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コリントスと伝書鳩

 デマラトス王とクレオメネス王の確執というのは港の船員の間では有名で、すぐに噂を集めることができた。

 そこで得られた情報はエウリュポン王家のデマラトス王とアギス家のクレオメネス王はかなり深刻な対立に落ち込んでいるようであった。

 古くは今から14年前にアテナイのイサゴラスを僭主に就けようとして、アッテカに侵攻しようとして会戦直前にデマラトスが軍を引いたためにイサゴラスは僭主にならずにすんだ。

 どうも、この件はデマラトスにイサゴラスが裏で依頼して軍を引いてもらったようである。

 その後イサゴラスはデモスの改革を行うなどして、クレイステネスの改革として活躍が知られている。(イサゴラスはクレイステネスのドーリア名である。)


 そして今回アイギナ、ここはアテナイの海峡を挟んですぐにある島であるが、ペルシアに服属の兆しが現れたので、アテナイはスパルタにアイギナへの制裁を要請した。

 クレオメネスはそれを受け、親衛隊300人を引き連れ、アイギナに侵攻。

 アイギナにペルシャへの寝返りの首謀者引渡しを要求したが、スパルタ王が二人であるのに一人しか交渉にきてないことを理由にスパルタとしての要求と判断できないことで首謀者を引き渡さないと宣言、これがデマラトス王の入れ知恵だったと言われている。


 「これってけっこう危機的な状況じゃないだろうか?」

 ボクの頭を占めていたのは対ペルシア戦の状況である。

 主戦力の身内に不安定要素があるのはありがたくない

 「アーシア様、とりあえずアポロン神殿からアレティア様に伝書鳩を飛ばしてもらいましょう」

 ピュロスの進言により、スパルタへ向かうことを伝書鳩で伝えることにした。

 コリントスのアポロン神殿にはデルフォイのアポロン神殿の間には伝書鳩での連絡が確立されている。

 コリントスとデルフォイの距離は100km程度、2時間もあれば届く距離である。

 この距離なら訓練を重ねた鳩なら90%以上の確率で到着する。

 この連絡法の唯一の難点は後日の鳩の輸送と極薄の羊皮紙に金が掛かることだが、クレイステネスさんのおかげで資金に不自由はしていない。

 

 昼前に飛ばしたが驚くことに夕方には5羽の鳩が返事を運んで来た。

 「本日、使者としてクリサンテ神官を派遣したから行く前に打ち合わせるように……か」

 伝書鳩の連絡は圧倒的に早いが小さなリボンに書き込むため複雑な内容は書き込めない。

 鳩の失踪を考えると機密は書けないのである程度以上の重要事項は人間を派遣するのが一番早いということになる。

 「なにか、面倒に巻き込まれそうな予感がする」

 「アーシア様が感じられるならば、それは予感ではなく預言なのでしょう。もっとも今回は誰でもそう考えるでしょうが……」

 外れてほしいと思って口に出したが、そうだった。預言の巫女だった。

 周囲はそれを信用してしまうのか、不便である。愚痴がいえない。

 「クリサンテ様は神官長付きの神官、アテナイの意見も熟知しているはずです」

 ピュロスの意見を聞くと、さらに気が重くなった。

 スパルタだけでなく、アテナイもからんでくるのか……巨大ポリスの外交にがっつりはまり込んでるじゃないか。

 デルフォイの神託はとてつもない権限がある。

 たとえば、植民市を作るときには植民に向かう人を集めた後に出発の期日と進む方向は必ず神託で定められた。

 マルセーユやナポリができたのもデルフォイの神託の結果なのだ。

 ポリスの進む方向に不安があれば、まずデルフォイで神託を行って結果に沿って動こうとする。

 戦争や政権交代、ありとあらゆることがデルフォイで処理され指針が与えられている。


 こうやって見るとデルフォイって国連のシンクタンクに近い機能を持ってるんだな。

 で、そこの次期トップがボクか……そりゃあ、政治的な駆け引きに巻き込まれるのも当たり前だよな。

 

 「とりあえず、スパルタ以外の動性も再確認しよう。サンチョとコリーダは噂を集めてきて、ピュロスはメモを説明」

 3人に仕事を割り振りながら思ったのは(クリサンテ神官って誰だっけ?ピュロスは知ってるみたいだから会えばわかるか)程度である。

 愚痴も言えず、ボヤキもできない立場ってすごく疲れる。

 公的な立場が預言者ってのはなるもんじゃないよな。


 そうそう、そろそろ、公式名はアーシア・キリスト・テウと名乗り始めるか。

 元祖キリストのつもりだが、読みによっては「アーシア、神の子にして神」とも読めないことはないからテウはつけるかどうか微妙ではある。

 そのあたりもクリサンテさんと相談してみよう。

 たぶん、言ったらそのままの名前で通りそうな気はするんだけど……


 そんなことを考えながら、コリントスの神殿で眠ったその日の夜、ボクは奇妙な夢を見せられる羽目になった。

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