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ミルティアデス

オウラの丘から戻ってきたときは日付が変わっていたと思う・・・体感なので確信はもてないが・・・

リカヴィトスの丘に向かう途中の小川で水浴をしたが、昼間ならともかく夜は涼しい時期だ、すっかり体が冷えてしまった。

その状態で宿舎に着いたので体が冷え切っていることを奴隷二人にばれてしまって、どっちが暖めるかで口論になりかけた。

幸い仔猫ホルスがいたので彼に懐炉役になってもらい、落着したのだが、彼を抱き枕にして程なく、夜明け前にクレイステネスさんから連絡がきた。

使者の話ではミルティアデス将軍が夜明けにピレウス港に入港することを知らせてきたらしい。

帰港後の将軍はとても忙しいはずなので、夜明け前にピレウスに行って一番目に用事を済ませないと予定が立たないかもしれないとの話だ。

納得できる理由であるし、ボクも彼にはマラトンの戦いについて話しておきたい。

ようやく温まりかけた体を無理やり動かし、新しいキトンに着替えた。

保温のために、キトンの上にヒマティオンと呼ばれる毛織物の外套をつけさせられた。

何か模様が入っていて結構派手である。


家を出るとすぐに馬を引いたサンチョがやってきた。


「クレイステネス様からアーシア様は騎乗をお願いされました。」

「わかった。」

そのままサンチョの手を借りて馬上の人となる。


「ピュロスは留守を頼む。サンチョとコリーダは護衛だ。一緒にきてくれ。」

「「はい」」


すぐに管理棟から人が出てきた。

「おーアーシア、ミルん家までたのまぁー」


あ、クレイステネスさんはこっちのモードか。

じゃあ俺に騎乗を頼んだのも目くらまし役っぽいな。

「コリーダ、アポロン神殿の旗はあるか?」

「今もってきます。」

そういうと宿舎に飛び込み、すぐさま一昨日使っていた三角旗を持ってきた。


「コリーダ先頭で旗を頼む。サンチョは横に。」

そういってクレイステネスさんに目配せする。

彼からOKの頷きが返ってきた。


「出発するぞー。」

そういうと彼はコリーダの横に並んだ。

「あいつんちはピレウス港にある。エンポリウムの横だ。」

「エンポリウム?」

「あー、貿易用の市場だ。去年まで黒海のポリス、ケルソネソスに住んでた。アテナイ来た時にゃあケルソネサスの僭主扱いだったぞ。」

・・・それで紹介状ではケルソネサスのミルティアデスと紹介されたのか。

「民会で将軍に選ばれている。実績もあるしな。」


ピレウス港までは南西に10km、約2時間かけての移動だ。

当然護衛がついている。全員が松明をもって周囲にぐるりと配置されている。


「そういえば、ヘラクレイトスとの話は終わったのかい?」

「ええ、昨晩。そうそう、ありがとうございました。ホルスには助けられました。」

「ああ、役に立って幸い、まあ気にすんな。ヘラクレイトスも楽しそうだったし。」

「楽しそう?ですか。」

「ああ、楽しんでた。それはまちげぇねぇ。」


広い道を、比較的速足で進んでいる上に街から離れると周囲はどんどん暗くなる。

騎乗なのと松明が多いおかげで野生動物&盗賊への恐怖はほとんど感じない。

「さまになってきたねぇ。」

「さまに・・・ですか?」

騎乗した俺の様子をクレイステネスさんがそう評する。

「ああ、ミルティアデスも気に入るだろうよ。」


ピレウスの港が見えてきたときには道沿いは真っ暗になっていたが、たぶん娼館であろう建物の明かりが明々と街の周囲まで照らしていた。

もうすぐ夜明けなのに・・・


門をくぐった瞬間、遠くから聞こえてきた歌や音楽が聞こえてきた。

「・・・なんというか。えらく派手ですね。」

「ああ、船乗りに女と酒はつきもんだし、金払いもいいからな。自然派手になる。」

俺の感想にクレイステネスさんが答えてくれた。

「あとこの感じだとミルティアデスは入港してるな。こりゃあ船乗りたちを迎える音楽や歌だ。

エトルリアから戻ってきた船乗り達か・・・アテナイは漕ぎ手も奴隷でなくメトイコイや無産市民だから1隻あたり200人の客ということになれば夜明けでも店を開けるのも道理だ。


きらびやかな飾り立てと音楽がようやく昇ってきた太陽に輝いていた。

「規模はカラメイコスの方が大きいが派手さと料金は圧倒的にこっちが上だな。」

「わかる気がします。」

「あっちだ。」

そういうと彼はさらに海に近い方に向かって歩いた。


埠頭ディグマの方に向かっていくと大きな館が見えてきた。

「あそこがあいつんちだ。」

そういうとクレイステネスさんは先頭をきって屋敷で声を上げた。


「デルフォイの予言巫女アーシア様、来訪。取次ぎを求めます。」

え?ああ、目立たない芝居やるの?・・・まあいいか。


屋敷がバタバタと騒がしくなる。

少したって先頭に飛び出してきたのはキモンだ。

「アーシアさん、いらっしゃい。どうぞ中へ。」

人懐っこい笑みを浮かべながら案内してくれた。


「キモン、朝早く、すまない。一刻も早く君の父上に会いたくてね。」


馬を降りて手綱をサンチョに渡すと歩いてキモンに近づく。


「父もあなたに会いたいようでしたから、何の問題もありません。」

彼はそういうと手招くように館の中に入った。


あれ?クレイステネスさんは?

いつの間にかコリーダに代わって旗を持ってる?やりすぎじゃない?


気にはなったがそのまま館の中に入った。


「君がアーシア君か、キモンが世話になった。」

そう語るミルティアデスさんは偉丈夫という言葉がふさわしいおとこだった。

潮焼けで黒光りする肌に浮き出るワイヤーを捩ったような筋肉・・・武人にしか見えない。

スパルタニアンなら間違いなく試合を申し込みたがるであろう雰囲気を纏っていた。


「初めましてミルティアデス様、デルフォイで巫女をしているアーシアと申します。アイオス神官長から、紹介を受けてこちらに参りました。」


そういうとアイオス神官長から預かっていた紹介状を渡した。

彼はそれを読むと、しばし考え込んで尋ねてきた。


「アイオスからは君がペルシアと戦争になりヘレネスが勝利するという神託をしたとあるが・・・本当かね?」


「それについて、詳しいことを話したくて来たのです。戦場になった場所、時間、そして戦法にいたるまで話しておこうときました。」


「なぜ私なのかね?」


「私が見た戦場ではあなたが将軍で指揮をとっていたからです。」


「なるほど、納得できる内容ではあるな。採用するとは言えないが聞こう。」

ちょっと待ってくれというと使用人に筆記具を用意させているらしい。


その間に俺の随行者を興味深そうに見ていた、そして旗を持つクレイステネスさんが映ったようだ。


ミルティアデスの表情が一変し怒りに燃えた。


「なにをしているアルクメオン家の狗!」


あ・・・もしかして・・・


「あっしはアーシア様の旗持ちのクレさんです。どうぞ気にせずに。」

クレイステネスさんは平気の平左で言い返しているが・・・室内の空気は一瞬で熱くたぎっていた。


「ぬけぬけと・・・アテナイに着いた瞬間ときの扱い、忘れたとでも思ったか!!」

やっぱり・・仲悪かったんだ・・・


「いえいえ、あの裁判は茶番だったじゃないですか。ほら、無罪でしたし。」

「理屈はわかるが・・・お前が嫌いなことは変わらん!!」


何の話??というかなんでこうなってるの?

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