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コリントスへの航海

一番早い船の便は翌日ということで、キモン家(ミルティアデスの家名)の奴隷にリカヴィトスの館まで走ってもらいピュロスを呼び寄せることにする。

そのときにやはり居心地が悪いのかクレイステネスさんも昼前には帰ることになった。

二人が出て行った後にキモンにいろいろ話をせがまれて話し込んでいると、夕方になりピュロスがやってきた。

ピュロスの横には使いに出したキモン家の奴隷と一緒に、重そうな袋を背負い、うっすらと汗をかいたアルクメオン家の奴隷がいた。

彼とサンチョは友人らしく、彼が袋を僕に渡した後、クレイステネスさんの依頼で二人で貿易用市場エンボリウムに行く要請になっていた。その辺は受け取った袋に手紙が入っていたのでサンチョに手伝うように伝えた。

重そうな袋の中身だが・・・銀貨6000枚・・・・あの夕食のときのキトンの売り上げだそうだ・・・簡単に6000枚というが、1ドラクマ銀貨は4g位、つまり24kgもあるわけで・・・よく一人で運んできたよな。

ともあれ、明日出発するつもりで、このお金を使って、ピュロスとコリーダに旅の準備を買出しに出かけさせた。

二人は夕闇迫る中急いで買出しに回ってくれたようで、日没前には館に戻ってきた。

サンチョのほうは朝帰りだった・・・何を買い付けに行ってたやら・・・


翌日晴れ渡る空の下、夜明け前から、軍艦「ポセイドンの尻尾」号がコリントスのエーゲ海側の港ケンクレアイ目指して騒々しく出航準備をしていた。

ピレウス港はアテナイに附属した貿易港なので規模はヘレネスでも最大級を誇るが、ケンクレアイ港はそれを上回るというまさにヘレネス最大の港である。


これはコリントスの地理的条件が大きく関係している。

コリントスはデルフォイ、テーベが面したコリンティア湾とアテネ、アルゴスの面したエーゲ海に挟まれた地峡にできた町で、たとえばアテナイからデルフォイに向かうときには

アテナイ(ピレウス港)=海路=コリントス(ケンクレアイ港)=陸路=コリントス(レケオン港)=海路=デルフォイというルートが一般的である。

このコリントス地峡はわずか6kmしかないため、横断には急げば1時間しかかからない。

海路だけで行こうとするとペルポネソス半島をぐるりと廻ることになり、航路が一気に5倍以上に延びる。

商船という概念がないので海路にせざるを得ないほど貨物が重過ぎるということもなく、たいていがコリントスを通じて商品は捌かれる。

その上、陸路でもアルゴスやネメスとアテナイ・デルフォイ・テーゲを結ぶ街道が通っている。

古代ギリシアのヘレネス世界にとって交通の要衝中の要衝である。


アテナイにくるときは陸路だったのでコリントスを見る機会がなかったボクとしてはちょっとワクワクしながら期待しているのだが・・・トイレは期待できない・・・


でも船上では大小は海に直下するので、久しぶりの新鮮な潮風に気分は高まる一方である。


その航海でいくつか気づいた点がある。

彼らは決して陸が見えない沖を走ることはない。

陸がないと進んでいる方向がわからなくなることを異常に怯えている。

星や太陽も正確な時間がわからないと当てにはできない。ましてや曇れば無意味だ。


船に羅針盤も方位磁石もないとなると、目隠しして走るようなものだということは理屈ではわかっていたが、実感してみると大きく違う。

極端な話、直径1kmぐらいでグルグル廻っていたとしても、目印がなければ船乗りにも直進と違いはわからない。ましてやガレー船だ。

左右の漕ぐ力が完全に均一でなければ大きな曲線の航路を取る方が自然なのである。

陸が見えなくては補正することもできない。

20mのマストの上でも水平線は17kmぐらい、その範囲に陸がなければ航海できないのがこの当時の航海術の限界である。

サラミス島とサロニカ群島のおかげでコリントスまではどこも10km以内に陸地があるおかげで進むのに不自由はないが、20km以上何もないクレタ島は絶海の孤島だったろう。

それこそ後方の島で方向を確かめながら前方に島が現れるのを待つ・・・という大航海だったに違いない。

現代ならクレタからまっすぐ南に向かえばアフリカに着くといってもこの時代、船が真っ直ぐに走っている保証がどこにもない。

海の真ん中で迷子になれば餓死か水が無くなって死ぬかどちらかである。

それゆえにアフリカ航路は小アジアから中近東を通って沿岸沿いにエジプトに向かうのである。


夜陸、地に上がって煮炊きをして宿泊するために沖に出ないのではなく、沖に出れないので陸地で宿泊しても問題はないということだったようである。


「そのうち方位磁針ぐらいは作ろう。確かメソポタミアでは電池が作られていたはずだし、一瞬でいいなら錫と鉄とレモン汁でボルタ電池が作れるはずだ。鉄に高電圧かければ磁化できるはず。」


そんなことを悠長に考えながら、船旅を楽しんでいると、二日目にはサンクレアイ港が見えるところまできた。・・・ただし入港は水先案内人の関係で3日目の朝とのことで陸地に上がっての野営になった。


このときに船乗りたちがボクのことを神のイィオステゥと呼んでいたのだが訛りもあって「チィイストゥ」と聞こえたのだ。

キリスト?

そういえばイエスは名前だけどもキリストは預言者とかメシアとかのギリシア語読みのいわば職種とも言うべき名称だと、内村鑑三先生が書いてたな・・・


イエスはキリストであるが、イエス以外にもキリストは存在する。ゆえに偽キリストも存在するとかいてあったっけ・・・海外赴任用に習った宗教知識だから・・・あやふやではあるんだが・・・


でもいま500年近く本家キリストより先にいるんだから、こっちが元祖キリスト名乗ってもいいんじゃないかな?正に神託で預言する神の代弁者扱いだし・・・っそういえば元祖と神を示すギリシャ語が του θεού で一緒だ。何の偶然だこれ?


とりあえずコリントスで神聖娼婦のマリアに会ってからキリスト・テウと名乗ってみるか。

うまく広まればキリスト教の呼び名ぐらいは変えられるかもしれない。


あとは・・・アポロン神への誓いを仲介にした商契約の概念の布教だな。

熊野誓紙みたいに紙を使って紙に書いた約束は誓わせるようにして・・・破ったら日本の座のように神人が懲罰に行くみたいな形にすれば効果的だが・・・問題は神人を維持する資金か・・・貿易・・・クレイステネスさんと相談してみるかな。

取引材料としては「方位磁針」沖に逃げれば敵は追ってこないから・・・最強の防衛用品になりうるし・・・アテナイに戻ったらイオニア号に備品として装備するのも考えてみようか。

極楽よりは現世の利益、きっとイオニア人には受けるだろう。

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