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長老会

 劇場に向かう道すがら二人の王から「王家」と「王族」の違いについて簡単な説明を受けた。

 「簡単に言えば軍司令官ポレマルクへの命令権を持っているかどうかだけだな。」

 クレオメネス王が単純明快に教えてくれる。

 王族というのは血縁であって、能力が証明されていない状態。王家とは軍司令官を使うことが出来ると判断された者ということになる。

 「通常なら武、政共に功績を収めないと王家とは認められないのだが、アーシアに関しては特殊な事例だな。王家にしないほうがデメリットが発生すると我々が判断したといっていい」

 デマラトス王が言葉をつづける。

 「王家はそれぞれ専属の軍司令官と師団を率いる権利を有することになる。アーシアも一人選んでもらう。」

 クレオメネス王が爆弾を放り込んできた。

 軍司令官ってスパルタに6人しかいないはずでは……1師団モーラといえば約1000人

 全兵力が6千人(通常時)のスパルタでは15%以上の兵力を預かることになる。


 「国の政は長老会が主催する民会で決定する。基本的に王はその執行機関にすぎない」

 「よって、お前が王家として認められるかは、これからの長老会との話し合いの結果次第になる」

 クレオメネス王の言葉をデマラトス王が締めくくった。


 長老会というとどういう雰囲気を想像するだろうか。

 老人ホームのホンワカとした感じやせいぜい国会ぐらいだろう。

 ボクが目にしたのはドコゾの組の事務所ですか?という感じに強面でガタイのいい老人が劇場最前列に座っている姿でした。

 考えてみれば当たり前なんだが60才まで兵役を務めたことが長老会の条件。

 そりゃあ、強面でガタイのいい連中が残るわな……正直何人殺したか分からない連中が威圧感を放って眼前にいるのである。正に狼の前の兎の気分。

 そんな雰囲気の中、クレオメネス王が話はじめた。


 「いと気高きラダケイモンの戦士たちに、国の行く末を問う。ここに連れたるはデルフォイの巫女にしてエウリュポン王家の出身、アポロンより名を賜いしアーシア・キリスト・テゥである。アポロンの預言をこの地まで運んできた。」


 クレオメネス王が小さく手を振った。ボクの番か。

 「アポロンより受けた神託をデルフォイから届けに参りました。今回の仕儀は、まことに異例ながら、内容があまりに重大ゆえ神託を受けたもの自らが王の元へ届けるよう、我が神から命ぜられ、この地に参上いたしました。」

老人達の顔に驚愕が浮かんだ。

 「デマラトス王の父はアリストン王にあらず、ラコーニアに降りた神、アストラバコスである。アストラバコスはアリストン王に変化することでデマラトスを彼の母に身篭らせた。デマラトスはエウリュポン王家を抜け、半神たる身をもって戦士団長としてアポロン戦士団を設立しヘレネスに秩序をもたらせ。アギス家はこれを支援するべし」


 その宣言を聞いた瞬間に老人達に浮かんだのは羨望と希望というものだった。

 早い話が自分らもアポロン戦士団で一緒に暴れまわりたいという望みが透けて見えた。

 「余とクレオメネスはこれを受けた。アポロンの望みであれば否応もない。」

デマラトスが宣言した。

 「長老会にはこの了承と次代のエウリュポン王家の王の選定、ならびにアーシアの王家昇格の審議を行ってほしい。」

 長老会の中からドヨッとしたざわめきが起こる。

 とはいえスパルタンだ。その後に騒ぐような人間はいない。

 

 中央の老人が立ち上がると

 「王よ。明日、結果を伝える。」


 それだけで、解散になった。

 「アーシア、長老達に一言」

 デマラトス王が促してきた。決意表明みたいなものだろうか?

 

 「ラダケイモンの長たる長老達に、アーシア・キリスト・テゥが願い奉ります。王家への昇格承られた後には、数名、長老のご足労を頂き、戦場での現場指南をお願いしたいと考えます。」


 その言葉を聞くと長老達の雰囲気が一気に和んだ。

 ボクの宣言は長老への尊重と戦場への復帰を打診したものである。

 これで一気に和むあたりがスパルタンというべきか……


 「了解した。それも明日、民会で定める。」

 長老の言葉で王達の顔ににやりとした笑みが浮かんだ。


 「では失礼します。」

 二人の王はこれだけできびすを返して劇場を去ろうとしていた。

 慌ててボクも後を追う。


 劇場から出ると二人の王は足早に王宮のほうに向かっていた。

 すぐに護衛役の戦士たちとボクの奴隷達が周りを取り囲む。

 そうやって周囲を固められながら、踏み固められた通りを歩いていく。

 その中、ククク……と抑えきれないように、笑い声が漏れているのはデマラトス王だ。


 「アーシアよくやった。お前は狼の前に肉をぶら下げたぞ。」

 クレオメネス王はこちらを振り向いてそう言うなり通りの真ん中で大笑いを始めた。

 

 「あの様子なら民会は賛成多数で終わるな。」

 「たしかに」

 デマラトス王の意見にクレオメネス王が頷いた。


 ?


 ボクの不思議そうな顔に気がついたデマラトス王が補足してくれた。

 民会は長老会の提案にYES・NOで答えるだけで、それも長老会がどっちにしたいかは彼らの口調で判断するだけらしい。

 確かに活発な答弁をするドーリア人というのは考えにくい。

 

 朝七時オージェに呼び出しがかかり朝八時アナトーレに民会が始まり、長老会が演説。

 今回はその場に王とボクがいる必要がある。補足でしゃべりたい場合のみ、ボクらも発言して採決。遅くても午前九時ムジカには民会は終わるらしい。


 この手早さ、日本の国会にも見習ってほしいものだね。

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