そしてマラトンへ
一応これでアーシアの改革の分のリライトは終了です。
戦記のリライトはまだ未定です。
何しろデマラトスの立ち位置とかどうするか決まってないもので……
新作のほうに手をかけたい気分ではあります。
海路ピレウスに向かったボクらは3層櫂船の優速と風に恵まれたこと、メガラ湾からエレフィシナ湾という周囲を陸に囲まれた海で迷うことがなかったのが幸いして、夜明けに抜錨した船は夕闇直前に港に滑り込むことが出来た。
陸路の軍勢は明後日に到着予定なので二日ほど自由に動く時間を得ることが出来た。
すぐにボートで上陸し貿易市場横のミルティアデス邸を目指す。
幸いミルティアデスは在宅だったので前置きもそこそこに今後のことについて相談を始める。
「それでアーシアはどういう立場になったんだ?」
「スパルタの王族で連隊指揮権をもらったので副王のような立場になります」
「一気に出世したな。で今後はどうするつもりだ。」
「ラムヌースに対ペルシアの抵抗拠点を築こうと思っています。」
ラムヌースは現時点ではネメシス神殿もテミス神殿も建設されていない。
神殿はペルシア戦争の勝利を祝って作られたようだ。
今の段階では海際まで山を背負った台地と隣接する小さな砂浜が特徴の漁村に過ぎない。
おかげで神域を通常地にする面倒な作業は省くことが出来た。
神域で血を流すことはヘレネス最大のタブー、敵が攻めてきたら石造りの神殿に籠って迎撃なんていうことは出来ない。
面倒ではあるが戦争用の要塞は神殿とはまったく別の施設にしなくてはいけない。
砂浜と隣接した岩場を使って海賊用の港、海沿いの台場の上には要塞を、そこから500mほど尾根沿いに進んだ場所に小さな要塞、そこから300mほど山に入ったところに山塞をつくり、溝状の道でつなぐことで強固な防衛力を持たせ、アッティカ半島を横断してアテナイに背後から襲い掛かることを防止する計画である。
「ラムヌースはマラトンの北西10kmの地点です。ここに防衛拠点兼海賊基地を使ってペルシアを攻撃します。」
ボクの言葉にミルティアデスさんはちょっと怪訝な顔をした。
「襲ってくるまで2年ないだろう?要塞建設が間に合うのかい?」
「ええ、そこでちょっとご協力を、お願いに」
お願いの内容は2点、建材の提供と石工の手配である。
建材は新しい石材の切り出しもあるが、古くなって捨てられた建造物とか廃ポリスとかから移動させたい。
アテナイの周りには小ポリスの跡がたくさんある。
ここから石を運び出したい。
あとは石の加工である。
人足は今回スパルタから出てくるヘイロイタイ6000人を流用させてもらうことで運ぶのと積み上げるのは何とかなる。
ただスパルタで石工はぺリオイコイに所属しているため戦士の業務が優先になってしまう。
そこでアテナイから石工を派遣してもらえるようにお願いである。
テミストクレスにも翌日お願いして貴族と民会の両方から協力を得ることが出来るようにした。
次に会うのはヘラクレイトスとクレイステネスのアルクメオン家コンビである。
建設に入っても6000人を食わせられるのかという問題はついて回るが、そこで、これについてはアルクメオン家と契約を結んで供給してもらうことにする。(もちろん代金は海賊で払います)
あとアポロン誓紙の売り込みも行いました。
「うまくいけばバルバロイやリヴィアとも交易できそうだな」
ということでヘラクレイトスさんは上機嫌だったがクレイステネスさんは微妙に悩んだ顔をしていた。
「もう少し戦闘用の船がないとカツカツになりそうだな……」
結構、痛いところを突いてきた早晩軍艦を手に入れないと、アポロン誓紙の懲罰部隊の派遣と海賊業の両立が難しい。
「よし、アーシア先行投資だ、3隻ほど見繕ってやる。あとは現地で作れ」
3隻?3タラントン=18000ドラクマを投資してくれるのか。ありがたいけどあとは現地で作れってどういうことだ。
「お前さんもアイギナ懲罰に行くんだろう。そこで造船所や船大工を一式ラムヌースに移住させてしまえ。」
アイギナがペルシアに裏切って怖いのは陸軍ではなく海軍による妨害だそうである。
それで今回スパルタがアイギナの造船業を根こそぎ移住させてくれるならアテナイにとっては海の敵が減る分ありがたいという判断になるらしい。
やることは山のように溜まっている。
流通、通信網の確立、契約に伴う法整備、ヘイロイタイの人権向上、そして対ペルシア帝国戦争、
おそらくだがヘレネス単独で戦っても最後には力負けしそうなほど広い版図だ。
リヴィアやエジプトをうまく扇動して内乱を拡大しないと、アレクサンダー大王でもいないとどうにもならないだろう。
ボクは自分の出来ることを一歩一歩進めていくだけ……
マラトンの地は緩やかな平原が連なり、騎兵の運用に適した地形が広がる。
ペルシア軍がこの地に2万の兵を上陸させたのはBC490年4月7日、ボク達がラムヌースでこの日に向け全力を尽くしてきた結果が今、始まる。
「さあ十字軍を先頭に突っ込もうじゃないか。」