北極星
すみません。私はアインシュタイン教徒です。
「ジーザス・・・???」
ボクは自分の言葉にふと考え込んだ。
「どうした、アーシア?」
「ちょっと、気づいたことがあって・・・」
もしジーザスが出現しなかったら・・・世界はどうなるのだろう?
「ユダヤ人ってどんな扱いになってます?」
「ペルシアにいる連中だな・・・普通に人頭税を払って暮らしてるはずだが?」
そういえばダレイオス王の頃ってペルシア王国はまさにコスモポリットの集まりだった。
急激に拡張したせいもあって国教であるゾロアスター教を強制されることもなく、王のほかはすべて奴隷といわれるほど王権が強いが、逆を言えば国民間の格差は逆転不可能ということもなく、王の裁定で貴族が奴隷行ということも普通に起きたし、王の目、王の耳と呼ばれる諜報組織が支配層の不正を見張っていたので、腐敗は少なかったらしい。
「・・・ローマ帝国に迫害されなければ・・・というか、今のうちにどこかに国を持たせるか、逆に追い払うかすれば・・・キリスト教は生まれない。そうなるとイスラム教も生まれない可能性が高い!」
「何ブツブツいってるんでぇ?」
ふと顔を上げれば心配そうなヘラクレイトスさんの顔が・・・
「ヘラクレイトスさんはユダヤ人のことをどう思いますか?」
「変な連中だな!」
ズバリ言い切った。やはりそういう認識なんだ。
「自分たちのわけのわからない神以外は神と認めず、神の決めたルールを守る。・・・神様ってのはそんなに堅苦しいものじゃない。もっと身近なもんだ。」
ギリシャ神話やローマ神話の体系ならそう感じるだろう。
全てはヤハウェという神が異常なのだ。
一神教といわれる存在は宗教において異端であると言えるほど数が少ない。
まずユダヤ教、次にユダヤ教キリスト派ともいえるキリスト教、最後にキリスト教を模倣して成立したイスラム教・・・すべて神はヤハウェである。
近代で宗教そのものが泥沼のような戦争を引き起こす原因になったのは、この神に対する周辺の解釈が原因であると言い切ってよい。
(キリスト教が発生できないようにするとこの世界はどうなるのだろうか?)
偶然というべきか、ボクは宗教界ではそれなりの地位を取得していると考えて良い。
ギリシャ神群の布教をするとこの世界はどのように変わっていくのだろうか?
「ヘラクレイトスさんは世界はどうなっているとお考えですか?」
「まあ、それなりに考えは持ってはいるが・・・そろそろ帰らないか?まあ、俺もフリーだから大丈夫ではあるんだが・・・」
ヘラクレイトスさんの呟きが耳に入った。
「あ!」
そうか、夜中に二人っきりで男が会うってそういうことを疑われても仕方がない世界だった。
「わかりました。とりあえず、帰りましょう。」
「臭いは途中で水浴びでもして落とすしかないが・・・」
彼はそこまで言うと口を閉じ、静かに丘を降り始めた。
最後は速足でかける寸前の速度で、丘を離れるとリカヴィトスの丘に向かって歩き始めた。
ほどなく丘の黒々とした影が星空を切り取るように聳えていたが、クレイステネスさんの館だけは灯りが灯っていて、北極星のようであった。
「さっきの話は内密にな、さすがに今の時世、親ペルシア派だと暴徒に襲われかねない。」
「はい、わかりました。」
しかしこの夜の話はボクにとっては得るものが大きい夜だった。
なんのためにここにいるのか。
何をすればいいのか。
全く五里霧中で流されるままに進んできたが、少なくとも自分にしかできそうもないことがあることが判った。
どのように進めばいいのかはまだ、思いつかないが・・・コリントスに向かいながら考えてみよう。
少なくとも0からの出発でないだけ自分にも向いてそうだ。