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スパルタへ

 「殿、こいつらをどうします?」

 爽やかな朝日の中、サンチョが指差したのは巨大な二つの蓑虫だった。

 「普通はどうするんだ?」

 「面倒なので殺して埋めます」

 やっぱりそうなるのか……警察や法律なんて概念ない世界だから当然なんだけども

 正直に言えば殺しても飽き足りないほど怒っている。

 自分が襲われる(性的に)というのが、これほど衝撃的なものだとは思わなかった。

 可能なら生きたまま吊るして、野生動物の餌にしてやりたいほどだ。

 アテナイ近辺なら鉱山用の奴隷に売り払うというのも手なのだが、何しろ遠い。

 ここから、そこまでもって行くのも大変だ。


 「わかった。やれ。」


 なるべく無慈悲に聞こえるように短く命令する。

 ザック・ザックと連れ去れた盗賊の足元に深い穴が掘られていく。


 穴を掘り終わると生きたまま盗賊を頭から放り込むと、土を被せ始めた。

 殺して埋めるんじゃないんだ?

 二人の口には猿轡がかまされているので悲鳴は大きくない。

 コリーダが血が流れるとその臭いで野生動物が寄り易いと教えてくれた。

 普通は殴って意識を失わせてから地面に埋めるのだが、皆怒っているので起こしたまま生き埋めにしていると言われた。

 せめてもの腹いせということか。

 穴を埋め終わると皆が上に乗って土を踏み固めた。

 

 埋葬に若干時間をとられたが、まだ朝といえるうちに出発することが出来た。

 やはり若干興奮が残っていたのだろうか、歩くペースが僅かに速くなっていたらしい。

 昼前には汗が流れ、息が切れてきた。

 ずっと緩やかな登りという地形である。

 道も獣道に近いことを考えれば疲れが溜まるのも早いのは仕方がない。

 だが、エウレリアよりも早く息が上がってきたとなると、余分な力が何処かに入っていたとしか思えない。

 とりあえず適当な木陰で小休止をとった。

 足がプルプルと震えている。

 やはり緊張しすぎで余計な力がかかっていたようだ。

 たぶん緊張の原因は朝の処刑だろう。

 無抵抗の人間を嬲り殺すというのは、相手が悪人でもかなり精神を削ってくる。

 こんなことなら昨日の襲撃時に止めを刺しておけばよかったと後悔することしきりである。



 小休止で1時間くらい過ごしたあと再び登り始めたが、予定より遅れているのは間違い無く、どこか夜営出来そうな場所を探しながら、歩くことになったため余計に歩く速度は落ちていた。

 最悪木の上でと提案したら、ライオンは木に登れるし火が燃やせないのは致命的ですと言われ、日本の夜のイメージは全て捨てることにして彼らに任せることにした。

 

 結局その日は大きな岩の上で寝ることになった。

 下は岩なので毛皮を敷いてもゴツゴツして横になっても体が痛いが、地面で寝ると山蛭やダニに襲われるといわれると反論も出来ない。(オマケにあいつらは病気を媒介してくれる)

 岩の上なので火は燃やせるが若干離した場所におかないと近づく敵に気が付けないという理由から、横になった場所から少し離れた場所で焚き火が置かれている。

 もうすぐ冬になりそうな秋の山中、当然寒い。

 それでもボクは主人ということで毛皮に包まって横にさせられた。

 その上に湯たんぽの代わりにエウレリアが一緒にいる。

 他の3人は横にもならず、武器も放さないまま、毛皮をマントのようにして体を包み、座ったまま休憩している。

 3人が言うには明日までなら楽なものだということで、コリーダはライオン狩りのときには1週間ぶっ続けでこんな感じだといっていた。

 道や宿場が整理されていない土地というのは、人や物の移動がものすごく制限される。

 それを考えるとヘレネスのポリスがほとんど1日以内で隣にいけるのも当たり前なんだなと、星空を見ながら考えさせられた。

 その翌朝、いつの間にかウトウトと眠っていたボクは、夜明け前に全身を襲う筋肉通に耐えながらストレッチをする羽目になっていた。

 見張りの3人は交代で休んだといっているが、横になってないのでほとんど徹夜と変わらないだろう。

 全身の血流を戻すといくらかましな状態になって、やや早めに出発することにした。

 その日は順調に道程を稼ぐことが出来て、昨日の不足分をカバーすることが出来た。

 そして徐々に空が赤くなり始めたころ、前方の丘にスパルタが見えた。

 その風景はなぜかボクに強い違和感と郷愁を覚えるものだった。

 不思議に思いながらも、足を止めること無くスパルタの町並みを眺めながら、違和感と郷愁の原因を考えていた。

 !

 街をぐるりと囲む防壁が無い。

 そのことが原因だと気付くまで僅かな時間がかかった。

 岡の上に広がるスパルタは道と建物からなる街であった。

 それは万単位のすむ街として、古代ギリシアはでは極めて異例で、かつ21世紀の日本では当たり前の街の風景だった。

 それが違和感と郷愁の原因だった。

 悲しくないのに涙があふれ、遠くまで来たんだと実感させられた。

 変な話で、デルフォイやアテナイではそんな感情はまったく存在しなかった。

 まったく違う場所に来てしまったという感情が先にたっていたのかもしれない。

 でもスパルタには着く前に親近感を持ってしまった。

 それはビオスの記憶も関係しているのだろうか……

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