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王族と神族と

 玉座に座った二人の王は極めて似通っていた。

 共に感じる、長い歴史を纏った硬い彫像のような肉体。

 鷲鼻に落ち窪んだ目、凹凸の激しいドーリア人特有の顔。

 僅かに違うのはキトンの刺繍程度で白髪交じりの茶色の短髪も身長すら似通っていた。

 二人で異なるのは老いの雰囲気である。

 肉体的に張りがあって肉体的に若いであろう王、たぶんデマラトス王だと思うが、こちらのほうがやや人生に倦んだような乾いた老いを体に纏わせていた。

 ボクは二人の王に正対すると意を決して叫んだ。

 「アポロンより受けた神託をデルフォイから届けに参りました。」

 二人の顔に疑問と驚愕が浮かんだ。

 「今回の仕儀は、まことに異例ながら、内容があまりに重大ゆえ神託を受けたもの自らが王の元へ届けるよう、我が神から命ぜられ、御前に参上いたしました。」

 二人の顔から疑問が吹き飛び好奇心が沸き起こっている。当たり前であるアポロン神はポリスの興亡程度では眉一つ動かすことはない。

 自分アポロンの色恋沙汰ではジタバタするが……

 「デマラトス王の父はアリストン王にあらず、ラコーニアに降りた神、アストラバコスである。アストラバコスはアリストン王に変化することでデマラトスを彼の母に身篭らせた」

 ここまで聞いたことで両方の王が納得と歓喜を示すという謎めいた反応を起こした。

 両方の王が自分が行ったデルフォイへの工作がうまくいったと確信したのである。

 「デマラトスはエウリュポン王家を抜け、半神たる身をもって戦士団長としてアポロン戦士団を設立しヘレネスに秩序をもたらせ。アギス家はこれを支援するべし」

 ボクの言葉に二人の間で晴れやかな雰囲気が流れた。

 「アポロンの神託、承った」

 最初に口火を切ったのはデマラトス王である。

 「まことに、アポロンの慧眼よ」

 クレオメネス王もデマラトス王が退位することで国内政治の安定が出来ると微笑んでいる。

 「神々が直接関わる内容とは今回の異例の派遣も納得できるわ」

 デマラトスが言葉を継いだ。


 史実では捏造された神託で王位を追放され、次代の王レゥテュキデスに侮辱されたことでペルシアに亡命し、忠節をたたえられた王がデマラトスである。彼の最後はヘレネスとの戦闘を命じられての自決であったことを思うと、信用にたる人物ではあると思う。彼を陥れた側のレゥテュキデス王が贈賄でスパルタを追放されたことを考えれば、どちらを確保すべきかは自明だろう。

 

 二人の王が目を合わせると玉座より降りて、玉座の後ろにあった隠し扉を開いた。

 そこから伸びる直線の通路ですぐに建物の外に出た。

 (まあ、毎回あんな迷路を王が通るわけはないか)

 外に出た場所にあったのはスパルタ兵の詰所らしかった。

 数名の明らかに高位の兵士が詰めていた。

 クレオメネス王が声をかけた。

 「アーシア・キリスト・テゥはその血と行いによりスパルタ王家の一員として認められた。以後はこの通路を利用する権利を有する。覚えておくように。」

 ?

 「パリストンもまだ通行を認められてないのでな、通路の存在は秘密としておくように」

 デマラトス王が注意してきた。

 「つまりはだ、次代のエウリュポン王家の政治に掣肘を付けられる立場になったということだ。」

 今度はボクが驚愕する羽目になった。

 まさか王族に認められるとは思ったこともなかった。

 デマラトス王はニタニタした笑いを浮かべると

 「それにしてもあの妖怪連中げんろういんとアーシアがどう渡り合うか、今から楽しみだわい」

 

 ボクが元老院との交渉するの決定事項ですか、そうですか、まあ、あきらめましょう。

 「アポロン戦士団の資金はなんとかしますので、戦士達は頼みますよ。」

 「ああ、ナビスも連れて行っていいか?」

 「人材は一任します。」

 ナビスというのは確かデマラトスの息子だったはず。たしか15才じゃなかったかな?

 同い年の少年というのは廻りにいないだけに微妙にうれしい。


 クレオメネス王が伝令を走らせて元老院の召集をかけたようだ。

 「女神一つ分もあれば全員集まるだろう。先に劇場に行って待つぞ」

 

 劇場?途中で見たあのでかい場所か……いけない、みんなを呼びださないと、あれ?でも連れて行ってもいいのかな?

 スパルタに私有の奴隷は存在しないし、奴隷を連れ歩くという概念そのものがないし……

 

 まあ神聖奴隷だから神具を持たせるのに必要とか言えばいいのかな。

 下手に尋ねると否定的な返事が返ってきそうだから、独断専行実績作って押し通すしかないんだろうな。

 なんか胃が痛くなりそうな気がする。

 そう思いながらも、詰所を出ると、入った時の入り口目指し歩き始めた。

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