年と少女はビクリと肩を震わせて、お互いの手を握ると身を寄せ合って震え出す。

 何処ぞのチンピラの様な脅し方だが、強さ基準の力関係がハッキリしているらしい妖怪にはこれが一番効果的だろう。


 「取り敢えず、そやつらは我が隠世につれていこう。隠世ならば多少暴れても人間に危害が加わることはなかろう」


 みずは意外な申し出に、私は頬を緩めて微笑んだ。


 「いいの?ありがとう、お願いするわ」


 「河童優しいー」


 ぷっつり、何かが切れた音がして、みずはの中のなにかのスイッチが入る。


 「誰が河童か、どこからどう見てあのような生物ではなかろう!」


 生物、とは酷い言われようで、河童が可愛そうになってくる。

 みずはの反論に牛鬼二人はきょとんとして首を傾ける。


 「でも、この妖力の感じは川に住んでる妖怪」


 「やっぱり河童」


 妖怪の子供でも、どのような力を持つ妖怪かくらいはわかるのか。と、私は密かに驚いていた。みずはは抱えていた未來を私に預けながら乾いた笑を零す。


 「まだまだ見る目がないようだな童!我は魍魎だ!あんな田舎者と一緒にするでない!」


 いつだったか聞いたことのある言葉を聞き流しながら、私は未來をおぶった。

 力加減に気をつけて。出来るだけ最低限の力で。


 妖怪としての名前を名乗っても、河童河童とからかわれているみずはと、その反応を楽しんでいるらしい牛鬼二人を他所に、私は未來をおぶったまま正門に向かう。


 「ほら、早く帰るわよー」


 何はともあれ、未來が無事で良かった。

 私がこんな体質になって居なければ、未來を危険な目に合わせることも無かったのに、と気分は落ち込むが、この体質のお陰で、今回のように助けられなかったものが助けられるようになるかもしれない。所謂プラマイゼロというやつだ。


 早く未來を送り届けよう。彼女を待つ現世の人々の所へ。




 

 *




 月明かりに照らされた校舎の屋上に人影が2つ。月明かりで出来た影のせいで顔はよく見えない。


 「また面白そうな奴が出てきたものだな」


 二つの影の一方。美しい琥珀色の髪が腰まである女性は、頭に付いた狐のものと思わしき大きな三角の耳を軽く動かしながら正門に向かう栞達を眺めていた。

 女性なのにも関わらず、まるで青年のような言葉遣いが印象的な彼女は、隣で栞達を眺めている青年に、やや楽しそうにそう言う。


 「何言ってるんですか。厄介事が増えるかも知れないんですよ。陽気なもんですね。呆れました」


 もう一方の影、黒く艶のある髪は緩くカールし、頭に猫のものと思われる耳を持つ青年はやれやれと首を横に振る。


 すると校舎の屋上を、冷たい風が流れていった。その風に、女性の琥珀色の髪が靡く。


 春とは言えども夜は冷える。その冷えた風に思わず、すっかり色あせた赤いマフラーに口元を埋めた女性を見かねて、青年が女性の手首を取った。


 「ほら、そろそろ帰りますよ」


 「はいはい」


 青年にそう言われて口角を上げた女性は頷く。


 その後、風が一風吹き抜けて、校庭の桜の花びらが舞散ったかと思うと、いつの間にやら二人つの影は忽然と姿を消していた。

読んでいただきありがとうございます!

次は同時連載のアラヒトガミをあげる予定ですが、早く終わらせて、こっちも早めにあげられるように頑張ります!

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